Column – 6
パワハラ加害者(行為者)対応の豆知識
加害者とは?意味・言い換え・「行為者」との違いを解説
加害者とは何を意味するのか、行為者との違いや適切な言い換えを解説します。パワハラ対応で行為者という表現を使う理由、パワハラの判断基準、事実確認の進め方まで、人事担当者・経営者・管理職が実務で迷いやすいポイントを具体的に整理します。
「加害者」とは、一般に他人へ損害や危害を与えた人を指す言葉です。しかし、企業のハラスメント相談では、相談を受けた段階から相手方を「加害者」と呼ぶことが適切とは限りません。事実関係が確定していない段階では、「行為者」「行為者とされる者」など、断定を避けた表現を用いることがあります。
この言葉の使い分けは、単なる言い換えの問題ではありません。パワーハラスメントの相談を受けた企業には、相談者の訴えを軽視せずに受け止めることと、相手方について予断を持たず事実を確認することの両方が求められます。「相談があったから加害者」「本人が否定しているから問題なし」という二者択一ではなく、言動の内容、経緯、関係性、業務上の必要性、態様などを整理して判断する姿勢が欠かせません。
本記事では、「加害者」の意味や類語から、「行為者」との違い、パワハラに該当する3つの要素、企業が事実確認をするときの考え方まで、実務で使える形で整理します。ハラスメント対応や行為者への教育について専門的な支援が必要な場合は、一般社団法人パワーハラスメント防止協会の情報もご確認ください。
目次
社内でハラスメント相談が発生し、行為者への対応や再発防止をどのように進めればよいか判断に迷っている場合は、事実確認と教育を切り分けて考えることが大切です。個別の状況に応じた対応を検討したい企業は、専門的な支援を活用する方法もあります。
加害者とは?
「加害者」という言葉は日常的にも使われますが、企業のハラスメント対応では、どの段階でこの呼称を使うかに注意が必要です。意味を正しく理解せずに使用すると、事実確認前から結論を出したように受け取られ、相談者と相手方の双方との信頼関係を損なうおそれがあります。
加害者の意味
加害者とは、一般に他人の身体、財産、権利、名誉などに害を与えた人を意味します。「害を加える者」という言葉の成り立ちからも分かるように、何らかの不利益や損害を生じさせた側を示す表現です。事故や犯罪、不法行為など幅広い場面で使われており、「被害者」と対になる言葉として理解されることも少なくありません。
ただし、企業内のトラブルでは、相談を申し出られた人物が直ちに「加害者」と確定するわけではありません。たとえば、部下が「上司からパワハラを受けた」と相談した時点では、相談という事実は存在しますが、その上司の言動がパワハラに該当するかどうかは別途確認する必要があります。発言内容、指導の目的、言動が行われた場所、周囲にいた人、回数、双方の認識などを調べなければ判断できないケースも多くあります。
人事担当者が特に意識したいのは、「相談者の訴えを尊重すること」と「相手方を最初から加害者と断定しないこと」は両立するという点です。相談を受けたときには丁寧に事情を聴きながら、記録上は「相談者」「行為者とされる者」など中立的な表現を用いる方法があります。呼称によって事実認定を先取りしないことが、公正な社内調査の土台になります。
「加害」と「加害者」の違い
「加害」は害を加える行為や、その事実を表す言葉です。それに対して「加害者」は、その行為をした人物を示します。つまり、「加害」は行為・事象に焦点を当て、「加害者」は人物に焦点を当てた表現です。似た言葉ではありますが、企業が問題行動を扱うときには、この違いを意識する価値があります。
なぜなら、職場の問題を改善するときには「人」と「行為」を分けて考えたほうが、具体的な改善策を設計しやすいためです。「この管理職は加害者だから問題だ」と人物全体を評価するだけでは、何を修正すべきなのかが曖昧になります。「大勢の前で人格を否定する発言をした」「部下に達成不可能な期限を繰り返し設定した」「必要な業務情報を意図的に共有しなかった」というように、問題となった言動を特定すれば、改善すべき対象が見えてきます。
これは行為者への責任追及を弱めるという意味ではありません。企業が再発防止を図るには、問題となった事実を明確にしたうえで、「どの行為がなぜ問題だったのか」「どのような言動へ変更すべきか」まで伝える必要があります。一般社団法人パワーハラスメント防止協会では、パワハラ問題を人物へのレッテル貼りだけで終わらせず、問題行動の認識と具体的な行動変容につなげる視点が企業の再発防止では欠かせないと考えています。
加害者という言葉が使われる場面
加害者という表現は、交通事故、犯罪、暴力、不法行為、いじめ、ハラスメントなど、害を与えた側と受けた側を区別する必要がある場面で広く使われます。一般的な説明では分かりやすい言葉ですが、企業内の相談対応では、使用するタイミングによって意味合いが変わります。事実が十分に確認された後に説明上「加害者」と表現することと、相談受付直後から相手方を「加害者」と記録することは同じではありません。
社内調査では、相談者の申告と相手方の説明が食い違うこともあります。「皆の前で無能と言われた」という申告に対し、上司側は「業務上のミスについて注意しただけ」と説明するかもしれません。この場合、人事担当者が調べるべきなのは、どちらの人物を信じるかという抽象的な問題ではなく、実際にどのような言葉が使われたのか、誰が聞いていたのか、どの程度の強さや頻度だったのか、指導の必要性があったとしても手段が相当だったのかという具体的な事実です。
そのため、相談受付票、ヒアリング記録、調査報告書などでは、調査段階に応じた呼称を定めておくと混乱を減らせます。企業内で「申告を受けた相手方=加害者」という運用が定着すると、調査担当者にも無意識の先入観が生じる可能性があります。名称は些細な問題に見えますが、公平な事実確認を支える実務上の仕組みの一つです。
加害者の言い換え・類語
加害者には複数の言い換えがあります。ただし、すべてが完全な同義語ではありません。企業では、一般的な説明、相談受付、調査、社内処分など場面ごとに、事実認定の段階に合った表現を選ぶ必要があります。
代表的な表現を整理すると、次のようになります。
| 表現 | 主な意味 | 企業で使う際のポイント |
|---|---|---|
| 加害者 | 害を与えた人物 | 事実確認前の断定的な使用には注意する |
| 行為者 | 問題となっている言動を行った、または行ったとされる人物 | ハラスメント対応で用いられることが多い |
| 相手方 | 相談・申告の対象となっている人物 | 事実認定前の中立的な表現として使いやすい |
| 対象者 | 調査などの対象となる人物 | 社内文書では何の対象者なのかを明確にする |
| 行為者とされる者 | 問題行為をしたと申告されている人物 | 事実確認前であることを表現しやすい |
実務では「どの言葉が正解か」を一律に決めるより、調査の進行状況と文書の目的に合わせて使い分けるほうが適切です。特に事実確認前と認定後を同じ呼称で処理しないことがポイントになります。
加害者を言い換えると?
一般的な言い換えとしては、「行為者」「相手方」「対象者」「問題行為を行った者」などがあります。ただし、犯罪について述べる場面の「加害者」と、社内のハラスメント相談における「行為者」では、言葉が担う役割が異なります。単純に柔らかい言葉へ置き換えればよいわけではなく、何が確定していて、何が未確定なのかを表現できる言葉を選ぶことが大切です。
企業の相談窓口では、相談受付時点なら「相談者が行為者として挙げた社員」「申告の対象となっている上司」といった記録方法が考えられます。調査によって一定の事実が確認された後は、「当該言動を行った社員」「行為者」などへ整理できます。懲戒手続に移る場合には、就業規則上の用語や社内規程との整合も確認します。呼称が部署ごとに異なると、相談窓口では「相手方」、調査委員会では「加害者」、経営会議では「対象社員」となり、どの段階で事実認定されたのか分からなくなることがあります。
人事部門では、相談対応マニュアルに呼称のルールを記載しておくと運用が安定します。「相談受付から事実確認までは行為者とされる者、確認後は行為者」のように段階を整理しておけば、担当者の主観による言葉のばらつきを抑えられます。名称そのものより、名称と事実認定の段階を一致させることが実務では大切です。
「行為者」という表現
「行為者」は、文字どおり何らかの行為をした人を指す表現です。ハラスメント分野では特に重要な用語で、厚生労働省のハラスメント関連情報でも「行為者」という表現が用いられています。職場のパワーハラスメントについては、言動を受ける労働者が「行為者」に対して抵抗や拒絶をすることができない可能性が高い関係などが、「優越的な関係」を考える際のポイントとして示されています。
「加害者」と比べると、「行為者」はその人物の人格全体ではなく、問題となっている言動に焦点を合わせやすい言葉です。企業のハラスメント対応では、この違いが大きな意味を持ちます。管理職が不適切な発言をした場合でも、その人物のすべてを否定することが再発防止になるわけではありません。問題となった発言を特定し、なぜ許容されないのかを理解させ、今後どのような指導方法へ変更するかを具体化する必要があります。
行為に焦点を当てることは、責任を曖昧にすることでもありません。むしろ「あなたはパワハラをする人だ」という抽象的な指摘より、「部下の人格を否定する発言を複数の社員がいる場所で行ったことが問題である」と示したほうが、企業が認定した事実と改善要求が明確になります。行為者への研修でも、何をやめるのかだけでなく、同じ状況で代わりにどのような言動を取るのかまで落とし込むことが行動改善につながります。
状況によって適切な呼び方が異なる
相談受付、事実確認、社内判断、処分、再発防止では、企業が保有している情報の確度が異なります。そのため、すべての段階で同じ呼称を使う必要はありません。相談直後は「行為者とされる者」、ヒアリング時には「相手方」、事実が認定された後は「行為者」とするなど、段階に応じて使い分ける方法があります。
特に避けたいのは、相談受付担当者が「加害者の○○さんについてですが」と関係者へ連絡することです。この時点では事実が確認されていない可能性があり、聞き取りを受ける第三者にも「会社はすでに○○さんを加害者と認定している」という印象を与えかねません。第三者の証言にも影響し、公平な調査を難しくする場合があります。ヒアリングでは「○○さんとの間で起きたとされる出来事について確認したい」など、結論を含まない聞き方が適しています。
社内文書についても同様です。相談受付票、調査メモ、調査報告書、処分通知書では目的が異なります。人事担当者は呼称だけを機械的に統一するのではなく、「この文書の時点で会社は何を確認済みなのか」を基準に選択すると整理しやすくなります。これは相談者への配慮と相手方への公正な手続を両立させるための実務上の工夫です。
「加害者」と「行為者」の違い
「加害者」と「行為者」は同じ人物を指す場合もありますが、言葉に含まれる意味は同一ではありません。特にハラスメント相談では、「誰が悪いか」を決める前に「何が起きたのか」を確認する必要があるため、行為者という表現が実務になじみます。
加害者という言葉が持つ意味
加害者という言葉には、「害を与えた側」という評価が含まれます。日常会話では分かりやすい反面、社内調査の初期段階で使用すると、会社がすでに相手方の責任を認定したかのように受け止められる可能性があります。ハラスメント相談では、相談者の認識、行為者とされる者の認識、第三者が見聞きした事実が一致しないことも珍しくありません。
たとえば、「上司に大声で叱責された」という申告があった場合でも、企業が確認すべき事項は複数あります。実際の発言、声量、場所、時間、周囲の社員の有無、発言に至った経緯、業務上の指導目的、同様の言動の頻度などです。これらを確認する前から「加害者によるパワハラ」と表現すると、事実確認より結論が先行します。反対に、「まだ加害者と決まっていない」という理由で相談内容を軽く扱うことも適切ではありません。
企業の実務では、相談内容を真摯に受け止めながら、認定は客観的な情報を積み上げて行うという二段階の考え方が役立ちます。相談を受けることと、パワハラと認定することを明確に分ければ、相談者への配慮を保ちながら公正な調査を進めやすくなります。
行為者という言葉が持つ意味
行為者は、問題となっている「行為」を基準として人物を捉える表現です。パワハラの判断では、人格や評判ではなく、具体的な言動とその背景を確認しなければなりません。「普段は優秀な管理職だからパワハラをするはずがない」「以前にも苦情があったから今回もパワハラだろう」といった人物評価だけで結論を出すことは避けるべきです。
人事担当者がヒアリングするときにも、行為単位で整理すると精度が上がります。「○○部長は怖い人ですか」と聞くのではなく、「会議でどのような発言がありましたか」「発言を聞いた位置はどこでしたか」「同じ発言は何回程度ありましたか」と具体化します。メールやチャットであれば、送信内容や前後のやり取りも確認できます。この方法なら、人物への好き嫌いと確認可能な事実を分けやすくなります。
再発防止でも同じ考え方が有効です。行為者本人に改善を求める際は、「威圧的だから直してください」では行動目標が曖昧です。「人前で叱責しない」「人格ではなく業務上の行動を指摘する」「改善期限と求める水準を明示する」など、観察できる行動へ変換します。行為に焦点を合わせることは、調査と改善の双方で実務的な意味を持ちます。
加害者ではなく行為者と表現するケース
ハラスメント相談の受付直後や調査中など、事実認定が終わっていないケースでは、「加害者」ではなく「行為者」「行為者とされる者」と表現する方法があります。厚生労働省が提供する職場のパワーハラスメントに関する情報でも「行為者」という用語が使用されており、企業の相談対応でもなじみのある表現です。
実務上は、社内メールの件名にも注意が必要です。「パワハラ加害者○○部長のヒアリング」と書けば、転送や誤送信が起きた際の影響が大きくなります。「相談案件ヒアリング」「事実確認面談」など、必要以上に評価を含めない名称にするほうが情報管理の観点からも扱いやすくなります。共有範囲も必要最小限とし、相談内容や当事者情報を不用意に広げない運用が求められます。
ただし、「行為者」という言葉を使えば対応が公正になるわけではありません。呼称を中立にしていても、質問が誘導的であったり、一方の説明だけを採用したりすれば適切な調査にはなりません。名称はあくまで公正な対応を支える一要素です。企業では、呼称、ヒアリング方法、証拠確認、記録、判断プロセスまで一体として整える必要があります。
ハラスメントではなぜ「行為者」と呼ぶのか
ハラスメント対応では、相談が寄せられた時点と、事実確認を経て会社が判断した時点を区別する必要があります。「行為者」という表現は、このプロセスを適切に管理するうえで使いやすい言葉です。
事実確認前に加害者と断定しないため
相談者が「パワハラを受けた」と訴えていても、企業が事実確認をする前から相手方を加害者と断定することには慎重さが求められます。これは相談者の訴えを疑うためではありません。相談内容を丁寧に受け止めることと、会社としてパワハラの有無を認定することは、異なる手続だからです。
相談の段階では、「発言そのものは双方が認めているが、その前後の経緯について説明が違う」「相談者は繰り返されたと説明しているが、相手方は一度だけだと説明している」といった食い違いが生じることがあります。人事担当者は、メール、チャット、録音、業務記録、勤務記録など確認可能な資料と、第三者へのヒアリングを組み合わせ、できる限り具体的な事実を整理します。調査の目的は相談者と相手方のどちらを感情的に支持するかではなく、会社として適切な対応を決めるための事実を把握することです。
事実確認前に結論を固定すると、その後の質問も結論に合う情報だけを集める方向へ偏りやすくなります。企業では「相談受付→事実整理→関係者への確認→資料確認→評価→対応決定」という順序を意識し、認定前の呼称にもその考え方を反映させることが望まれます。
ハラスメント相談・調査における「行為者」の考え方
厚生労働省のハラスメント対策に関する情報では、相談者と行為者、第三者への事実確認結果などを踏まえて対応を検討する考え方が示されています。確認項目としては、相談者と行為者の人間関係、行為の目的や動機、時間や場所、行為の程度や頻度などが挙げられています。つまり、単に「言った・言わない」だけではなく、言動が生じた状況を立体的に整理する必要があります。
企業がヒアリングを行う際には、相談者と行為者に同じ質問を機械的にするのではなく、確認したい事実を項目化しておくと精度が高まります。「どこで」「誰がいた状態で」「どのような言葉を」「どの程度の声量で」「何回」「何を目的として」行ったのかを整理し、双方の回答を照合します。第三者には、相談者や行為者の評価ではなく、自分自身が直接見聞きした内容を尋ねます。
また、相談者と行為者を安易に直接対面させて事実を確認する方法は、状況によっては相談者の負担を増やす可能性があります。人事担当者は、案件の性質、当事者の関係、心理的負担、証拠の状況を踏まえてヒアリング方法を設計します。相談者保護と公正な調査のどちらか一方ではなく、両方を満たす手続を考えることが企業の責任ある対応につながります。
行為者と被害者という表現を使う際の注意点
「行為者」と「被害者」を組み合わせて使用すると、一方だけ中立的な表現になり、もう一方については被害が確定したような印象になる場合があります。そのため、事実確認前の社内文書では「相談者」と「行為者とされる者」、「申告者」と「相手方」など、認定段階がそろう表現を採用する方法があります。
呼称を決める際には、相談者本人への配慮も必要です。本人が明確な被害を訴えている場面で、人事担当者が「あなたはまだ被害者ではありません」と伝えれば、訴えを否定されたと感じる可能性があります。社内管理上の呼称と、相談者とのコミュニケーションは分けて考えるべきです。面談では「お話しいただいた内容を確認し、会社として必要な対応を検討します」など、訴えを受け止めながら調査の必要性を説明する方法があります。
相手方に対しても、「パワハラの加害者として呼びました」と告げるのではなく、「相談が寄せられているため、事実関係を確認します」と説明したほうが、調査の目的が明確です。言葉の選択は、相談者と相手方のどちらかを優遇するためではなく、会社が事実に基づいて判断する姿勢を示すために行います。
パワハラの行為者とは?
パワハラの行為者というと「部下を叱責する上司」を想像しがちですが、役職だけで決まるものではありません。厚生労働省が示すパワーハラスメントの考え方では、職務上の地位が上位の者だけでなく、一定の場合には同僚や部下による言動も「優越的な関係を背景とした言動」に該当し得ます。
上司だけがパワハラの行為者になるわけではない
職場のパワーハラスメントでは「優越的な関係を背景とした言動」が要素の一つとなります。この「優越的な関係」は、単純な役職の上下だけを意味しません。厚生労働省の説明では、職務上の地位が上位の者による言動のほか、業務上必要な知識や豊富な経験を持つ同僚や部下による言動、同僚や部下の集団による行為で抵抗や拒絶が困難なものなども示されています。
企業では、組織図だけを見て「部下から上司へのパワハラはあり得ない」と判断しないことが大切です。長年特定業務を担当している社員が専門知識を独占しており、新任管理職がその協力なしでは業務を進められないケースがあります。この社員が必要な情報を意図的に渡さず、集団で管理職を無視するような状況では、形式上の役職だけでは実際の力関係を把握できません。
人事担当者は、誰が上司かだけでなく、「業務遂行上、相手からの協力を得られなければ困難な状況だったか」「拒絶や抵抗が難しい関係だったか」という実態を確認する必要があります。役職表は確認材料の一つですが、それだけで優越的な関係の有無を決めるものではありません。
同僚や部下が行為者になるケース
同僚が特定の専門技術を持っている、古参社員が職場で強い影響力を持っている、複数の部下が集団で管理職を排除しているなど、実質的な力関係によっては同僚や部下が行為者となる可能性があります。パワハラの「パワー」は役職名そのものではなく、抵抗や拒絶が難しい関係性として捉える必要があります。
現場では、専門職や技術職でこの問題が見えにくくなることがあります。管理職よりも特定の社員のほうがシステムや顧客情報に詳しく、その社員に業務が集中している場合です。その人物が「そんなことも分からないのか」と繰り返し侮辱したり、必要な情報を意図的に共有しなかったりしたとき、形式的には同僚や部下でも、実際の業務上の関係を確認する必要があります。
企業側の対策としては、ハラスメント教育を管理職だけに限定しないことが挙げられます。管理職教育は大切ですが、「上司が部下にしてはいけないこと」だけを教えると、社員間、部下から上司、専門職から他職種への問題行動を見落とします。全社員向けの基本教育と、管理職向け教育、行為者向けの個別研修を目的別に分けるほうが実務に適しています。
本人にパワハラの自覚がないケース
パワハラ問題では、行為者本人が「そんなつもりではなかった」「部下のためを思って指導した」「自分も同じ方法で育てられた」と説明するケースがあります。しかし、本人にパワハラをする意図がなかったことだけで、直ちにパワハラに該当しないとは判断できません。職場のパワーハラスメントに該当するかは、優越的な関係、業務上必要かつ相当な範囲、就業環境への影響などを踏まえて検討します。
企業が行為者へフィードバックする際、「悪意があったか」だけを議論すると話が進まないことがあります。本人は悪意を否定し、会社側は問題行動を指摘するため、双方が平行線になるからです。この場合、「意図」と「結果・態様」を分けて整理します。「育成目的だったことは確認した。その目的があったとしても、大勢の前で人格を否定する言葉を使うことは適切な指導方法ではない」という伝え方なら、指導の必要性と手段の問題を切り分けられます。
一般社団法人パワーハラスメント防止協会では、行為者の再発防止では「パワハラをするつもりはなかった」という認識を責めるだけではなく、本人が自らの言動と相手への影響を具体的に理解し、代替となる行動を身につけることが大切だと考えています。自覚がないケースほど、禁止事項の説明だけで終わらせず、実際の管理場面に即した行動改善へつなげる必要があります。
パワハラの行為者かどうかはどう判断する?
パワハラの判断は、「厳しく叱ったからパワハラ」「相手が傷ついたと言ったからパワハラ」という単純な基準では行えません。厚生労働省が示す職場のパワーハラスメントの定義では、3つの要素をすべて満たすことが基本となります。企業では、この枠組みに個別事案の具体的な事情を当てはめて検討します。
判断の基本を整理すると次のとおりです。
| 確認する要素 | 主な確認ポイント | 企業で確認する具体例 |
|---|---|---|
| 優越的な関係を背景とした言動 | 抵抗や拒絶が難しい関係か | 役職、専門知識、経験、人数、業務上の依存関係 |
| 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動 | 目的・手段・態様が業務上相当か | 発言内容、場所、声量、回数、指導目的、業務上の必要性 |
| 就業環境が害されること | 就業する上で看過できない程度の支障が生じたか | 言動の程度、頻度、継続性、業務への影響など |
この3要素をチェックリストのように形式的に確認するだけでは十分ではありません。言動の目的、経緯、業務内容、双方の関係、態様や頻度などを総合して評価する必要があります。
パワハラに該当する3つの要素
職場のパワーハラスメントとは、厚生労働省の説明では、「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」「労働者の就業環境が害されるもの」という3つの要素をすべて満たすものとされています。客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導はパワーハラスメントには該当しません。
企業が実務で迷いやすいのは、二つ目の「業務上必要かつ相当な範囲」です。部下のミスを指摘する必要があったとしても、人格を否定する発言まで許されるわけではありません。業務上の目的が正当でも、その目的を達成する手段が相当かを別に確認します。反対に、相手にとって耳の痛い指摘であっても、業務上必要であり、方法も相当であれば、厳しいという印象だけでパワハラと判断するものではありません。
三つ目の就業環境についても、本人の主観だけでなく、同様の状況で一般的な労働者が就業する上で看過できない程度の支障を感じる言動かという観点が用いられます。頻度や継続性も考慮されますが、強い身体的・精神的苦痛を与える態様であれば、一度の言動でも就業環境を害する場合があります。人事担当者は「何回ならパワハラ」という固定的な回数基準を作るのではなく、言動の強度と状況を合わせて検討する必要があります。
業務上の指導とパワハラの違い
管理職からよく出る疑問が、「部下を指導しただけでもパワハラになるのか」というものです。適正な業務指示や指導まで禁止されているわけではありません。問題となるのは、業務上の必要性がない、目的から大きく逸脱している、手段として不適当であるなど、必要かつ相当な範囲を超えた言動です。
たとえば、提出期限を繰り返し守らない社員に対し、「このままでは顧客への納品が遅れるため、原因を確認し、次回から提出前日に進捗を報告してください」と伝えることと、「こんな簡単なこともできないのか。社会人失格だ」と人格まで否定することでは、指導の性質が異なります。前者は業務上の問題と改善行動が明確ですが、後者は業務改善に必要な範囲を超える可能性があります。
管理職教育では「強く言ってはいけない」とだけ教えるより、適切な指導の型を示すほうが実践的です。「確認できた事実」「業務への影響」「求める改善行動」「期限・基準」を順番に伝える方法があります。感情や人格評価ではなく、観察できる行動を扱うことで、必要なマネジメントを維持しながら不適切な言動を減らせます。企業にとっての目的は、管理職を萎縮させることではなく、適正な指導と不適切な言動の境界を理解させることです。
被害者の感じ方だけで判断するわけではない
パワハラの判断では、言動を受けた本人がどう感じたかは無視できません。しかし、「本人がパワハラだと感じた」という一点だけで法令上のパワーハラスメント該当性が自動的に決まるわけでもありません。厚生労働省の説明では、就業環境が害されたかの判断に際して、「平均的な労働者の感じ方」を基準とすることが適当とされています。
ここを誤解すると、企業では二つの極端な対応が起こります。一つは「本人が嫌だと言ったのだからすべてパワハラ」と扱うこと、もう一つは「本人が気にしすぎているだけ」と相談を退けることです。どちらも適切ではありません。本人が感じた苦痛や業務への影響を丁寧に確認したうえで、発言内容、態様、頻度、関係性、経緯などの客観的事情と合わせて評価します。
また、法令上のパワハラに該当しないと判断した場合でも、会社として何も対応しなくてよいとは限りません。コミュニケーション上の問題、管理職として不適切な指導、職場環境を悪化させる言動などが確認されれば、就業規則や社内方針に基づいて改善指導を行う余地があります。「パワハラ認定の有無」と「職場改善の必要性」を別の軸で考えることで、企業はより実効的な対応を取りやすくなります。
企業が事実確認を行う際のポイント
企業の事実確認では、「誰が正しいか」を最初に決めるのではなく、確認可能な事実を一つずつ積み上げます。相談者へのヒアリングでは、問題となった言動について、発生場所、状況、具体的な発言、回数、同席者、その後の業務への影響などを確認します。「いつも威圧的だった」という抽象的な説明が出た場合には、「どのような言葉や行動を威圧的と感じましたか」と具体化していきます。
行為者とされる者にも弁明の機会を設けます。その際、相談者の申告をそのまま読み上げて「認めますか」と迫るだけでは十分な確認になりません。「この会議で○○という趣旨の発言をしましたか」「その発言の目的は何でしたか」「当時どのような業務上の問題がありましたか」など、事実と背景を分けて確認します。双方の説明が食い違う場合には、メール、チャット、録音、業務記録、第三者の証言などとの整合性を確認します。
人事担当者が利用しやすい確認項目は、次のように整理できます。
- 問題となった言動の具体的な内容
- 言動が行われた場所・状況・参加者
- 行為の回数、頻度、継続性
- 業務上の目的と必要性
- 相談者と行為者の職務上・実質上の関係
- 相談者側に業務上の問題があった場合、その内容と程度
- 指導方法が問題の程度に対して相当だったか
- メール、チャット、録音、業務記録など客観資料の有無
- 第三者が直接見聞きした事実
- 就業環境や業務遂行に生じた影響
厚生労働省の情報でも、言動の目的、経緯や状況、業種・業態、業務内容、態様、頻度、継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性などを総合的に考慮する考え方が示されています。チェック項目の数だけで結論を出すのではなく、それぞれの事情がどのように関連しているかを評価することが大切です。
パワハラの行為者になったらどうなる?
社内でパワハラの申告を受けたからといって、その時点で懲戒処分が決まるわけではありません。企業には、相談内容を確認し、行為者とされる本人からも事情を聴き、必要に応じて第三者や関係資料を確認したうえで対応を決めることが求められます。厚生労働省も、相談があった場合には事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害を受けた労働者と行為者へ適正に対処するとともに、再発防止措置を講じることを事業主の対応として示しています。
会社による事実確認やヒアリング
行為者とされる社員に対しては、通常、会社によるヒアリングが行われます。ここでの目的は本人を問い詰めることではなく、相談者から申告された出来事について事実関係を確認することです。「あなたはパワハラをしましたね」と結論を前提に質問するのではなく、「会議中にこのような発言をした事実はありますか」「その発言に至った経緯を説明してください」「当時どのような業務上の問題がありましたか」と、具体的な出来事を一つずつ確認します。厚生労働省の「あかるい職場応援団」でも、行為者への事情聴取では、はじめから加害者と決めつけるような態度を取らず、弁明の機会を十分に与えることなどが示されています。
行為者側が相談内容を全面的に否定する場合もあります。そのときに人事担当者が「認めないなら反省していない」と早急に判断するのは適切ではありません。事実認定と反省の有無は別の問題だからです。相談者と行為者の説明を照合し、メール、社内チャット、業務日報、会議記録、録音、第三者が直接見聞きした内容など、確認できる情報との整合性を調べます。逆に、本人が「言ったかもしれない」と認めた場合でも、それだけでパワハラ該当性が決まるわけではなく、発言の内容や背景、業務上の必要性、態様、関係性などを検討します。
ヒアリング時にはプライバシーへの配慮も欠かせません。行為者が相談者を特定しようとして周囲へ聞き回ったり、本人へ直接連絡して説明を求めたりすると、新たなトラブルにつながる場合があります。会社は、調査中にしてよいこと・してはいけないことを明確に伝え、関係者への接触や情報共有について必要な指示を行います。人事担当者にとっては、ヒアリングそのものだけでなく、その後の当事者間の接触まで管理することが実務上の重要なポイントです。
懲戒処分や配置転換などの可能性
事実確認の結果、パワハラに該当する行為が認められた場合には、会社が就業規則や社内規程に基づいて対応を検討します。考えられる対応には、注意・指導、懲戒処分、配置転換、職務変更、管理職からの降格などがありますが、どの措置を取るかは個別事案の内容によって異なります。パワハラが確認されたからといって、すべてのケースで同じ処分になるわけではありません。
企業が判断する際には、言動の内容、悪質性、継続性、回数、本人の立場、相手への影響、過去の注意歴、会社の就業規則などを踏まえます。たとえば、一度の不適切な発言について本人が事実を認めて改善意思を示しているケースと、人格否定や威圧的言動を繰り返し、注意後も同様の行為を続けているケースでは、会社が検討すべき措置は異なります。処分を行う場合には、行為と処分のバランス、過去の類似事案との整合性、規程上の根拠なども確認しなければなりません。
配置転換についても慎重な検討が必要です。当事者を離すことで職場環境を改善できる場合はありますが、「問題が起きたから行為者を別部署へ移す」という対応だけでは再発防止にならないことがあります。行為者が自身の言動を理解しないまま別の部署で管理職を続ければ、同じ問題が繰り返される可能性が残るためです。人事担当者は、処分・配置上の措置と、行動改善のための教育を別々の目的として設計する必要があります。
再発防止のための研修や教育
パワハラが確認された後、処分だけで対応を終了すると、本人が「会社から罰を受けた」という理解にとどまり、何を変えればよいのか分からないまま職場へ戻ることがあります。再発防止を目的とするのであれば、問題となった行為を具体化し、本人が自分の言動のどこに問題があったのかを理解できる教育が必要です。厚生労働省が示すハラスメント防止の考え方でも、事実が確認された場合の再発防止措置として、ハラスメントに関する方針の再周知や意識啓発のための教育などが挙げられています。
行為者向けの研修では、一般的なパワハラの定義を説明するだけでは十分ではありません。「大声を出さない」「人格否定をしない」という禁止事項を理解していても、強いストレスがかかった管理場面で以前と同じ言動に戻るケースがあるからです。本人が問題を起こしやすい状況を整理し、「部下が期限を守らない場面では、人格評価ではなく未達の事実と業務への影響を伝える」「感情が高ぶった場合は、その場で長時間叱責せず面談を設定する」といった代替行動まで練習すると、改善目標が具体的になります。
一般社団法人パワーハラスメント防止協会では、パワハラ行為者への対応を単なる知識提供で終わらせず、本人が自らの行動パターンを理解し、適切なコミュニケーションへ置き換えていく視点を重視しています。企業が期待するのは「パワハラをしない」という抽象的な約束ではなく、実際の職場で確認できる行動の変化です。そのため、教育内容も本人の職務や問題となった状況に合わせて設計することが望まれます。
行為者本人に求められる行動改善
行為者本人に求められるのは、「二度としません」と約束することだけではありません。再発を防ぐには、自分がどのような状況で問題行動を起こしやすいのかを理解し、具体的な代替行動を決めることが必要です。たとえば、「仕事が遅い部下を見ると苛立ち、その場で強い口調になる」という傾向があるなら、問題は単なる知識不足ではありません。焦りや怒りを感じたときに、その感情をそのまま言葉へ変換する行動パターンを修正する必要があります。
改善目標は、第三者が確認できる行動にします。「優しく指導する」「相手を尊重する」といった目標だけでは、実行できたかを判断しにくいためです。「指導では事実と改善事項を分けて伝える」「人格を評価する言葉を使わない」「部下の説明を途中で遮らず最後まで確認する」「面談では改善期限と確認方法を明示する」など、具体的な行動に置き換えます。管理職であれば、部下からの報告が遅れた際にどのように質問するかまで決めておくと、実践しやすくなります。
本人が「自分だけが悪いわけではない」と感じている場合でも、改善を進めることは可能です。部下側の業務上の問題や組織上の課題が存在したとしても、それと本人の不適切な言動は別に整理できます。「部下のミスがあったこと」と「人格を否定する叱責が適切だったか」を分けることで、行為者本人も事実を受け入れやすくなります。企業側には、行為者を全面的に人格否定するのではなく、責任を明確にしながら改善すべき行動を具体的に伝える対応が求められます。
行為者への対応で、「処分後にどのような教育を行うべきか」「本人がパワハラを認めず、社内だけでは対応が難しい」といった課題がある場合は、外部の専門機関を活用する方法があります。問題行動を繰り返させないためには、本人の職務や行動傾向まで踏まえた対応を検討することが大切です。
パワハラ行為者の再発を防ぐために企業ができること
パワハラへの企業対応は、事実認定や処分で終了するものではありません。同じ行為者が問題を繰り返さないことに加え、同じ職場で似た問題が起こらない状態をつくるところまで考える必要があります。再発防止では、「本人の行動」と「問題を生みやすかった職場環境」の二つを切り分けて確認することが実務上のポイントになります。
行為者本人に問題行動を認識してもらう
再発防止で最初の障壁になりやすいのが、行為者本人の認識です。「指導しただけだ」「相手が仕事をしないから仕方がなかった」「自分のころはもっと厳しかった」と考えている場合、会社がパワハラの定義を説明するだけでは行動変容につながりにくいことがあります。本人に必要なのは、自分の人格が否定されたと受け止めることではなく、自分が行った具体的な言動と、その言動がなぜ問題になったのかを理解することです。
企業からフィードバックする際には、「あなたのコミュニケーションには問題がある」と抽象的に伝えるより、認定された事実を使います。「複数の社員がいる会議で部下の能力を否定する発言をした」「説明する機会を与えず長時間叱責した」という形で、問題になった行為を明確にします。そのうえで、「業務上のミスを指摘する必要性はあったとしても、人格を否定する表現は指導の目的を達成するために必要な方法ではない」と、目的と手段を分けて説明します。
ここで本人に謝罪だけを求めると、表面的な対応になりやすいため注意が必要です。「何が問題だったと理解しているか」「同じ場面が起きたら次はどう対応するか」を本人自身の言葉で説明してもらうと、理解度を確認できます。一般社団法人パワーハラスメント防止協会の実務的な視点では、本人の反省という内面的な状態だけで評価するのではなく、再発可能性を下げる具体的な行動を設定することが行為者対応では欠かせません。
パワハラが起きた原因を整理する
パワハラが発生した際、原因を「行為者の性格」で終わらせると、組織側に残るリスクを見落とします。もちろん行為者本人の責任を曖昧にしてはいけませんが、長時間労働、過大な目標、役割の不明確さ、人員不足、管理職への過度な負担、部署内のコミュニケーション不足などが問題行動を増幅させていなかったかを確認する価値があります。個人への対応と職場環境の改善は、どちらか一方を選ぶものではありません。
たとえば、管理職が「部下に何度言っても仕事が終わらない」と強い叱責を繰り返していたケースを考えます。調査すると、管理職自身が複数部署を兼務し、一人で多数の部下を管理していることが分かるかもしれません。この事情があっても不適切な叱責が正当化されるわけではありませんが、会社が本人への注意だけで終われば、同じ高負荷の環境で問題が再発する可能性があります。管理人数、業務量、権限配分、相談経路などを見直す必要があります。
人事担当者は、個別案件の終了後に「行為者個人の要因」「上司・部下関係の要因」「部署の業務構造」「会社制度」の四つ程度に分けて原因を整理すると、施策へつなげやすくなります。個人要因には怒りへの対処やコミュニケーションの癖、関係要因には役割認識のずれ、業務構造には人員不足や属人化、会社制度には管理職教育や相談体制などが入ります。この整理によって、「本人を教育すれば終わり」という単線的な対応を避けられます。
行為者向け研修やカウンセリングを活用する
行為者への教育では、全社員向けのハラスメント研修と、個別の行為者教育を同じ内容にしないことがポイントです。全社員向け教育は、パワハラの定義、代表的な類型、相談窓口などを広く周知する目的があります。それに対し、パワハラ加害者や行為者を対象とする個別支援では、本人が実際に起こした行動、発生しやすい場面、認知や感情の傾向、代わりに取るべき行動まで踏み込む必要があります。
本人が強い怒りをコントロールできない、部下の失敗を個人的な裏切りのように捉える、完璧を求めて過度な要求を繰り返すといった傾向がある場合は、知識教育だけでは変化しにくいことがあります。状況によってはカウンセリングなどの専門的支援を組み合わせる方法も検討できます。ただし、会社が安易に心理的な診断を行ったり、本人を病気扱いしたりすることは避けなければなりません。企業が扱うべき中心は、職場で確認された問題行動と、その改善です。
個別の研修を選定する際には、「知識を教えるだけか」「本人の事案を扱えるか」「具体的な改善行動を設定するか」「終了後のフォローがあるか」を確認すると判断しやすくなります。行為者本人が受講に抵抗を示す場合もあるため、会社から「罰として受けさせる」のではなく、「管理職として職務を継続するために求める改善プロセス」として目的を明確に説明することも大切です。
研修後も継続的にフォローする
行為者教育で見落とされやすいのが、受講後のフォローです。一度の教育で本人が内容を理解しても、職場へ戻れば、納期遅延、部下のミス、人員不足など以前と同じストレス要因に直面します。そのときに新しい行動を使えるかどうかが再発防止の分岐点です。受講直後の「よく理解できた」という感想だけで改善を判断しないことが大切です。
企業では、本人の上司や人事部門が定期的な面談を設け、「設定した改善行動を実行できているか」「難しかった場面は何か」「同じ問題が再び起きていないか」を確認する方法があります。本人だけへの聞き取りでは自己評価に偏るため、必要な範囲で職場状況も確認します。ただし、周囲へ「○○さんを監視してください」と依頼すると職場での孤立や新たな摩擦を生むため、通常のマネジメントの範囲で変化を確認する設計が適切です。
行動改善のチェック項目としては、「人前での叱責がなくなった」「人格評価ではなく業務上の事実を指摘している」「部下の説明を聞く時間を設けている」「感情が高まった際にその場で長時間叱責しない」など、観察可能なものを設定します。一定期間後に本人と振り返り、改善できている項目と継続課題を整理します。再発防止とは、一回の教育イベントではなく、行動の変化が職場で定着するまで管理するプロセスだと考えると施策を設計しやすくなります。
行為者対応を実施しても同様の言動が繰り返される、本人が問題を認識せず社内での指導が難航しているといった場合には、対応を長期化させる前に専門的な支援を検討することも一つの方法です。行為者への対応と職場全体の再発防止策を分けて整理すると、企業として取るべき措置が明確になります。
加害者・行為者に関するよくある質問
「加害者」と「行為者」の違いは、言葉の意味だけを見ると分かりにくい部分があります。企業のハラスメント対応で特に迷いやすい点を、実務上の使い分けとあわせて整理します。
加害者と行為者は同じ意味ですか?
完全に同じ意味ではありません。「加害者」は一般に、他人へ害を与えた人物という意味を持ちます。それに対し「行為者」は、問題となっている言動を行った人物に焦点を当てた表現です。同じ人物を指すことはありますが、「加害者」には害を与えた側という評価がより明確に含まれるのに対し、「行為者」は行為を基準として人物を示しやすいという違いがあります。
企業のハラスメント対応では、この差が実務上重要になります。相談が入った直後には、申告された言動が実際にあったのか、その言動がパワハラに該当するのかが確定していないことがあります。その段階から「加害者」と呼べば、会社が事実確認前に結論を出したような印象につながります。そのため「行為者とされる者」「相手方」など、中立性を保ちやすい呼称を使う方法があります。
ただし、「行為者」という言葉を使えば自動的に公正な調査になるわけではありません。相談内容を丁寧に確認し、相手方にも説明や弁明の機会を設け、資料や第三者の証言を含めて評価する手続が必要です。呼称は、公正な調査を支える仕組みの一部として考えると分かりやすくなります。
加害者の別の言い方はありますか?
文脈によって「行為者」「相手方」「対象者」「問題行為を行った者」「行為者とされる者」などの表現があります。ただし、これらは機械的に置き換えられる完全な同義語ではありません。「相手方」は申告を受けた相手という関係性を示す表現であり、「対象者」は調査などの対象であることを示します。「行為者」は問題となる行為との関係を示しやすい言葉です。
人事担当者が社内文書で使う場合には、文書作成時点の事実認定状況を考えます。相談受付段階なら「行為者とされる社員」、事実確認中なら「行為者」「相手方」、会社として一定の事実を認定した後なら「当該行為を行った社員」と記載する方法があります。社内規程で用語が定義されている場合は、その規程に合わせることも必要です。
重要なのは、柔らかい表現を使うことそのものではなく、未確認の事実を確定事項として扱わないことです。「対象者」という言葉でも、担当者が最初から有罪視していれば公平な対応にはなりません。言葉と調査姿勢の双方をそろえることで、相談者への配慮と相手方への適正な手続を両立しやすくなります。
パワハラでは「加害者」と「行為者」のどちらを使いますか?
パワハラ対策に関する公的な情報では「行為者」という表現が用いられています。企業の相談・調査実務でも、特に事実確認前は「行為者」や「行為者とされる者」といった表現が使いやすいと考えられます。「加害者」という言葉が常に誤りというわけではありませんが、使用する段階と目的に注意が必要です。
相談受付時には、まだ「パワハラの相談があった」という事実が確認されている段階です。申告内容自体がパワハラと認定されたわけではありません。この段階では「相談者」「行為者とされる者」として整理すると、事実と評価を分離できます。調査終了後に問題行為が確認された場合は「行為者」として再発防止措置の対象にするなど、対応段階によって整理します。
一般社団法人パワーハラスメント防止協会の専門的な視点でも、ハラスメント対応では人物を先に評価するのではなく、問題となった行動を具体的に特定することが大切です。この考え方は調査の公正さだけでなく、その後の行動改善にも役立ちます。「誰が悪い人なのか」という議論ではなく、「どの言動をどのように変える必要があるのか」へ進めやすくなるためです。
パワハラの行為者は上司だけですか?
上司だけとは限りません。職場のパワーハラスメントにおける「優越的な関係」は、役職上の上下関係だけを指すものではありません。業務上必要な知識や経験を持ち、その協力がなければ業務を円滑に進めることが難しい同僚・部下による言動や、同僚・部下の集団による行為で抵抗や拒絶が困難な場合なども検討対象になり得ます。
このため、人事担当者が相談を受けたとき、「相談者のほうが役職は上だからパワハラではない」と形式的に判断することは避ける必要があります。専門職の社員が情報を独占している、古参社員の影響力が非常に強い、複数のメンバーが集団で一人の管理職を排除しているなど、組織図には表れない力関係が存在する職場もあります。
確認すべきなのは肩書だけではなく、実際に抵抗・拒絶することが困難な関係だったかどうかです。そのため、役職、担当業務、専門知識、勤続上の影響力、人数、業務上の依存関係などを確認します。企業のハラスメント教育も「上司から部下への言動」だけに限定せず、同僚間や部下から上司へのケースまで扱うと、職場での理解が深まります。
本人に自覚がなくてもパワハラの行為者になりますか?
本人に「パワハラをしよう」という自覚がなかったことだけで、パワハラに該当しないと決まるわけではありません。パワハラへの該当性は、本人の自覚だけではなく、優越的な関係を背景とした言動か、業務上必要かつ相当な範囲を超えているか、就業環境を害しているかという要素や、具体的な事情を踏まえて検討します。
管理職が「部下を成長させるためだった」と説明するケースでも、育成目的があればあらゆる方法が許されるわけではありません。業務上の指導が必要だったとしても、大勢の前で人格を否定する、必要以上に長時間叱責する、仕事と関係のない侮辱的な言葉を繰り返すなどの行為については、指導目的と方法を分けて評価する必要があります。
再発防止では、「悪気があったか」という議論だけに時間を使わないことがポイントです。本人の意図を確認しながらも、「実際に何をしたのか」「その方法の何が問題だったのか」「同じ状況で次はどう行動するか」へ進めます。自覚のない行為者ほど、抽象的な注意よりも、実際の場面に沿って代替行動を学ぶ研修などが行動改善を考えるうえで有効な選択肢になります。
ここまでの内容を企業の実務に落とし込むと、「加害者かどうか」という人物評価から考え始めるより、「何が起こったのか」「会社としてどう評価するか」「今後どの行動を変えるか」の3段階に分けて考えると整理しやすくなります。
| 段階 | 企業が確認すること | 適した考え方 |
|---|---|---|
| 事実確認 | 具体的にどのような言動があったか | 人物評価を避け、確認可能な事実を整理する |
| 評価・判断 | パワハラの要素や社内規程に照らしてどう評価するか | 目的・関係・態様・頻度・影響などを総合的に見る |
| 再発防止 | 同じ状況でどの行動へ変えるか | 抽象的な反省ではなく観察可能な改善行動を設定する |
この「事実・評価・改善」の三層を混同しないことが、一般社団法人パワーハラスメント防止協会が重視する実務的な視点の一つです。調査では事実を確認し、会社として評価を行い、その後は再発を防ぐための行動変容へ進む。この順序を明確にすると、相談対応から行為者教育まで一貫性を持たせやすくなります。
事実確認後の行為者対応や再発防止まで社内だけで進めることが難しい場合には、外部の専門的な知見を取り入れることも検討できます。特に、同じ問題を繰り返している行為者や、自身の問題を認識できていない管理職への対応は、一般的なハラスメント教育とは分けて設計することが大切です。
まとめ|「加害者」と「行為者」の違いを理解して適切に対応しよう
加害者とは、一般に他人へ害を与えた人物を指す言葉です。それに対して「行為者」は、問題となっている行為をした人物に焦点を当てた表現です。両者が同じ人物を指すことはありますが、企業のハラスメント対応では、事実確認前から相手方を加害者と断定しないために、「行為者」「行為者とされる者」「相手方」などの表現を使うことがあります。
パワハラについても、役職が上か下か、本人に悪意があったか、相談者が不快に感じたかという一つの事情だけでは判断できません。「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」「就業環境が害されること」という要素を軸に、言動の目的、経緯、態様、頻度、双方の関係などを具体的に確認する必要があります。相談者の訴えを真摯に受け止めながら、相手方にも弁明の機会を設け、客観的な資料や第三者の証言を含めて判断することが企業の公正な対応につながります。
事実確認によって問題行動が認められた後は、処分だけで終わらせないことも大切です。本人がどの言動を変える必要があるのかを理解し、同じ状況で取るべき代替行動を身につけ、職場へ戻った後も継続的に確認します。同時に、人員不足、業務過多、役割の曖昧さなど、問題行動を生じやすくした組織上の要因がないかも確認します。行為者本人への責任ある対応と職場環境の改善を並行して進めることで、再発防止策の実効性を高められます。
「加害者」という人物へのレッテルから考えるのではなく、「何が起きたのか」「会社としてどう評価するのか」「どの行動を変えるのか」と段階を分けることが、ハラスメント対応を整理する基本です。一般社団法人パワーハラスメント防止協会では、企業におけるパワハラ防止だけでなく、問題を起こした行為者が自身の行動を理解し、再発を防ぐための具体的な行動変容につなげることを重視しています。社内だけでは対応が難しいケースでは、問題が繰り返される前に専門的な支援を検討することも選択肢になります。
監修
パワハラ防止研修、パワハラ行為者研修、 パワハラ加害者更生支援を専門とする団体。 企業向け研修・相談対応・再発防止支援を実施。
SPECIAL SERIES
パワハラ加害者更生・再発防止シリーズ
本記事は「パワハラ加害者更生・再発防止シリーズ」の一部です。
加害者対応から再発防止まで体系的に学びたい方は、シリーズ一覧をご覧ください。
情報源
職場におけるハラスメントの防止のために|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
あかるい職場応援団|厚生労働省
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/
人事担当の方|あかるい職場応援団
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/jinji/
よくある質問|あかるい職場応援団
https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/qa/
一般社団法人パワーハラスメント防止協会
https://www.phpaj.com/
