「『お客様なんだから我慢して』と従業員に言うのは、何が問題なのでしょうか?」
「トラブルを収めるため、とりあえず会社が全面的に謝るのはよくないのでしょうか?」
「カスハラの相談を受けた管理職が、最も避けるべき対応は何でしょうか?」
カスタマーハラスメント対策では、マニュアルや相談窓口を整備することだけでなく、実際に相談や被害が発生したとき、会社がどのように対応するかが極めて重要です。
制度が整っていても、現場で、
- 「お客様だから、そのくらい我慢して」
- 「あなたの接客にも原因があるのでは?」
- 「とにかく謝っておけばいい」
- 「大したことではないから様子を見よう」
- 「相談したことは他の人にも共有しておく」
といった対応が行われれば、カスハラ対策は機能しません。
さらに、相談した従業員が、
「相談したら評価が下がった」
「担当を外された」
「接客に向いていないと言われた」
と感じる職場では、次に被害を受けても相談しなくなる可能性があります。
厚生労働省の指針では、相談体制の整備だけでなく、迅速・正確な事実確認、被害者への配慮、再発防止、プライバシー保護、相談等を理由とする不利益取扱いを行わないことまで求めています。
この記事では、企業・経営者・人事担当者・管理職がカスハラ対応で避けるべき10のNG対応を、正しい対応とあわせて具体的に解説します。
結論|カスハラ対策は「顧客対応」だけではなく「社内対応」で失敗する
カスハラ対策というと、
「暴言を言う顧客に何と言うか」
「どの段階で電話を切るか」
といった顧客への対応ばかりに注目しがちです。
しかし、企業にとって同じくらい重要なのが、被害や相談を受けた従業員に会社がどう対応するかです。
顧客への対応が適切でも、相談した従業員を責める、相談を放置する、必要な配慮をしないといった社内対応をすれば、カスハラ対策は機能しません。
会社が作るべきなのは、
「悪質な顧客を排除する仕組み」
だけではありません。
従業員が安心して相談でき、相談後も守られる仕組みです。
企業がやってはいけない10のNG対応
NG1 「お客様だから我慢して」と従業員に耐えさせる
NG2 相談した従業員を最初から責める
NG3 相談を放置・先送りする
NG4 事実確認前に何でも全面謝罪する
NG5 顧客の言い分だけを聞いて判断する
NG6 何でもすぐ「カスハラ」と決めつける
NG7 担当者一人に最後まで対応させる
NG8 相談内容を必要以上に共有する
NG9 相談した従業員を不利益に扱う
NG10 一件処理して終わりにする
NG1|「お客様だから我慢して」と従業員に耐えさせる
最も避けたい対応の一つです。
顧客対応を行う仕事だからといって、従業員が社会通念上許容される範囲を超えた暴言・侮辱・威圧等まで当然に受忍しなければならないわけではありません。
厚生労働省の指針では、カスハラに対して毅然と対応し、労働者を保護する旨の方針を明確にすることが求められています。
避けたい言葉
「接客業なんだから、そのくらい我慢して。」
望ましい対応
「状況を確認します。必要であればここからは会社として対応します。」
NG2|相談した従業員を最初から責める
カスハラの相談を受けたとき、
「あなたの態度にも原因があるんじゃない?」
「もっと上手に対応できなかったの?」
と最初から相談者の責任を追及することは避けます。
もちろん、事実確認の結果、企業側の接客・説明・サービスに改善すべき点が見つかることはあります。
しかし、
会社側に改善点があるかどうかと、顧客の社会通念上許容される範囲を超えた言動を従業員が受けてよいかどうかは別問題です。
まず事実関係を確認し、その後必要な改善を考えます。
NG3|相談を放置・先送りする
「忙しいから後で」
「また何かあったら教えて」
と相談を放置するのも問題です。
厚生労働省の指針では、カスハラ事案について事実関係を迅速かつ正確に確認することが求められています。
特に、現在進行形で顧客対応が続いている場合には、上司・管理職による速やかな介入が必要になることがあります。
避けたい対応
「今日は忙しいから、また後で話を聞くよ。」
望ましい対応
「今も対応が続いていますか。まず安全と状況を確認します。」
NG4|事実確認前に何でも全面謝罪する
顧客対応では謝罪が必要な場合があります。
しかし、事実関係が分からない段階で、
「すべて当社が悪いです」
「ご要求には何でも応じます」
と約束することは避けるべきです。
顧客に不便・不快な思いをさせたことへのお詫びと、会社の法的責任や要求への対応を確約することは区別する必要があります。
一例
「ご不快な思いをされた点についてお詫びいたします。事実関係を確認したうえで、当社として対応をご案内いたします。」
NG5|顧客の言い分だけを聞いて判断する
顧客が強く主張しているからといって、その内容だけで従業員の責任を決めることは適切ではありません。
事実確認では、
- 相談した従業員の話
- 周囲の従業員の情報
- 対応記録
- 必要に応じた録音・録画等
- 可能な場合には顧客側の説明
などを確認します。
厚生労働省の指針でも、必要に応じて周囲の労働者から聴取したり、録音・録画などの客観的資料を確認したりすることが示されています。
NG6|何でもすぐ「カスハラ」と決めつける
従業員保護を重視するあまり、顧客からの厳しい苦情をすべてカスハラ扱いすることも避けなければなりません。
厚生労働省の指針では、顧客等からの苦情のすべてがカスハラに該当するわけではなく、社会通念上許容される範囲で行われたものは正当な申入れであるとされています。
たとえば、
- 商品に実際の不具合がある
- 企業側の説明に誤りがある
- 予約や契約内容と違う
- 合理的な改善・説明を求めている
といった場合には、顧客の申入れに理由がある可能性があります。
「従業員を守ること」と「正当な苦情を排除しないこと」は両立させる必要があります。
NG7|担当者一人に最後まで対応させる
「最初に受けた人が最後まで対応する」
という運用は、カスハラが疑われる事案では問題になることがあります。
厚生労働省の指針では、可能な限り労働者を一人で対応させず、必要に応じて管理監督者等が代わって対応することが対処例として示されています。
特に、
- 人格攻撃が続く
- 長時間化している
- 担当者が恐怖を感じている
- 権限を超える要求がある
場合には、速やかなエスカレーションが必要です。
NG8|相談内容を必要以上に共有する
カスハラ相談には、相談者本人の情報や心身の状態など、プライバシーに関わる情報が含まれる場合があります。
厚生労働省の指針では、相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、その旨を労働者に周知することが求められています。
そのため、
- 興味本位で同僚に話す
- 必要のない部署まで相談内容を共有する
- 相談者の心身の状況を不用意に広める
といった対応は避けます。
「誰が知る必要があるのか」を考えて情報共有することが重要です。
NG9|相談した従業員を不利益に扱う
これは非常に重要です。
厚生労働省の指針では、カスハラについて相談したことや、会社の事実確認等に協力したことなどを理由として、解雇その他の不利益な取扱いをされない旨を定め、従業員に周知・啓発することが求められています。
たとえば、
- 相談したことを理由に評価を下げる
- 「顧客対応能力がない」と決めつける
- 本人が望まない不利益な異動を行う
- 相談したこと自体を問題視する
といった運用は避けなければなりません。
相談したことで不利益を受けると感じる職場では、被害が表面化しなくなります。
NG10|一件処理して終わりにする
顧客が帰った、電話が終わった。
それだけでカスハラ対応が終了するわけではありません。
厚生労働省の指針では、事実確認・被害者への配慮に加えて、再発防止に向けた措置も求められています。
事案後には、
- なぜトラブルが発生したのか
- 会社側に改善点はなかったか
- 現場がどこで判断に迷ったか
- 上司への報告は機能したか
- 同じ顧客から再度連絡があった場合どうするか
- マニュアル・研修を見直す必要があるか
を振り返ります。
管理職が避けたい言葉・使いたい言葉
避けたい:
「接客なんだから仕方ないよ。」
使いたい:
「まず状況を確認します。必要なら私が対応を引き継ぎます。」
避けたい:
「あなたにも原因があったんじゃない?」
使いたい:
「まず何があったのか事実関係を確認しましょう。」
避けたい:
「そのくらいで相談しないで。」
使いたい:
「相談してくれてありがとうございます。今の状況を教えてください。」
避けたい:
「もう終わったことだから忘れて。」
使いたい:
「対応後の状態も確認したいので、必要なフォローを一緒に考えましょう。」
具体例で見る「悪い会社対応」と「適切な対応」
CASE 1|顧客に怒鳴られた従業員が相談
悪い対応:
「接客業なんだからよくあること。戻って対応して。」
適切な対応:
状況、安全、要求内容を確認し、必要に応じて管理職が対応を引き継ぎます。
CASE 2|従業員側にも説明ミスがあった
悪い対応:
「あなたが悪いんだから、暴言を言われても仕方ない。」
適切な対応:
説明ミスについては必要な改善・謝罪を行い、顧客の暴言・人格攻撃については別に評価します。
CASE 3|顧客から強い苦情が入った
悪い対応:
従業員に確認せず、「全面的にこちらが悪かった」と顧客へ回答する。
適切な対応:
顧客の主張と従業員側の事情、記録等を確認したうえで会社として回答します。
CASE 4|相談内容が職場で広まった
悪い対応:
管理職が「〇〇さんがカスハラで精神的に参っている」と必要のない人にまで話す。
適切な対応:
事案対応に必要な範囲で情報を共有し、相談者のプライバシーに配慮します。
正当なクレームをカスハラ扱いするのもNG
企業が従業員保護を強化することは重要です。
しかし、
「顧客が怒ったらカスハラ」
「強い苦情はすべてカスハラ」
という運用にすることも適切ではありません。
厚生労働省は、社会通念上許容される範囲の苦情については正当な申入れであり、カスハラには当たらないと明確にしています。
さらに、企業側の商品・サービス・接客などの問題が、顧客の言動の原因や背景となっている場合もあります。
その場合には、
カスハラ対応と同時に、企業側の問題を改善する視点
も必要です。
相談しにくい職場を作らないために
カスハラ対策で最も危険なのは、
「制度上は相談窓口があるのに、誰も相談しない」
という状態です。
その原因には、
- 相談した人が責められる
- 管理職が面倒そうな態度を取る
- 相談内容が周囲に漏れる
- 何も対応してくれない
- 相談後に不利益を受けると思われている
などがあります。
企業は、
「相談しても大丈夫」ではなく、「相談した方が会社として適切に対応できる」という文化を作ることが重要です。
企業のNG対応チェックリスト
□ 「お客様だから我慢して」と言っていないか
□ 相談者を最初から責めていないか
□ 相談を放置・先送りしていないか
□ 事実確認前に全面的な非を認めていないか
□ 顧客の言い分だけで従業員の責任を決めていないか
□ 正当な苦情までカスハラ扱いしていないか
□ 現場担当者を一人で対応させ続けていないか
□ 相談者の情報を必要以上に共有していないか
□ 相談を理由とする不利益な扱いがないか
□ 事案後の振り返り・再発防止を行っているか
よくある質問
Q. 従業員側にもミスがあったら、カスハラとして扱えませんか?
企業側や従業員側の問題は重要な判断要素ですが、ミスがあったからといって、社会通念上許容される範囲を超える暴言・脅迫・人格攻撃等が当然に許容されるわけではありません。それぞれを分けて確認します。
Q. 顧客の話を優先して聞くのは問題ですか?
顧客の話を聞くこと自体は必要です。ただし、顧客の主張だけで結論を出さず、相談者、関係者、記録等を確認して事実関係を整理することが重要です。
Q. 相談者に接客上の改善点を伝えてはいけませんか?
事実確認の結果、接客等に改善すべき点があれば、適切な方法で改善につなげることは必要です。ただし、カスハラ相談をしたこと自体を責めたり、不利益に扱ったりすることとは区別する必要があります。
Q. 相談内容を上司や人事に共有してよいですか?
事案対応に必要な関係者へ共有することはあり得ますが、相談者等のプライバシーに配慮し、必要な範囲で取り扱うことが重要です。
Q. 相談した従業員を顧客対応から外すのは不利益取扱いになりますか?
被害者を保護するために担当変更等を行うことが適切な場合もあります。本人の意向や事案の状況を踏まえた配慮と、相談したことへの制裁として不利益を与えることは区別して考える必要があります。
Q. 顧客の苦情をカスハラと判断しなかった場合、相談者にどう説明すべきですか?
単に「カスハラではない」で終わらせず、確認した事実、会社としての判断、必要な対応・改善、今後同様のことが起きた場合の相談方法等を丁寧に説明することが重要です。
まとめ|従業員を守る会社は「相談した人を孤立させない」
カスハラ対応で企業が避けなければならないのは、顧客への対応ミスだけではありません。
社内で、
- 我慢を強いる
- 被害者を責める
- 相談を放置する
- 事実確認をせず判断する
- 一人で対応させる
- プライバシーを守らない
- 相談者を不利益に扱う
といったことが起これば、カスハラ対策そのものへの信頼が失われます。
相談窓口を作ることより重要なのは、
相談した人が「相談してよかった」と思える対応をすることです。
正当な苦情には誠実に対応する。
企業側に問題があれば改善する。
そして、社会通念上許容される範囲を超えた言動から従業員を守る。
「顧客を敵にしない。従業員を一人にしない。」
この基本姿勢は、顧客への対応だけではなく、相談した従業員への社内対応にも貫くことが重要です。
参考資料
本記事は、厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)」、厚生労働省「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」その他の厚生労働省公表資料をもとに、一般社団法人パワーハラスメント防止協会が実務上理解しやすいよう整理・解説することを想定して作成しています。
具体的な事案については、事実関係、業種・業態、顧客との関係、従業員の状況、社内体制その他の事情によって対応が異なる場合があります。
