悪質なカスハラにはどこまで対応できる?警告・対応終了・出入り禁止・警察への相談まで解説

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悪質なカスタマーハラスメントに対して従業員を守りながら対応する管理職・責任者の場面

「何度説明しても同じ要求を繰り返す顧客には、対応を終了してよいのでしょうか?」

「悪質なカスハラを行う顧客に、出入り禁止を伝えることはできますか?」

「暴言や脅迫が続いた場合、どの段階で警察や弁護士へ相談すべきでしょうか?」

カスタマーハラスメント対策では、正当な苦情には誠実に対応することが大切です。

しかし、そのことと、社会通念上許容される範囲を超えた言動にいつまでも対応し続けなければならないことは同じではありません。

特に、

  • 必要な説明をしても同じ要求を執拗に繰り返す
  • 従業員への暴言・侮辱・脅迫が続く
  • 店舗や施設から退去しない
  • 暴力や物を投げるなどの危険な行為がある
  • 繰り返し来店・電話して従業員へ攻撃を続ける
  • SNS等を利用した脅迫的な言動がある

といった事案では、通常の顧客対応から一段階進んだ、組織としての対応が必要になる場合があります。

厚生労働省のカスタマーハラスメント防止指針でも、特に悪質と考えられるカスハラについて、企業があらかじめ対処方針を定め、実際にその対処を行うことができる体制を整備することが求められています。

この記事では、悪質なカスハラについて、警告、対応終了、退店、サービス提供の拒否、出入り禁止、警察への通報・相談、法務・弁護士との連携まで、企業がどのように考えればよいのかを順番に解説します。

結論|悪質なカスハラに「いつまでも対応する」必要はない

まず結論から確認しましょう。

企業が必要な説明や対応を行った後も、社会通念上許容される範囲を超えた要求や言動が続く場合、会社として対応を終了することや、事案に応じてさらに強い措置を検討することがあります。

カスハラ対策では、

「お客様だから最後まで話を聞かなければならない」

「納得してもらえるまで電話を切ってはいけない」

「何度来店されても対応しなければならない」

という考え方だけでは、従業員を守れない場合があります。

一方で、

最初から顧客を排除することがカスハラ対策ではありません。

正当な苦情には必要な説明・対応を行い、企業側に改善すべき点があれば改善する。

そのうえで、社会通念上許容される範囲を超えた言動が続く場合には、組織として境界線を示すことが重要です。

「特に悪質なカスハラ」とは?

「特に悪質」という言葉について、全国一律にすべての事案を機械的に分類できる基準があるわけではありません。

個別の事案について、

  • 言動の内容
  • 手段や態様
  • 継続性・執拗性
  • 危険性
  • 従業員への影響
  • 業務への影響
  • これまでの対応経緯

などを確認します。

たとえば、

  • 暴行・傷害につながる行為
  • 深刻な脅迫
  • 繰り返される人格攻撃
  • 何度説明しても続く過剰な要求
  • 長時間の居座り
  • 繰り返し店舗・施設へ来て同じ行為を行う

などでは、通常の苦情対応とは異なる対処が必要になる場合があります。

厚生労働省が示す悪質事案への対処例

厚生労働省のカスタマーハラスメント防止指針では、特に悪質と考えられるカスハラへの対処例として、次のようなものが示されています。

  • 暴行、傷害、脅迫など犯罪に該当し得る言動について警察へ通報する
  • 行為者に警告文を発出する
  • 法令の制限内で、商品の販売やサービス提供等を行わない
  • 店舗・施設等への出入りを禁止する
  • 民事保全法に基づく仮処分命令を申し立てる

ただし、これらをすべてのカスハラ事案で行うという意味ではありません。

業種・業態、契約関係、関係法令、事案の程度等に応じて、企業があらかじめ方針を定め、個別の事案で適切に判断する必要があります。

悪質なカスハラ対応は段階的に考える

安全上の緊急性がない場合、悪質なカスハラへの対応は、段階的に考えると整理しやすくなります。

STEP1 問題となる言動を警告する

STEP2 会社としての最終回答を明確にする

STEP3 対応を終了する

STEP4 必要に応じて退店・退去を求める

STEP5 事案に応じてサービス提供等の拒否を検討する

STEP6 特に悪質な場合は出入り禁止等を検討する

STEP7 犯罪に該当し得る場合は警察へつなぐ

STEP8 法的対応が必要な場合は法務・弁護士へつなぐ

ただし、暴力や重大な脅迫など緊急性が高い場合に、必ずSTEP1から順番に行う必要があるという意味ではありません。

安全確保が必要な場合には、安全を最優先します。

STEP1|問題となる言動を明確に警告する

まず、何が問題なのかを具体的に伝えます。

たとえば、

「ご要望については伺いますが、従業員への侮辱的な発言はお控えください。」

大声であれば、

「お話は伺いますので、大きな声での発言はお控えください。」

と伝えます。

重要なのは、

「あなたは悪質なカスハラ客です」

と相手そのものを分類することより、問題となっている具体的な言動と、求める行動を明確にすることです。

STEP2|会社としての最終回答を伝える

同じ要求が繰り返される場合には、会社としての回答を明確にします。

「ご要望については確認いたしました。当社としてご案内できる内容は、先ほどご説明した内容となります。」

あるいは、

「当社として対応できる内容は〇〇までとなります。これ以上のご要望にはお応えすることができません。」

といった形です。

曖昧な回答を繰り返すと、

「粘れば回答が変わる」

と受け取られ、対応が長期化することがあります。

STEP3|対応を終了する

厚生労働省の指針では、労働者から十分な説明を行ったにもかかわらず、繰り返し要求が続く場合について、一定の時間の経過をもって退店を求めたり、電話を切ったりすることが対処例として示されています。

重要なのは、

「何分経ったら法律上必ず切ってよい」という全国一律の時間基準ではない

ということです。

企業が自社の業種・業態、顧客対応の実態等に応じて、対応終了の基準・権限・手順をあらかじめ決めておく必要があります。

「当社として必要なご説明はさせていただきました。同じご要求が続いておりますので、当社の方針に基づき、これで対応を終了いたします。」

STEP4|退店・退去を求める

店舗・施設等で、必要な説明をした後も同じ要求を繰り返し、業務に重大な支障が生じている場合などには、会社の方針に基づいて退店等を求めることを検討する場合があります。

たとえば、

「当店として必要なご説明は行いました。これ以上同じ状況での対応を継続することはできませんので、ご退店をお願いいたします。」

という形です。

退店等を求める際は、現場担当者一人に判断させず、責任者、警備、本社等と連携できる体制を整えておくことが重要です。

STEP5|サービス提供等を行わない対応は?

厚生労働省の指針では、特に悪質なカスハラへの対処例として、法令の制限内において、行為者に対し商品の販売・サービスの提供等を行わないことが示されています。

ここで特に重要なのが、「法令の制限内において」という点です。

業種によっては、サービス提供や契約関係について特別な法令・制度・義務等が関係する場合があります。

したがって、

「カスハラをした人には、会社が自由にどんなサービスでも拒否できる」

と単純化してはいけません。

自社の業種、契約関係、関係法令等を確認し、必要に応じて法務担当者・弁護士等へ相談したうえで方針を整備します。

STEP6|出入り禁止はできる?

厚生労働省の指針では、特に悪質なカスハラへの対処例として、行為者に対して店舗・施設等への出入りを禁止することも示されています。

ただし、

カスハラに該当したら必ず出入り禁止にしなければならない、という意味ではありません。

事案の程度、これまでの経緯、再発可能性、業種・業態、契約関係、関係法令等を踏まえて判断します。

企業では、

  • 誰が出入り禁止を判断するのか
  • どの程度の事案を対象とするのか
  • どの範囲・期間とするのか
  • 本人へどのように通知するのか
  • 再来店した場合に誰が対応するのか
  • 法務部門へいつ相談するのか

などをあらかじめ検討しておくことが重要です。

STEP7|警察へ相談・通報する場合

暴行、傷害、脅迫など犯罪に該当し得る言動については、厚生労働省の指針でも警察への通報が対処例として明示されています。

たとえば、

  • 殴る・蹴るなどの暴力
  • 物を投げつける
  • 深刻な脅迫をする
  • 従業員や周囲の安全を確保できない

といった場合には、通常の接客対応を続けることより安全確保を優先します。

警察への連絡を「顧客を黙らせるための脅し文句」として使うのではなく、必要な場合に実際に相談・通報できる体制を作っておくことが重要です。

STEP8|法務・弁護士へ相談する場合

法的な判断や手続が必要になる場合には、現場や店長だけで判断しないことが重要です。

たとえば、

  • 高額な損害賠償要求
  • 継続的な脅迫
  • 出入り禁止等の措置を検討する
  • 執拗な電話・来訪が続く
  • SNS等を利用した深刻な攻撃がある
  • 法的通知・警告を検討する

といった事案では、社内の法務部門や弁護士等への相談を検討します。

厚生労働省の指針でも、法的な手続が必要な場合には、法務部門等と連携し、弁護士へ相談することが対処例として示されています。

仮処分など法的手続を検討する場合

厚生労働省の指針では、特に悪質なカスハラへの対処例の一つとして、民事保全法に基づく仮処分命令の申立ても示されています。

これは、通常の現場対応で気軽に行うものではなく、具体的な事案について法的な保護が必要となる場合に検討される手段です。

実際に法的手続を検討する場合には、個別の事実関係を整理し、弁護士等の専門家へ相談することが重要です。

SNS・ネット上での攻撃はどうする?

カスハラは店舗や電話だけで起こるものではありません。

SNS等のインターネット上で、

  • 従業員の個人情報を投稿する
  • 従業員個人を攻撃する投稿を繰り返す
  • 「SNSに晒す」などと脅して要求を通そうとする

といったケースも考えられます。

このような場合も、現場担当者個人にSNS対応までさせるのではなく、

  • 投稿内容の保存
  • 社内での情報共有
  • 広報・法務等との連携
  • 必要に応じた専門家への相談

を検討します。

悪質事案ほど記録が重要

警告、対応終了、出入り禁止、警察・弁護士への相談などを検討する事案では、これまでの経緯を正確に把握できる記録が重要になります。

少なくとも、

  • 日時・場所
  • 対応した従業員
  • 顧客の要求内容
  • 具体的な発言・行為
  • 会社が行った説明
  • 警告した内容
  • 対応終了を伝えた内容
  • 過去の同様事案
  • 録音・録画等の有無
  • 周囲の従業員等の状況
  • 本社・法務・警察等への相談内容

を、会社のルールに沿って記録します。

「非常に悪質だった」

だけではなく、

何を言い、何をし、会社が何を説明し、その後どうなったのか

を具体的に記録することが大切です。

具体例で見る悪質カスハラへの対応

CASE 1|十分説明しても同じ要求を繰り返す

担当者・管理職が会社としての回答を十分に説明したが、顧客が長時間にわたり同じ返金要求を繰り返している。

対応:会社としての最終回答を明確にし、あらかじめ定めた基準・手順に従って対応終了を検討します。

CASE 2|退店を求めても居座る

必要な説明を行い、対応終了と退店を求めたにもかかわらず、顧客が店舗内に居続け、従業員への言動を続けている。

対応:責任者・警備等と連携し、安全を確保します。事案の内容に応じて警察への相談・通報等を検討します。

CASE 3|暴力・脅迫がある

顧客が机を強く叩き、物を投げ、「家を調べるぞ」などと脅迫的な言動をしている。

対応:通常の顧客対応より従業員と周囲の安全確保を優先します。犯罪に該当し得る言動については警察への通報・相談を検討します。

CASE 4|繰り返し来店して同じ従業員を攻撃する

同じ顧客が複数回にわたり来店し、特定の従業員への侮辱・威圧を繰り返している。

対応:過去の対応履歴を整理し、従業員を行為者から引き離します。事案の程度等に応じて警告文、出入り禁止、法務・弁護士への相談などを検討します。

悪質事案で使う対応フレーズ

問題言動を警告する

「お申し出については伺いますが、そのような暴言・侮辱的な発言はお控えください。」

最終回答を伝える

「当社としてご案内できる内容は、これまでご説明した内容となります。」

次の措置を伝える

「同じ言動が続く場合には、当社の方針に基づき対応を終了いたします。」

対応を終了する

「必要なご説明は行いました。改善が見られませんので、これで対応を終了いたします。」

退店を求める

「当店としての対応は終了いたしましたので、ご退店をお願いいたします。」

これらは法令で定められた一律の文言ではありません。

企業ごとに、自社の業種・業態、施設環境、関係法令、社内方針等に応じた言い方を整備してください。

企業がやってはいけない対応

1.現場担当者一人に出入り禁止を決めさせる

強い措置ほど、判断権限と社内手順を明確にする必要があります。

2.警察を「脅し文句」として使う

必要性のない状況で相手を威圧するために持ち出すのではなく、安全確保や犯罪に該当し得る言動がある場合など、会社の方針に従って適切に連携します。

3.十分な事実確認をしないまま措置を決める

会社側の問題、これまでの説明、顧客の要求、具体的な言動等を整理します。

4.「カスハラだから何でも拒否できる」と考える

サービス提供等を行わないことについても、厚生労働省の指針は「法令の制限内において」としています。

5.被害従業員をそのまま対応させ続ける

悪質な事案ほど、一人で対応させず、被害者と行為者を引き離すなどの対応を検討します。

会社が事前に決めておくべきルール

悪質なカスハラへの対応は、実際に事件が起きてから考えるのでは遅い場合があります。

企業ではあらかじめ、

  • 「特に悪質」と判断する際の考え方
  • 誰が最終判断するのか
  • 警告を出す権限者
  • 対応終了を判断する権限者
  • 退店・退去を求める場合の手順
  • サービス提供等を行わない場合の判断手順
  • 出入り禁止を検討する手順
  • 警備への連絡基準
  • 警察への相談・通報基準
  • 本社・本部へのエスカレーション基準
  • 法務・弁護士へ相談する基準
  • 事案を記録する方法
  • 被害従業員を保護する方法

などを整理しておくことが重要です。

悪質なカスハラ対策で最も避けたいのは、「現場は対応をやめたいのに、誰も終了を決められない」という状態です。

会社として、どこから誰が判断するのかを明確にしておく必要があります。

よくある質問

Q. 同じ要求を何度もされたら、電話を切ってもよいですか?

厚生労働省の指針では、十分な説明を行った後も繰り返し要求が続く場合に、一定の時間の経過をもって電話を切ることが対処例として示されています。ただし、全国一律の時間基準ではなく、企業が実態に応じた手順を定めておくことが重要です。

Q. 「カスハラです」と判断したら出入り禁止にできますか?

一律にそうなるわけではありません。出入り禁止は特に悪質な事案への対処例の一つです。事案の程度、業種・業態、契約関係、関係法令その他の事情を踏まえて判断します。

Q. カスハラをした顧客へのサービス提供を断れますか?

厚生労働省の指針では、「法令の制限内において」商品販売やサービス提供等を行わないことが対処例として示されています。業種や契約関係によって必要な対応が異なるため、社内の法務部門や専門家等への確認が重要です。

Q. 暴言があったらすぐ警察へ通報すべきですか?

暴言のすべてについて一律に警察へ通報するということではありません。一方、暴行、傷害、脅迫など犯罪に該当し得る言動については、厚生労働省の指針でも警察への通報が対処例として示されています。安全上の危険がある場合は安全確保を優先します。

Q. 弁護士にはいつ相談すればよいですか?

法的手続や法的判断が必要となる場合、高額な請求、継続的な脅迫、出入り禁止等の強い措置を検討する場合などには、早めに法務部門や弁護士へ相談することが考えられます。

Q. 「SNSに書く」と言われたら悪質なカスハラですか?

その言葉だけで機械的に判断することはできません。発言の目的・内容・態様、要求との関係、脅迫性、実際の投稿内容等を総合的に確認します。

Q. 一度でも暴力があれば、段階的対応をしなければなりませんか?

危険性が高い場合に、通常の警告から必ず順番に進めなければならないという意味ではありません。従業員や周囲の安全確保を優先し、必要な連携・通報等を検討します。

まとめ|「毅然と対応する」を会社の仕組みにする

悪質なカスタマーハラスメントへの対応で重要なのは、

「現場担当者が勇気を出して断ること」

だけではありません。

企業として、

  1. 問題となる言動を警告する
  2. 会社としての最終回答を示す
  3. 必要なら対応を終了する
  4. 必要に応じて退店・退去を求める
  5. 特に悪質な事案への対処方針を定める
  6. 犯罪に該当し得る場合には警察へつなぐ
  7. 法的対応が必要なら法務・弁護士へつなぐ
  8. 被害従業員を守る

という仕組みを作ることです。

「毅然とした対応」とは、顧客と戦うことではありません。
会社として対応できる範囲と、許容できない言動の境界線を明確にすることです。

正当な苦情には誠実に向き合う。

会社側に問題があれば改善する。

しかし、悪質な言動から従業員を守る場面では、会社が前に出る。

「顧客を敵にしない。従業員を一人にしない。」

この基本姿勢を、警告、対応終了、本社・法務・警察等への連携まで含めた具体的な仕組みにすることが重要です。

参考資料

本記事は、厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)」、厚生労働省「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」その他の厚生労働省公表資料をもとに、一般社団法人パワーハラスメント防止協会が実務上理解しやすいよう整理・解説することを想定して作成しています。

警告、サービス提供の拒否、出入り禁止、警察への通報、法的手続等の具体的な可否・方法については、事案の内容、業種・業態、契約関係、施設の性質、関係法令その他の事情によって異なります。具体的な法的判断が必要な場合には、弁護士等の専門家へご相談ください。

参考: 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」

参考: 厚生労働省「あかるい職場応援団|カスタマーハラスメントとは」

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