パワハラ調査における事実確認と弁明の機会の違いを企業実務から徹底解説

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【パワハラ加害者更生・再発防止シリーズ】
パワハラ調査における事実確認と弁明の機会の違いを企業実務から徹底解説

パワハラ調査における事実確認と加害者への弁明の機会は、目的も役割も異なる重要な手続きです。本記事では企業の人事担当者・管理職向けに、両者の違い、適正手続の考え方、厚生労働省の指針や実務上の留意点を踏まえ、公正な調査を実現するための具体的なポイントを詳しく解説します。

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パワーハラスメントに関する相談を受けた際、多くの企業では被害申告者や関係者への聞き取りを実施し、「事実確認は終わった」と判断して調査を終了してしまうケースがあります。しかし、その対応だけでは調査として十分とはいえません。

厚生労働省の「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題へ適切に対応するための指針」では、相談後には迅速かつ正確な事実確認を行うことが求められています。一方で、企業がその結果を踏まえてパワーハラスメントの有無を判断し、懲戒処分や配置転換などの人事上の措置を検討するのであれば、調査全体として公平性を確保する姿勢も欠かせません。

現場では、「本人にも話は聞いた」「事情聴取は済ませた」という理由から、それが弁明の機会を与えたことになると理解されている場面が少なくありません。しかし、事実確認のための聞き取りと、本人が自らの認識や事情を説明する弁明の機会は、目的も位置付けも異なる手続です。この違いを理解せずに運用すると、調査結果そのものの信頼性が損なわれ、企業の判断が後の労働審判や訴訟で問題視される可能性があります。

また、「説明を求めたら反論ばかりだった」「反省していない印象を受けた」という担当者の主観によって、弁明内容を適切に評価できていない事例も見受けられます。企業に求められるのは、結論ありきで調査を進めることではなく、双方に必要な手続を保障し、客観的な証拠に基づいて判断することです。

本記事では、一般社団法人パワーハラスメント防止協会が、人事担当者、経営者、管理職、調査担当者が理解しておきたい「事実確認」と「弁明の機会」の違いを整理するとともに、公正なパワハラ調査を実現するための実務上のポイントを詳しく解説します。

 

パワハラ調査は、調査手法を誤ると被害者・行為者双方との信頼関係だけでなく、企業のリスクマネジメントにも大きく影響します。社内調査体制や運用方法について専門家へ相談したい場合は、一般社団法人パワーハラスメント防止協会へお問い合わせください。

 

結論|事実確認と弁明の機会は目的がまったく違う

パワハラ調査では、「相手から話を聞く」という共通点があるため、事実確認と弁明の機会が混同されがちです。しかし、両者は目的が異なるため、企業は別の工程として設計しなければなりません。この違いを理解しているかどうかで、調査の公正性や処分の適法性に対する評価は大きく変わります。

特に、人事担当者や調査担当者は、聞き取りの目的を明確にしたうえで調査を進める必要があります。どの段階で何を確認するのかを整理せずに面談を実施すると、必要な情報が不足したまま結論を導き出してしまい、後から調査手続そのものに疑問が生じることもあります。

 

事実確認とは「事実を集めるため」の手続き

事実確認とは、発生した出来事を客観的に把握するための調査活動を指します。ここで確認するのは、「何が起きたのか」「誰がその場にいたのか」「いつ発生したのか」「どのような証拠が存在するのか」といった事実関係です。担当者自身の印象や評価を交えることなく、証拠を収集し、事実を積み重ねていく工程である点が大きな特徴です。

企業では、被害申告者への聞き取りだけで調査を終えてしまうことがありますが、本来は関係者へのヒアリング、メールやチャットの履歴、勤怠記録、防犯カメラ映像、会議資料など、利用可能な客観的資料も含めて総合的に確認する必要があります。証言だけに依存すると、記憶違いや認識の相違がそのまま事実として扱われる危険性があるためです。

また、事実確認は「誰が正しいか」を決める場ではありません。調査担当者が早い段階で結論を持ってしまうと、その結論に合う証拠ばかりを集める偏った調査になりやすくなります。実務では、仮説を立てることはあっても、その仮説を裏付ける証拠だけではなく、否定する証拠も同じように確認する姿勢が求められます。

厚生労働省の指針でも、相談後には迅速かつ正確な事実確認を実施し、被害者・行為者双方から事情を確認することが示されています。ここでいう「事情を聞く」とは、あくまで事実を把握するための調査であり、この段階だけで本人の防御権を十分に保障したことにはなりません。

 

弁明の機会とは「評価・処分の前に本人の説明を聞くため」の手続き

弁明の機会とは、企業が一定程度事実関係を整理した後、本人に対して調査結果や認定の前提となる内容を示し、自らの認識や事情を説明する機会を保障するための手続です。事実確認と異なり、ここで重視されるのは証拠収集そのものではなく、公平な手続を確保することにあります。

実際の企業では、「その発言をした理由は何か」「認識違いはなかったか」「当時の状況として補足したい事情はあるか」「提出したい資料や証拠はないか」といった内容を確認します。調査担当者は本人の説明を途中で遮ったり、反論を封じたりするのではなく、最後まで聞き取ったうえで客観的証拠との整合性を検討しなければなりません。

この手続が重要視される理由は、企業が行う調査には、その後の懲戒処分、配置転換、指導、教育、研修命令など、本人の権利や職場での立場に影響する判断が伴う場合があるためです。本人が十分な説明を行う機会を与えられないまま不利益な処分が決定された場合、調査そのものの公正性が争点となる可能性があります。

弁明の機会は、加害者を擁護する制度ではありません。企業が適正な手続を尽くしたことを示すための重要な工程であり、結果として被害者保護の実効性や調査結果に対する組織全体の信頼性を高める役割も果たします。

 

なぜ企業は「事実確認だけ」で終わってしまうのか

パワハラ相談への対応経験が少ない企業ほど、「関係者全員から話を聞いたので調査は完了した」と考えがちです。しかし、実務ではその認識が後のトラブルにつながるケースが少なくありません。

背景には、事実確認と弁明の機会という異なる手続を区別して学ぶ機会が少ないことや、被害者保護を最優先するあまり調査全体の適正手続が十分に理解されていない現状があります。ここでは企業で特に起こりやすい三つの要因について整理します。

 

「聞き取り=弁明」と勘違いしている

企業の調査担当者が最も陥りやすい誤解は、「本人から事情を聞いたのだから、弁明の機会も与えたことになる」という考え方です。しかし、初回の聞き取りは、多くの場合、事実関係を把握するための調査に過ぎません。

初回面談では、相談内容を把握するために「その発言はありましたか」「その場には誰がいましたか」「どのような経緯でしたか」といった質問が中心になります。この段階では調査担当者自身も事実関係を十分に把握しておらず、他の関係者から得られる証言や客観的証拠もまだ出そろっていません。そのため、本人がどのような認定を受ける可能性があるのか、どの証拠が問題視されているのかを理解したうえで説明する状況にはありません。

一方、弁明の機会は、事実関係がおおむね整理された後に実施されます。企業が把握した証拠や証言を踏まえ、「このような認定を予定しているが説明したいことはあるか」「提出したい資料はあるか」と確認することで、初めて本人は十分な説明を行えます。

この違いを理解せず、「最初に聞いたから終わり」と判断すると、防御権を十分に保障していないと評価される可能性があります。特に懲戒処分を伴う案件では、聞き取りの回数ではなく、それぞれの面談がどの目的で実施されたのかが重要になります。

 

被害者保護を優先するあまり加害者の権利を軽視してしまう

パワハラ相談では、被害申告者の安全確保や心理的負担への配慮が最優先となります。相談直後には配置の見直しや接触制限などの措置が必要になる場合もあり、企業として迅速な対応が求められます。

しかし、被害者保護を重視することと、相手方の説明機会を認めないことは同じではありません。両者は対立する概念ではなく、どちらも公正な調査を実現するために必要な要素です。

実際には、「本人に内容を伝えると被害者が不安になる」「説明させると被害者への配慮が足りないと思われる」といった理由から、十分な弁明の機会を設けないまま処分を決定してしまう例があります。しかし、その結果として処分の正当性が争われれば、企業は「適正な調査を尽くしたか」という別の問題にも直面します。

企業が目指すべきなのは、一方だけを優先する調査ではありません。被害申告者の保護措置を講じながらも、調査手続そのものは中立性を維持し、双方の話を適切に確認する体制を整えることです。この姿勢があることで、最終的な判断に対する社内外の信頼も高まります。

一般社団法人パワーハラスメント防止協会でも、パワハラ対応では被害者保護と適正手続の双方を両立させる運用が重要であるとの考え方に基づき、企業向けの支援や助言を行っています。

 

調査担当者が「弁明=言い訳」と受け止めてしまう

実務上、近年特に問題となっているのが、調査担当者自身の受け止め方です。本人が事情を説明すると、「まだ言い訳をしている」「反省が見られない」と評価してしまうケースがあります。

しかし、弁明とは本来、自らの認識や経緯を説明するための制度です。本人が当時の状況を説明すること、認識の違いを述べること、追加資料を提出することは、手続上認められる当然の権利であり、それ自体を否定的に評価することは適切ではありません。

調査担当者が最初から「言い訳だ」という前提で話を聞くと、その後に提出された資料や証拠についても公平に評価できなくなるおそれがあります。これは確認バイアスと呼ばれる心理的傾向にもつながり、一度形成した結論に合う情報ばかりを重視してしまう原因になります。

調査では、本人の説明を採用するかどうかと、説明する機会を保障することは区別して考える必要があります。説明内容が客観的証拠と一致しなければ採用されないこともありますが、それは証拠評価の問題であり、「説明したこと」自体を不利益に扱う理由にはなりません。

企業は調査担当者に対して、公平な聞き取り技法や証拠評価の考え方を教育することが重要です。社内だけで対応が難しい場合には、外部専門家による研修を活用し、調査担当者の判断基準を統一することも有効です。

 

「事実確認」と「弁明の機会」の違いを比較するとよく分かる

ここまで説明した内容を整理すると、事実確認と弁明の機会は、実施する目的もタイミングも役割も異なることが分かります。実務では、この違いを担当者全員が共通認識として持つことが、調査品質の向上につながります。

以下の表は、企業が調査フローを設計する際に確認しておきたい主な相違点をまとめたものです。

項目 事実確認 弁明の機会
目的 客観的な事実を収集する 本人の説明権を保障する
実施時期 調査開始直後から継続的に実施 事実関係がおおむね整理された後
確認内容 発生日時・場所・証拠・証言 事情説明・認識・反論・補足資料
重視する視点 客観性・証拠 公平性・適正手続
担当者の姿勢 事実を集める 評価を急がず説明を保障する
成果 事実認定の基礎資料 最終判断の妥当性を補強する資料

このように整理すると、「話を聞く」という行為だけでは両者を区別できないことが分かります。重要なのは、何を目的として面談を実施しているのかという点です。

企業の調査フローでは、「相談受付」「事実確認」「証拠整理」「弁明の機会」「事実認定」「対応措置」という流れを意識することで、それぞれの工程が明確になります。この工程管理ができている企業ほど、調査結果に対する社内の納得感も高まり、後の紛争リスクも低減しやすくなります。

調査体制や面談手順を見直したい企業は、実際の調査フロー全体を専門家と確認することが重要です。制度設計から運用改善まで相談したい場合は、一般社団法人パワーハラスメント防止協会の支援を活用することも有効です。

 

なぜ弁明の機会が必要なのか

事実確認と弁明の機会を区別して実施する必要性は理解できても、「実際にそこまで行う必要があるのか」と疑問を持つ担当者は少なくありません。

しかし、弁明の機会は単に本人の意見を聞くためだけの制度ではなく、事実認定の精度を高めるとともに、企業が公平な調査を尽くしたことを示す重要な工程です。ここでは企業実務において特に重要となる三つの理由について詳しく解説します。

 

理由① 誤認や思い込みを防ぐため

パワーハラスメントの相談では、当事者双方の認識が一致しないことは決して珍しくありません。同じ出来事であっても、一方は人格否定と受け止め、もう一方は業務上の指導であったと認識している場合があります。どちらか一方の説明だけで結論を導くと、事実認定そのものを誤る可能性があります。

実際の調査では、複数の証言を照合した結果、被害申告の内容と客観的事実が一部異なっていたり、逆に行為者本人が認識していなかった発言が第三者証言やチャット履歴によって裏付けられたりすることもあります。このように、調査は「誰の話を信じるか」ではなく、「どの証拠が事実を裏付けるか」という視点で進めなければなりません。

弁明の機会を設けることで、本人から追加資料が提出されたり、新たな関係者の存在が判明したりするケースもあります。当初は確認されていなかったメールや会議資料、録音データなどが提出されることもあり、それによって事実認定が修正されることもあります。

企業として重要なのは、「すでに結論は決まっている」という姿勢ではなく、新たな事実が確認された場合には柔軟に評価を見直すことです。その姿勢が調査の信頼性を高め、結果として組織全体の納得感にもつながります。

 

理由② 処分の適正性を担保するため

企業がパワハラを認定した後には、注意指導、配置転換、降格、懲戒処分など、本人に一定の不利益を伴う措置を講じる場合があります。その際には、処分内容だけではなく、「どのような手続を経て判断したのか」も重要な評価対象となります。

労働契約法では、懲戒権の行使が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には無効となる旨が定められています。処分の妥当性を判断する際には、認定された事実だけではなく、調査過程や本人への説明機会がどのように確保されていたかも実務上の重要な検討要素となります。

もちろん、法律上すべてのケースで弁明の機会が義務付けられているわけではありません。しかし、不利益処分を予定しているにもかかわらず、本人に説明の機会をほとんど与えないまま結論を出せば、「十分な調査を尽くしていない」と評価される可能性は高まります。

そのため企業では、最終判断を行う前に本人へ調査結果の概要を示し、補足説明や追加資料の提出機会を設ける運用が望まれます。この工程を記録として残しておくことも、後の紛争予防という観点から有効です。

 

理由③ 調査の公平性を担保するため

公平な調査とは、被害申告者と行為者を同じように扱うことではありません。それぞれの立場に応じた必要な配慮を行いながら、双方に必要な手続を保障することを意味します。

企業では被害申告者の保護を優先するあまり、「加害者側に配慮すると被害者保護が弱くなる」という誤解が生じることがあります。しかし、公平性を確保することは、被害者保護を否定するものではありません。むしろ、手続が適正であるからこそ、最終的な判断に対する信頼性が高まります。

調査担当者が一方の証言だけを重視したり、相手方の説明を途中で打ち切ったりすると、「最初から結論が決まっていた」という不信感を招きます。その結果、処分を受けた本人だけでなく、周囲の従業員からも調査への信頼を失うおそれがあります。

企業が守るべきなのは、特定の当事者ではなく、調査制度そのものへの信頼です。そのためには、証拠に基づく判断、丁寧な聞き取り、十分な説明機会という三つの要素をバランスよく運用することが不可欠です。こうした調査体制は、ハラスメント対応全体の質を高めるだけでなく、組織風土の改善にもつながります。

 

「弁明=反省していない」と評価してはいけない理由

パワハラ調査では、本人が説明を行ったこと自体を「責任逃れ」「反省不足」と受け止めてしまう例があります。しかし、この考え方は弁明制度の趣旨を誤って理解しているといえます。

企業は、説明する権利と反省の有無を区別して評価しなければなりません。この区別ができていないと、調査担当者の主観によって判断が左右され、公平な調査が難しくなります。

 

弁明することは権利である

弁明とは、自らの認識や事情を説明する権利を保障するための手続です。そのため、本人が自分の考えを述べること自体を否定的に評価することは適切ではありません。

調査担当者の中には、「素直に認めない」「説明が長い」「反論ばかりする」という印象から、本人の説明を消極的に評価してしまうことがあります。しかし、それは担当者の印象評価であり、証拠評価とは別問題です。

企業が確認すべきなのは、「説明したかどうか」ではなく、「説明内容が客観的証拠と整合しているか」です。本人の説明が第三者証言や記録と一致しないのであれば、その理由を丁寧に整理したうえで評価すれば足ります。説明したという事実だけをもって不利益に扱うことは、公平性を欠く調査につながりかねません。

また、本人が説明をためらう場合であっても、「話さないなら不利になる」といった圧力を与えることは避けるべきです。調査担当者は冷静な姿勢を保ち、自由な意思で説明できる環境を整えることが求められます。

 

説明した内容と反省の有無は別問題

弁明と反省は混同されやすい概念ですが、実務では明確に区別する必要があります。

たとえば、「その発言はしましたが、そのような意図ではありませんでした」という説明は、自らの認識を伝える弁明です。一方、「現在では配慮が足りなかったと理解しています」という発言は、行為を振り返ったうえでの反省を示しています。この二つは役割も意味も異なります。

企業が弁明を「反省していない証拠」と決め付けると、本人は十分な説明を行えなくなります。その結果、本来提出されるはずだった資料や補足事情が確認されないまま結論に至る可能性もあります。

調査担当者は、説明内容を一つの証拠として評価し、その後に必要であれば反省の有無や再発防止策について別途確認することが望まれます。この順序を意識することで、調査と指導を混同しない適切な運用が可能になります。

また、パワハラ行為が認定された場合には、処分だけで終わらせるのではなく、再発防止のための研修や、パワハラ加害者更生プログラムなどを組み合わせて実施することも、組織全体の再発防止という観点から有効です。

 

適正なパワハラ調査を行うための企業の実務ポイント

ここまで解説したように、事実確認と弁明の機会は異なる目的を持つ手続です。しかし、実際の企業では「どのような流れで運用すればよいのか分からない」という相談が多く寄せられます。

重要なのは、担当者個人の経験や判断だけに依存するのではなく、調査フローそのものを標準化することです。調査手順が明確になっていれば、担当者が変わっても公平性を維持しやすくなり、調査結果に対する社内の信頼も高まります。

ここでは、企業が実務で取り入れたい四つのポイントについて解説します。

 

① 事実確認と弁明の機会を別の工程として設計する

最も重要なのは、事実確認と弁明の機会を一つの面談で済ませようとしないことです。調査担当者が「一度話を聞いたから十分」と考えてしまう背景には、調査工程が整理されていないという課題があります。

実務では、相談受付後に被害申告者への聞き取りを行い、その後、関係者へのヒアリングや客観的資料の確認を進めます。メールやチャット、録音データ、業務日報、防犯カメラ映像など、利用できる証拠を整理し、事実関係がおおむね明らかになった段階で、本人へ弁明の機会を設けます。

この順序を採ることで、本人も企業が把握している事実を前提に説明できるため、より具体的な事情や補足資料を提示しやすくなります。また、企業側も新たな情報が得られれば、それを踏まえて再度証拠を確認することができるため、認定精度が向上します。

調査工程を文書化し、「相談受付」「事実確認」「証拠整理」「弁明」「認定」「対応措置」という流れを就業規則や社内マニュアルへ反映させることも有効です。担当者によって運用が変わることを防ぎ、組織として一貫した対応が可能になります。

 

② 調査担当者は結論を持たずに話を聞く

パワハラ調査では、担当者の先入観が調査結果へ大きく影響することがあります。相談内容を聞いた時点で「おそらくパワハラだろう」「この人が悪いに違いない」と考えてしまうと、その後の証拠収集や聞き取りにも偏りが生じやすくなります。

心理学では、自分が最初に持った仮説を裏付ける情報ばかりを集めてしまう傾向を確認バイアスと呼びます。ハラスメント調査でも同様の現象が起こりやすく、一度形成した印象が最後まで影響してしまうことがあります。

そのため、調査担当者は「結論を出すために話を聞く」のではなく、「事実を確認するために話を聞く」という姿勢を維持する必要があります。質問の仕方についても、「そのような発言をしましたよね」と断定するのではなく、「どのようなやり取りだったと認識していますか」と中立的な表現を用いることが望まれます。

また、面談記録には担当者の感想や推測ではなく、本人の発言内容をできる限り客観的に記録することが重要です。後から複数人で調査内容を確認する際にも、事実と評価を分けて記録しておくことで、公平な検討がしやすくなります。

 

③ 弁明内容も証拠の一つとして評価する

弁明の機会を設けても、その内容を十分に検討せず形式的に終えてしまえば、手続としての意味は薄れてしまいます。企業は、本人が説明した内容についても、他の証拠と同様に評価対象とする必要があります。

ここで重要なのは、「説明を採用するか」と「説明を聞くか」は別の問題であるという点です。本人の説明が客観的資料と一致しない場合には採用されないこともありますが、それでも説明内容を検討した経緯は記録として残すべきです。

実際には、弁明によって新たな証拠が判明するケースもあります。追加のチャット履歴や録音データ、会議参加者の証言などが提出され、それまでの認定内容を修正することもあります。このような可能性を考慮すると、弁明は単なる儀式ではなく、事実認定を補強する重要な情報源といえます。

企業では、弁明内容を整理したうえで、「どの部分が証拠と一致したのか」「どの点は客観的資料と異なったのか」を調査報告書へ記載しておくことが望まれます。その記録は、後に判断の妥当性を説明する際にも役立ちます。

 

④ 「言い訳」と決めつけるのではなく客観的証拠と照合する

調査担当者が避けなければならないのは、「説明が長い」「責任を認めない」という印象だけで弁明内容を否定することです。調査では、本人の態度ではなく、説明内容と客観的証拠との整合性を評価しなければなりません。

仮に本人が「その発言はしたが、相手を傷つける意図はなかった」と説明した場合でも、その発言自体は録音や第三者証言によって確認できるかもしれません。一方で、周囲の証言から当時の職場環境や会話の流れが明らかになり、本人の認識と一致する部分が見つかることもあります。

重要なのは、「どちらを信じるか」ではなく、「どの証拠によって裏付けられるか」という視点です。企業が感情や印象ではなく証拠を基準に判断していることが明確になれば、調査結果に対する納得感も高まります。

また、パワハラが認定された後は、処分だけで終わらせるのではなく、再発防止策まで含めて検討することが重要です。本人への指導や研修、管理職への教育、組織風土の改善などを組み合わせることで、同様の事案が繰り返されるリスクを低減できます。

調査制度全体を見直したい企業や、調査担当者への教育体制を整備したい企業は、一般社団法人パワーハラスメント防止協会のような専門機関の支援を活用し、実務に即した運用基準を整備することも有効です。

 

企業が構築したいパワハラ調査フローの具体例

ここまで解説した内容を実務へ落とし込むためには、調査担当者の判断だけに委ねるのではなく、誰が担当しても同じ品質で運用できる調査フローを整備することが重要です。

以下は、多くの企業で採用しやすい基本的な調査工程です。企業規模や事案の内容によって調整は必要ですが、少なくとも事実確認と弁明の機会を分離して設計することがポイントになります。

工程 主な内容 実務上の留意点
相談受付 相談内容の把握、緊急性の確認 被害申告者の安全確保を優先する
事実確認 関係者ヒアリング、証拠収集 先入観を持たず客観資料を確認する
証拠整理 証言・資料の整合性を検討 不足資料があれば追加調査を行う
弁明の機会 本人の説明・補足資料を確認 説明内容も証拠として評価する
事実認定 証拠全体を踏まえて判断 事実と評価を分けて整理する
対応措置 処分・指導・再発防止策 再発防止まで含めて検討する

このような流れを標準化しておくことで、「どこまで調査すればよいのか」「いつ本人へ説明機会を与えるべきか」が明確になります。結果として担当者ごとの判断のばらつきが少なくなり、企業全体の調査品質向上につながります。

また、管理職や人事担当者への教育だけではなく、相談窓口担当者も同じ基準で対応できるよう、定期的な見直しや運用確認を行うことが望まれます。

 

厚生労働省のパワーハラスメント防止指針から読み解く企業の対応義務

「事実確認」と「弁明の機会」を区別して考えるべき理由は、企業独自の考え方ではありません。パワーハラスメントへの対応では、厚生労働省が示している指針や、適正手続に関する裁判実務の考え方を踏まえて運用することが求められます。

ただし、指針には「弁明の機会」という言葉が明確に記載されているわけではありません。そのため、「法律に書かれていないなら実施しなくてもよい」と誤解されることがあります。しかし、実際には企業が不利益処分を検討する場面では、公平な調査手続を尽くしているかが重要な評価対象となります。

 

厚生労働省の指針が求めているのは「迅速かつ正確な事実確認」

厚生労働省の「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題へ適切に対応するための指針」では、相談があった場合には、事業主が迅速かつ正確に事実確認を実施することが求められています。

この「事実確認」は、単に被害を申し出た従業員から事情を聞くだけではありません。必要に応じて行為者本人や第三者への聞き取りを行い、関係資料を確認し、客観的な証拠を収集しながら全体像を把握することが前提となっています。

つまり、企業は一方の証言だけを根拠に判断するのではなく、多角的な調査を行う義務を負っています。調査担当者自身の印象や感情ではなく、証拠を基礎として事実認定を進める姿勢が求められるのはこのためです。

一方で、この段階はあくまで事実確認であり、処分を前提とした本人の説明保障とは役割が異なります。そのため、調査後に本人へ十分な説明機会を設けることは、事実確認とは別の観点から検討する必要があります。

 

適正手続は企業自身を守るリスクマネジメントでもある

企業では「加害者を守る必要はない」という意見が出ることがあります。しかし、弁明の機会を設けることは、行為者を擁護するためではなく、企業自身が適正な手続を尽くしたことを示すためでもあります。

仮に後から労働審判や訴訟になった場合、裁判所では「どのような調査を行ったのか」「本人へ説明の機会は与えられていたのか」「提出された資料を検討したのか」といった調査過程全体が確認されることがあります。

その際、企業が十分な調査を行い、双方から事情を確認し、客観的資料を基に判断したことを記録として残していれば、調査結果の合理性を説明しやすくなります。反対に、結論だけが先行し、調査記録が不十分であれば、「公平な調査を行っていない」と主張される余地が生まれます。

適正手続は、紛争が発生してから役立つものではありません。調査開始時から工程を整理し、記録を残し、判断根拠を明確にしておくことが企業のリスクマネジメントにつながります。

 

記録を残すことが調査品質を左右する

パワハラ調査では、面談を実施したという事実だけでは十分とはいえません。いつ、誰に対して、どのような質問を行い、本人がどのような説明をしたのかを記録として残すことが重要です。

実務では、面談記録に担当者の主観が多く含まれているケースがあります。「反省が見られなかった」「終始言い訳をしていた」といった評価だけが記載されていても、それだけでは客観的な記録とはいえません。

望ましいのは、質問内容と回答内容をできる限り具体的に記録し、評価は別項目として整理する方法です。これにより、後から複数人で調査内容を確認した場合でも、事実と担当者の判断を区別して検討できます。

また、本人から提出された資料については、「採用した」「採用しなかった」という結論だけで終わらせるのではなく、その理由も簡潔に記録しておくことが望まれます。この積み重ねが、調査全体の透明性と信頼性を高めることにつながります。

 

企業が陥りやすいパワハラ調査の失敗例

適正な調査を目指している企業であっても、実際にはいくつかの共通した失敗が見受けられます。これらは担当者個人の能力というより、調査体制そのものに原因がある場合が少なくありません。

ここでは実務上特に多い失敗例を紹介します。自社の運用と照らし合わせながら確認してみてください。

 

被害申告直後に結論を決めてしまう

相談内容が深刻であるほど、企業は迅速な対応を求められます。しかし、迅速な対応と拙速な判断は異なります。

相談直後に「これは明らかなパワハラだ」と判断し、その後の調査を結論の裏付け作業として進めてしまうと、公平性を欠く調査になりやすくなります。結果として、本人が提出した証拠や説明内容を十分に検討しないまま処分へ進む危険があります。

相談受付時には被害者保護を最優先としつつも、事実認定そのものは証拠がそろってから行うという姿勢を維持することが重要です。

 

証言だけで認定してしまう

ハラスメント事案では、録音やメールなどの客観的証拠が存在しないこともあります。そのような場合でも、証言だけで直ちに結論を出すのではなく、複数の証言を照合し、一貫性や具体性を丁寧に確認することが必要です。

また、業務日報、会議記録、勤怠状況、チャット履歴など、一見すると関係がないように見える資料が重要な証拠となることもあります。

「証拠がないから認定できない」のではなく、「利用可能な証拠をどこまで確認したか」が企業には問われます。そのため、調査担当者には証拠収集の視点も求められます。

 

調査担当者と処分決定者が同一人物になっている

中小企業では、人事担当者や経営者が調査から処分決定まで一人で担当することがあります。しかし、その体制では調査途中で形成した印象が、そのまま最終判断へ反映される可能性があります。

可能であれば、調査担当者と最終決定者を分けたり、複数人による調査委員会を設置したりすることで、判断の客観性を高めることができます。

社内だけで対応が難しい場合には、外部専門家へ意見を求める方法も有効です。第三者の視点が加わることで、企業だけでは気付きにくい手続上の課題が明らかになることもあります。

 

調査後の再発防止策が処分だけになっている

パワハラ調査は、認定して終わるものではありません。企業にとって本来重要なのは、同じ問題を繰り返さない職場環境を構築することです。

そのためには、管理職教育、相談窓口の周知、組織風土の改善、定期的な研修の実施、必要に応じたパワハラ加害者更生プログラムの活用など、多面的な再発防止策を検討する必要があります。

一般社団法人パワーハラスメント防止協会では、企業ごとの課題に応じた調査支援だけでなく、再発防止を目的とした教育・制度設計・運用改善まで含めた支援を行っています。

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FAQ

Q1. パワハラ調査では必ず加害者への弁明の機会を設けなければなりませんか。

パワーハラスメントに関する法令や厚生労働省の指針には、「弁明の機会」という言葉が直接規定されているわけではありません。しかし、企業が懲戒処分や降格、配置転換など本人に不利益となる判断を予定している場合には、調査全体の公平性や適正手続が重要な意味を持ちます。

本人が説明する機会を十分に与えず結論を出した場合、後に「調査が一方的だった」「説明の機会がなかった」と主張される可能性があります。そのため実務では、事実確認を終えた後に、本人へ調査結果の前提となる内容を示し、説明や補足資料の提出機会を設ける運用が望まれます。

 

Q2. 被害者と加害者の証言が食い違う場合は、どちらを優先して判断すればよいですか。

どちらか一方の証言だけを優先して判断することは適切ではありません。企業が重視すべきなのは、「誰が話したか」ではなく、「どの証拠によって裏付けられるか」という視点です。

メール、チャット、録音データ、会議資料、勤怠記録、防犯カメラ映像、第三者証言など、利用できる資料を総合的に確認し、証言との整合性を検討することが重要です。証拠が限定的な場合であっても、証言の具体性、一貫性、客観資料との整合性を丁寧に比較しながら判断することが求められます。

 

Q3. 本人が「そのつもりではなかった」と説明した場合、パワハラにはならないのでしょうか。

必ずしもそうではありません。パワーハラスメントに該当するかどうかは、本人の意図だけで決まるものではなく、言動の内容や職場への影響、業務上の必要性、社会通念などを踏まえて総合的に判断されます。

一方で、「そのつもりではなかった」という説明は、本人の認識を示す重要な弁明であり、調査では適切に確認すべき事項です。その説明が客観的証拠と一致するのか、他の証言とどのような関係にあるのかを検討したうえで最終判断を行う必要があります。

 

Q4. 弁明が長く、反論ばかりの場合でも最後まで聞く必要がありますか。

企業は、本人が説明する権利を尊重しながら調査を進めることが求められます。そのため、説明が長いという理由だけで打ち切ることは望ましくありません。

もちろん、同じ内容を繰り返す場合には論点を整理しながら進行することは可能ですが、「反論しているから聞かない」「反省していないから記録しない」という対応は、公平性を損なうおそれがあります。説明内容は他の証拠と照合したうえで評価することが重要です。

 

Q5. パワハラ調査を社内だけで進めることに不安があります。外部へ相談するメリットはありますか。

社内だけで対応すると、担当者の経験不足や組織内の利害関係が調査へ影響する場合があります。特に役員や管理職が関係する事案では、中立性を確保することが難しくなるケースも少なくありません。

外部専門機関を活用することで、調査手順の妥当性や証拠評価について客観的な助言を受けられるほか、調査担当者への教育や再発防止策の整備まで一貫した支援を受けることができます。企業規模を問わず、専門家の視点を取り入れることは、調査品質の向上につながります。

 

まとめ|「事実確認」と「弁明の機会」を分けることが公正なパワハラ対応につながる

企業が適正なパワーハラスメント対応を実現するためには、「事実確認」と「弁明の機会」を同じ手続として扱わないことが重要です。

事実確認は、客観的な事実や証拠を収集し、何が起きたのかを把握するための工程です。一方、弁明の機会は、本人が自らの認識や事情を説明し、必要に応じて補足資料を提出することで、防御権を保障するための工程です。両者は「話を聞く」という点では共通していますが、その目的も役割も大きく異なります。

企業が事実確認だけで調査を終えてしまうと、調査の公平性や処分の妥当性について疑問が生じる可能性があります。また、弁明を「言い訳」や「反省不足」と捉える姿勢は、適正な証拠評価を妨げる原因にもなります。

調査担当者には、結論を急がず客観的な証拠を積み重ねる姿勢が求められます。そのうえで、本人へ十分な説明機会を保障し、提出された資料や事情も含めて総合的に評価することが、公正な調査につながります。

さらに、調査が終了した後は、処分だけで終わらせるのではなく、管理職教育、相談体制の見直し、組織風土の改善、研修の充実など、再発防止まで視野に入れた運用を行うことが重要です。

企業が調査体制を整備し、適正手続を確実に実践することは、被害者保護と行為者への公平な対応を両立させるだけではありません。従業員が安心して働ける職場環境を維持し、組織全体への信頼を高めることにもつながります。

パワハラ調査の運用方法や調査フローの見直し、調査担当者への教育、パワハラ加害者更生プログラムを含めた再発防止策について検討している企業は、一般社団法人パワーハラスメント防止協会へ相談することで、自社の実情に合わせた実務的な支援を受けることができます。

制度を整備するだけでは、適正な調査は実現できません。重要なのは、担当者全員が事実確認と弁明の機会の違いを理解し、同じ基準で運用できる体制を継続的に構築していくことです。

調査体制や社内規程の整備について専門家へ相談したい場合は、早い段階で外部の知見を取り入れることが、将来の紛争予防にもつながります。

 

監修

一般社団法人パワーハラスメント防止協会

パワハラ防止研修、パワハラ行為者研修、 パワハラ加害者更生支援を専門とする団体。 企業向け研修・相談対応・再発防止支援を実施。

 

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情報源

  • 厚生労働省「職場におけるハラスメント対策」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000126546.html
  • 厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
    https://www.mhlw.go.jp/
  • 労働契約法
    https://elaws.e-gov.go.jp/
  • e-Gov法令検索
    https://elaws.e-gov.go.jp/
  • 一般社団法人パワーハラスメント防止協会
    https://www.phpaj.com/

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