「部下から『お客様に暴言を言われて怖い』と相談されたら、まず何をすればよいのでしょうか?」
「管理職は、どのタイミングで現場対応を引き継ぐべきでしょうか?」
「カスハラかどうか分からない段階でも、部下を対応から外してよいのでしょうか?」
カスタマーハラスメント対策では、現場従業員の対応力だけでなく、管理職・責任者がどのように介入するかが非常に重要です。
従業員が顧客から強い言動を受けているにもかかわらず、
「もう少し自分で対応して」
「接客業ならそのくらいあるよ」
「あなたの言い方にも問題があったのでは?」
と現場へ押し戻してしまえば、会社としてカスハラ対策の仕組みを整えていても十分に機能しません。
一方で、顧客から苦情があったというだけで、すぐに顧客を「カスハラ客」と決めつけることも適切ではありません。
管理職に求められるのは、
- 従業員の安全を確保する
- 必要に応じて対応を引き継ぐ
- 顧客の主張と要求を整理する
- 会社側の問題も含めて事実を確認する
- 問題となる言動には組織として対応する
- 被害を受けた従業員をフォローする
- 同じ事案を繰り返さないために情報を共有する
という役割です。
この記事では、部下からカスハラの相談を受けた管理職・責任者が、相談受付、現場介入、事実確認、顧客対応、被害者への配慮、記録、再発防止まで何をすべきかを順番に解説します。
結論|管理職の役割は「部下を現場に戻すこと」ではない
最初に、管理職として最も大切な考え方を確認しておきましょう。
カスハラが疑われる場面での管理職の役割は、「部下にもう少し頑張らせること」ではありません。
状況を把握し、必要であれば自ら対応を引き継ぎ、会社として従業員の安全と就業環境を守ることです。
厚生労働省の指針では、カスハラへの対処の例として、
- 労働者から管理監督者等へ直ちに報告し、その場の対応方針について指示を仰ぐこと
- 可能な限り労働者を一人で対応させないこと
- 必要に応じて管理監督者等が労働者に代わって対応すること
などが示されています。
つまり、管理職は「相談を受けるだけ」の立場ではありません。
必要な場面では、その場で判断し、現場へ介入する役割があります。
カスハラ対応における管理職の役割
カスハラ対応における管理職の役割は、大きく分けると次の5つです。
- 従業員を守る
- 事実を整理する
- 顧客対応の方針を決める
- 必要な部署へつなぐ
- 事後対応と再発防止を行う
このうち、どれか一つだけでは十分ではありません。
たとえば、顧客対応を引き継いでも、その後に被害を受けた従業員を放置すれば、適切な対応とはいえません。
反対に、従業員への配慮だけを行い、顧客との事実関係を確認しなければ、会社として正確な判断ができません。
管理職が行う7つのステップ
STEP1 部下から相談を受ける
STEP2 安全と心身の状態を確認する
STEP3 必要なら対応を引き継ぐ
STEP4 事実関係を迅速・正確に確認する
STEP5 顧客への対応方針を決める
STEP6 被害を受けた従業員に配慮する
STEP7 記録・共有・再発防止を行う
STEP1|部下から相談を受ける
従業員から、
「お客様に怒鳴られています」
「暴言が続いています」
「怖くて対応できません」
と相談された場合、まず話を聞きます。
このとき重要なのは、
最初から「それくらいカスハラではない」と否定しないこと
です。
管理職が相談を受ける段階では、まだ全ての事実が分かっていないこともあります。
まず、
- 今どのような状況なのか
- 顧客は何を求めているのか
- どのような言動があったのか
- 今も対応が続いているのか
- 担当者本人は対応を継続できる状態か
を確認します。
STEP2|まず安全と心身の状態を確認する
次に確認すべきなのは、顧客側ではなく従業員の安全と状態です。
特に、
- 暴力のおそれがある
- 顧客が従業員へ接近している
- 物を投げる、机を叩くなどの行為がある
- 深刻な脅迫がある
- 従業員が震えている、泣いている、強い恐怖を感じている
といった場合には、通常の顧客対応を続けることよりも安全確保を優先します。
「まだ話の途中だから」という理由で、危険な状態にある従業員をその場に残さないことが重要です。
STEP3|必要なら直ちに対応を引き継ぐ
次のようなケースでは、管理職が対応を引き継ぐことを検討します。
- 担当者個人への人格攻撃が続いている
- 顧客の要求が担当者の権限を超えている
- 同じ説明を繰り返しても状況が改善しない
- 対応が長時間化している
- 担当者の精神的負担が大きい
- 顧客が責任者との話を合理的に求めている
このとき、
「最後まで自分で処理できなかった」
と担当者に感じさせないことも重要です。
管理職への交代は失敗ではなく、会社の対応プロセスです。
STEP4|事実関係を迅速・正確に確認する
カスハラが疑われる事案では、事実関係を迅速かつ正確に確認することが重要です。
管理職は、
- 誰が
- いつ
- どこで
- 何を言った・行ったのか
- 何を要求しているのか
- 会社側は何を説明したのか
- 企業側にミスや問題があったか
- どの程度継続しているのか
を整理します。
このとき、
「ひどい客だった」
という評価だけではなく、
「『無能』『辞めろ』という発言を繰り返した」
「机を3回強く叩いた」
など、可能な限り具体的な事実を確認します。
STEP5|顧客への対応方針を決める
事実を整理したら、会社としての対応方針を決めます。
たとえば、
- 必要な説明を続ける
- 会社側のミスについて謝罪・是正する
- 要求できない内容を明確に断る
- 暴言等を控えるよう警告する
- 対応を終了する
- 退店を求める
- 本社・法務へ相談する
- 警備・警察へつなぐ
などです。
大切なのは、担当者個人に判断させるのではなく、管理職が会社の方針として判断することです。
STEP6|被害を受けた従業員に配慮する
顧客対応が終わったからといって、カスハラ対応が終わるわけではありません。
厚生労働省の指針では、カスハラの事実が確認された場合、速やかに被害者に対する配慮のための措置を行うことが求められています。
管理職は、たとえば、
- いったん業務から離れて休憩させる
- 担当を交代する
- 同じ顧客との接触を避ける
- 本人の心身の状態を確認する
- 必要に応じて相談窓口や産業保健スタッフ等につなぐ
- 今後の対応について本人に説明する
など、会社の体制に応じた配慮を検討します。
「対応は終わったから、もう大丈夫だろう」と決めつけないことが重要です。
STEP7|記録・共有・再発防止を行う
事案終了後は、必要な記録と情報共有を行います。
たとえば、
- 顧客の要求内容
- 具体的な問題言動
- 会社側の対応
- 警告・対応終了の有無
- 従業員への影響
- 本社・法務等への報告
- 次回同じ顧客から連絡があった場合の対応方針
などを整理します。
そして、
「なぜ今回の対応が長期化したのか」
「現場はどこで迷ったのか」
「マニュアルや権限設定に問題はなかったか」
を振り返り、再発防止につなげます。
カスハラか確定していなくても介入してよい?
はい。
管理職が現場へ介入するために、
「これは法的にカスハラだ」と確定するまで待つ必要はありません。
管理職が現場へ介入する理由は、カスハラ認定だけではないからです。
たとえば、
- 担当者の権限を超えている
- 顧客とのやり取りが長時間化している
- 担当者が強い精神的負担を受けている
- 安全上の懸念がある
といった時点で、組織として対応を引き継ぐ必要があります。
事実確認で何を聞く?
事後の事実確認では、相談者に負担をかけ過ぎないよう配慮しながら、必要な情報を整理します。
具体的には、
- いつ起きたか
- どこで起きたか
- 誰が対応していたか
- 何がきっかけだったか
- 顧客は何を要求したか
- 具体的にどのような言葉・行為があったか
- どのくらい続いたか
- 会社側は何を説明・対応したか
- 周囲に見聞きした人がいるか
- 録音・録画等があるか
- 本人の心身にどのような影響があったか
などを確認します。
録音・録画・第三者の証言はどう扱う?
厚生労働省の指針では、必要に応じて、
- 周囲の労働者から事実関係を聴取する
- 録音・録画等の客観的な証拠を確認する
といった方法も示されています。
その際には、個人情報の適切な取扱いなど、関係法令や社内ルールを踏まえて対応する必要があります。
記録がある場合でも、一部分だけを切り取るのではなく、前後の状況も含めて確認することが重要です。
顧客本人からも話を聞く必要がある?
必ずしも、すべてのケースで顧客本人から事情を聴取できなければならないわけではありません。
厚生労働省の解釈資料では、まず相談者から事実関係を確認し、必要かつ可能な場合には行為者からも事実関係を聴取することが考えられるとされています。
たとえば、顧客がすでに立ち去り、連絡先も分からない場合にまで、顧客本人からの確認を必須とするものではありません。
必要に応じて、
- 相談者の話
- 周囲の従業員
- 対応記録
- 録音・録画等
を用いて事実関係を整理します。
管理職がやってはいけない対応
1.「接客業だから仕方ない」で終わらせる
従業員が相談する意味を失い、次から報告しなくなる可能性があります。
2.すぐ担当者の責任を追及する
担当者の対応に改善点があるかどうかの確認は必要ですが、相談を受けた瞬間から、
「あなたにも原因がある」
と責めることは避けます。
3.「もう少し頑張って」と現場へ戻す
対応者の交代が必要な状況であれば、管理職が介入します。
4.顧客の言い分だけを聞いて謝罪する
事実確認前に従業員の非を断定すると、本人の信頼を損ねる可能性があります。
5.何でも「カスハラ」と決めつける
会社側のミスや顧客の正当な苦情についても確認が必要です。
6.事案を記録しない
同じ顧客から同様の言動が繰り返された場合に、組織として過去の経緯を把握できなくなります。
具体例で見る管理職対応
CASE 1|部下が顧客から怒鳴られている
担当者が「怖いので代わってください」と申し出た。
管理職:まず担当者をその場から離し、顧客の要求とこれまでの対応内容を簡潔に確認したうえで、必要に応じて管理職が引き継ぎます。
CASE 2|会社側にもミスがある
予約ミスがあり、顧客が強く抗議しながら担当者を侮辱している。
管理職:予約ミスについては会社として謝罪・是正します。一方、担当者への人格攻撃については控えるよう明確に伝えます。
CASE 3|同じ要求が長時間続く
担当者と管理職が十分説明したにもかかわらず、同じ返金要求が繰り返されている。
管理職:会社としての最終回答を明確に伝え、あらかじめ定めた基準に沿って対応終了や退店・電話終了等を検討します。
CASE 4|暴力・脅迫のおそれがある
顧客が机を叩きながら「ただでは済まさない」と発言している。
管理職:通常の接客よりも従業員・周囲の安全確保を優先し、警備、本社等へ連絡し、犯罪に該当し得る言動については警察への相談・通報を検討します。
部下への声かけ・顧客への対応フレーズ
部下から相談を受けたとき
「分かりました。まず状況を確認します。今は無理に一人で対応を続けなくて大丈夫です。」
対応を引き継ぐとき
「ここからは私が対応します。これまでの経緯だけ簡単に教えてください。」
部下をその場から離すとき
「ここは私が引き継ぎますので、いったん離れてください。」
顧客に管理職として対応するとき
「責任者の〇〇です。これまでのお申し出内容を確認しております。改めて当社として対応いたします。」
侮辱的な言動を控えてもらうとき
「お申し出については伺いますが、従業員個人への侮辱的な発言はお控えください。」
最終回答を伝えるとき
「確認した結果、当社としてご案内できる内容は〇〇となります。」
対応を終了するとき
「当社として必要なご説明は行いました。同じご要求が続いておりますので、当社の方針に基づき、これで対応を終了いたします。」
本社・法務・警察へつなぐ場面
管理職だけで全ての案件を処理する必要はありません。
厚生労働省の指針では、
- 現場対応が困難な場合は本社・本部等へ情報共有して指示を仰ぐ
- 法的な手続が必要な場合には法務部門等と連携して弁護士へ相談する
- 暴行、傷害、脅迫など犯罪に該当し得る言動については警察へ通報する
といった対応例も示されています。
たとえば、
- 高額な損害賠償要求
- 出入り禁止等を検討する悪質事案
- 継続的な脅迫
- SNS等を使った深刻な攻撃
- 暴力・傷害のおそれ
- 法的な回答が必要な案件
などは、管理職一人で抱え込まず、適切な部署へつなぎます。
会社が管理職に与えるべき権限
管理職研修をしても、
「結局、何も決める権限がありません」
という状態ではカスハラ対策は機能しません。
企業は管理職に対して、
- 担当者を交代させる権限
- 問題言動への警告を行う権限
- 対応終了を判断する範囲
- 退店等を求める際の判断基準
- 本社へエスカレーションする基準
- 警備・警察への連絡基準
- 法務へ相談する基準
などを明確にしておく必要があります。
管理職に必要なのは「責任」だけではありません。現場を守るために必要な「権限」と「判断基準」を会社が与えることが重要です。
よくある質問
Q. 部下が「カスハラです」と言ったら、すぐ顧客対応を終了すべきですか?
一律に終了するという意味ではありません。まず安全や本人の状態を確認し、必要に応じて管理職が引き継ぎ、事実・要求内容・言動を確認したうえで会社として対応を判断します。
Q. 部下にも接客上のミスがあった場合は?
従業員側に改善すべき点があれば、その点は別途確認し、必要な指導や改善を行います。ただし、従業員にミスがあったことと、人格攻撃や暴力等が当然に許されることは別問題です。
Q. 管理職が相談窓口になってもよいのですか?
添付の厚生労働省解釈資料では、カスハラはその場ですぐ相談することや、現場状況に精通した上司等へ相談することが適切な場合があるため、労働者の上司に当たる管理監督者等を相談担当者として定めることも考えられるとされています。
Q. 顧客本人から話を聞けない場合は事実確認できませんか?
必ずしもそうではありません。相談者から確認したうえで、必要に応じて周囲の従業員や録音・録画などを確認する方法があります。顧客本人への聴取は「必要かつ可能な場合」に行うことが考えられます。
Q. 管理職が顧客に謝罪すると、会社が全面的に非を認めたことになりますか?
状況に応じて、顧客に不便や不快な思いをさせたことへのお詫びと、法的な責任を認めることは区別して考える必要があります。事実関係や法的判断が不明な事項について、その場で安易に確約しないことが重要です。
Q. 被害従業員が「もう大丈夫」と言えばフォローは不要ですか?
本人の意向は重要ですが、事案の程度や状況を踏まえて必要な配慮を検討します。事案直後には平静に見えても、その後に心身への影響が表れる場合もあるため、会社の体制に応じた確認・フォローが重要です。
Q. 管理職自身が対応してカスハラを受けた場合は?
管理職も労働者として保護の対象となり得ます。「管理職だから一人で耐える」という仕組みにせず、上位管理職、本社、相談窓口、法務等へつなぐ仕組みが必要です。
まとめ|良い管理職は「部下に耐えさせない」
カスタマーハラスメント対策において、管理職は非常に重要な役割を担います。
部下から相談を受けたら、
- まず相談を受け止める
- 安全と本人の状態を確認する
- 必要に応じて対応を引き継ぐ
- 事実関係を迅速・正確に確認する
- 会社として顧客への対応方針を決める
- 被害従業員への配慮を行う
- 記録・情報共有・再発防止につなげる
という流れが重要です。
「お客様対応だから、もう少し我慢して」ではなく、
「ここからは会社として対応する」と言える管理職を育てる。
もちろん、顧客の正当な苦情には誠実に対応し、会社側に問題があれば改善する必要があります。
一方で、そのことを理由に従業員へ暴言・侮辱・威圧・過剰な要求等を一人で受け続けさせない。
「顧客を敵にしない。従業員を一人にしない。」
この考え方を現場で実行する中心人物が、管理職・責任者です。
参考資料
本記事は、厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」、厚生労働省「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」その他の厚生労働省公表資料をもとに、一般社団法人パワーハラスメント防止協会が実務上理解しやすいよう整理・解説することを想定して作成しています。
具体的な事案については、個別の事実関係、業種・業態、危険性、顧客との関係、社内体制その他の事情によって対応が異なる場合があります。
