「お客様に怒鳴られたとき、何と言えばよいのでしょうか?」
「暴言をやめてもらいたいのですが、角が立たない言い方はありますか?」
「対応を終了するとき、どのように伝えればよいのでしょうか?」
カスタマーハラスメント対策の研修で、現場の従業員から非常によく出る質問があります。
それが、
「分かったけれど、実際には何と言えばいいのですか?」
という質問です。
カスハラの定義や判断基準を理解していても、顧客を目の前にすると、適切な言葉がすぐに出てこないことがあります。
特に、
- 大声で怒鳴られている
- 侮辱的な言葉を言われている
- 同じ要求を何度も繰り返されている
- 責任者を出せと言われている
- 過剰な返金や補償を求められている
- 対応を終わらせたい
といった場面では、従業員自身も緊張しているため、その場で言葉を考えることは簡単ではありません。
そこでこの記事では、カスタマーハラスメントが疑われる場面で使いやすい対応フレーズ・言い方を、状況別に整理します。
なお、ここで紹介するフレーズは法律で定められた一律の文言ではありません。実際には、各企業の業種・業態、顧客との関係、社内ルール等に合わせて調整する必要があります。
結論|「カスハラです」と言うより、問題となる行為を具体的に伝える
まず、対応フレーズを考えるうえで大切なポイントがあります。
「あなたはカスハラです」と相手を分類することより、「どの言動をやめてほしいのか」を具体的に伝えることが重要です。
たとえば、大声を出している顧客に、
「それはカスハラです」
とだけ伝えるより、
「お話は伺いますので、大きな声での発言はお控えください。」
と伝えた方が、相手に求めている行動が明確です。
同じように、侮辱が問題なのであれば、
「ご意見については伺いますが、担当者個人への侮辱的な発言はお控えください。」
と、問題となっている言動を具体的に示します。
カスハラ対応フレーズの基本原則
対応フレーズを作るときは、次の4点を意識すると整理しやすくなります。
- 顧客の主張そのものは確認する
- できること・できないことを明確にする
- 問題となる言動を具体的に指摘する
- 次にどうなるのかを伝える
つまり、
「聞く → 説明する → 境界線を示す → 次の対応を伝える」
という流れです。
まず事情を聞くとき
顧客が興奮していても、まず何が起きたのか確認できなければ対応方針を決められません。
基本フレーズ
「まず状況を確認させてください。どのようなことがございましたでしょうか。」
相手がかなり興奮している場合
「状況を確認して対応いたしますので、まず何があったのか順番にお聞かせください。」
顧客の要求を確認するとき
苦情の内容と、顧客が求めている解決方法は別の場合があります。
「今回、ご希望されている対応について確認させていただけますでしょうか。」
あるいは、
「ご希望は、商品の交換ということでよろしいでしょうか。」
など、要求を具体化します。
会社側にミスがあるとき
企業側に明らかなミスがある場合には、その部分については誠実に対応します。
「こちらの確認不足によりご迷惑をおかけしました。申し訳ございません。対応可能な内容を確認してご案内いたします。」
ただし、会社側にミスがあることと、従業員への暴言や人格攻撃まで受け入れることは別問題です。
大声・怒鳴り声をやめてもらうとき
最初から強く対立する必要はありません。
第一段階
「お話は伺いますので、少し声を落としてお話しいただけますでしょうか。」
大声が続く場合
「ご説明は続けますが、大きな声での発言はお控えください。」
さらに続く場合
「大きな声での発言が続く場合は、私一人で対応を継続することができません。責任者へ引き継ぎます。」
暴言・侮辱をやめてもらうとき
人格攻撃に対しては、何が問題なのかを具体的に伝えます。
「ご不満については伺いますが、担当者への侮辱的な発言はお控えください。」
それでも続く場合は、
「お申し出の内容については対応いたしますが、人格を否定するような発言が続く場合には、対応を継続することができません。」
過剰な要求を断るとき
できない要求について、曖昧な期待を持たせないことも重要です。
「ご要望は承りましたが、当社としてその対応を行うことはできません。」
代替案がある場合は、
「そのご要望にはお応えできませんが、当社として対応可能なのは〇〇となります。」
と伝える方法があります。
同じ要求が繰り返されるとき
必要な説明を行った後も、同じ要求が繰り返される場合があります。
「ご要望については承っております。当社としての回答は、先ほどご説明した内容となります。」
さらに続く場合は、
「同じご要望について、これ以上異なる回答をすることはできません。」
「責任者を出せ」と言われたとき
「責任者を出せ」という要求だけで、直ちにカスハラになるわけではありません。
責任者からの説明が必要な場合には、
「責任者に確認いたしますので、少々お待ちください。」
と伝えます。
一方、既に責任者が回答している場合には、
「責任者からもご説明したとおり、当社としての回答は変わりません。」
上司・責任者へ交代するとき
交代することを「逃げ」と考える必要はありません。
「こちらは私の権限では判断できませんので、責任者へ引き継ぎます。」
または、
「ここからは責任者が対応いたします。」
と簡潔に伝えます。
「SNSに晒す」と言われたとき
「SNSに書く」「動画を投稿する」と言われると、従業員が慌てて要求を受け入れてしまう場合があります。
しかし、SNSへの投稿を示唆されたという理由だけで、本来対応できない要求を受け入れる必要があるとは限りません。
「ご意見については承りますが、当社として対応できる内容は先ほどご説明したとおりです。」
具体的な脅迫や信用を害する行為等が疑われる場合には、現場担当者だけで判断せず、管理職・法務部門等へ共有します。
撮影・録音をめぐるトラブルのとき
店舗・施設等での撮影については、各企業のルールに沿って対応します。
撮影禁止の場所であれば、
「当施設では、こちらでの撮影はご遠慮いただいております。」
従業員個人を撮影している場合には、社内方針に応じて、
「従業員個人を撮影することはお控えください。」
などと伝えます。
警告するとき
問題となる言動が続く場合には、次に取る対応を明確に伝えます。
「そのような言動が続く場合には、対応を終了させていただくことがあります。」
あるいは、
「これ以上、従業員への侮辱的な発言が続く場合には、責任者の判断で対応を終了いたします。」
対応を終了するとき
必要な説明・回答を行い、警告しても社会通念上許容される範囲を超える言動が続く場合には、企業のルールに従って対応終了を判断することがあります。
「必要なご説明はさせていただきました。これ以上この状態での対応を継続することはできませんので、当社の方針に基づき対応を終了いたします。」
電話の場合には、
「当社からの回答は以上となります。同じご要求が続いておりますので、これでお電話を終了させていただきます。」
など、企業があらかじめ定めた方法で対応します。
危険を感じるとき
暴力、物を投げる行為、深刻な脅迫など、従業員や周囲の安全に危険がある場合は、通常の接客より安全確保を優先します。
「安全を確保するため、これ以上の対応はできません。」
必要に応じてその場を離れ、管理職・警備員等へ連絡し、犯罪に該当し得る言動については警察への通報・相談を検討します。
避けたい言い方
対応時には、問題を必要以上にエスカレートさせる言い方を避けることも重要です。
「あなたはカスハラです」
相手の属性を決めつけるより、問題となっている具体的な言動を示す方が適切です。
「警察呼びますよ?」
脅し文句のように使うのではなく、必要な状況では企業のルールに基づいて実際に通報・相談します。
「無理です」だけで終わる
可能であれば、対応できない理由や代替可能な対応を簡潔に説明します。
「お客様なんだから落ち着いてください」
相手の感情を評価する表現より、具体的な行動について依頼する方が分かりやすくなります。
「好きにしてください」
SNS投稿等を示唆された場合でも、感情的に応酬せず、会社として対応可能な内容を伝えます。
段階的に対応を強める方法
すべてのケースで、最初から強い警告を行う必要があるわけではありません。
安全上の緊急性がない場合には、たとえば次のように段階を踏む方法があります。
第1段階|依頼
「お話は伺いますので、大きな声はお控えください。」
第2段階|明確な注意
「大きな声での発言はお控えください。この状態では対応を続けることが難しくなります。」
第3段階|次の措置を伝える
「同じ状態が続く場合には、責任者の判断で対応を終了いたします。」
第4段階|対応終了
「改善が見られませんので、当社の方針に基づき、これで対応を終了いたします。」
ただし、暴力や深刻な脅迫など安全上の危険がある場合には、このような段階を必ず順番に踏む必要があるという意味ではありません。
企業がフレーズを準備する際のポイント
カスハラ対応フレーズは、従業員個人に考えさせるのではなく、会社として準備しておくことが重要です。
厚生労働省のカスタマーハラスメント防止指針では、事業主がカスハラへの対処内容をあらかじめ定め、マニュアル等への記載や研修等を通じて労働者へ周知することが示されています。
企業では、少なくとも、
- 苦情内容を確認するとき
- 大声を控えてもらうとき
- 暴言・侮辱を控えてもらうとき
- 要求を断るとき
- 上司へ交代するとき
- 警告するとき
- 対応を終了するとき
- 退店等を求めるとき
- 警備・警察等へつなぐとき
などの基本フレーズを決めておくと、現場の負担を減らすことができます。
「その場でうまい言葉を考えられる人」を育てるだけではなく、「迷ったときに使える共通の言葉」を会社が用意しておくことが重要です。
よくある質問
Q. 顧客に「カスハラです」と言ってはいけませんか?
一律に禁止されているわけではありませんが、実務上は、まず問題となっている具体的な言動を示し、何を控えてほしいのかを伝える方法が考えられます。
Q. 「大声をやめてください」と言ってもよいですか?
大声によって対応が困難になっている場合には、声量を控えるよう具体的に依頼する方法があります。企業として基本フレーズを定めておくと現場が対応しやすくなります。
Q. 会社側にミスがある場合でも暴言を注意できますか?
会社側の問題には必要な謝罪・説明・是正を行います。一方、それとは別に、従業員への侮辱や社会通念上許容される範囲を超える言動については控えるよう求めることが考えられます。
Q. 「SNSに書く」と言われたら要求を受け入れるべきですか?
SNS投稿を示唆されたことだけを理由に、本来対応できない要求を受け入れる必要があるとは限りません。具体的な言動や要求内容を確認し、必要に応じて管理職や法務部門等へ共有します。
Q. 電話を切ってもよいですか?
必要な説明を行った後も社会通念上許容される範囲を超える言動が続く場合などについて、企業があらかじめ対応終了の基準や手順を定めておくことが重要です。
Q. マニュアル通りの言葉でないといけませんか?
重要なのは、一字一句を暗記することではありません。企業の方針と対応範囲を理解したうえで、問題となる行為、求める行動、次の対応を明確に伝えられるようにしておくことが大切です。
まとめ|現場を守る「言葉」を会社が準備する
カスタマーハラスメント対策では、法律や定義を理解するだけでは十分ではありません。
実際の現場では、
「今、このお客様に何と言えばいいのか」
が必要になります。
基本となるのは、
- まず主張を聞く
- 要求内容を確認する
- 会社としてできること・できないことを説明する
- 問題となる言動を具体的に伝える
- 改善されない場合の次の対応を示す
- 必要な場合は組織として対応を終了する
という流れです。
相手を「カスハラ客」と決めつけるのではなく、
問題となっている「言動」に境界線を示す。
そして、その境界線を現場従業員一人に引かせないことが重要です。
「顧客を敵にしない。従業員を一人にしない。」
企業が共通の対応フレーズとエスカレーションルールを用意しておくことで、従業員は迷ったときにも組織の方針に沿って対応しやすくなります。
参考資料
本記事は、厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」、厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」、厚生労働省「あかるい職場応援団」その他の公表資料をもとに、一般社団法人パワーハラスメント防止協会が実務上理解しやすいよう整理・解説することを想定して作成しています。
本記事で紹介した対応フレーズは法令で定められた一律の文言ではありません。具体的な対応は、業種・業態、顧客との関係、契約内容、危険性、社内規程その他の事情を踏まえて判断してください。
