「返金を求められたら、それだけでカスハラになるのでしょうか?」
「商品代よりはるかに高い慰謝料を要求されています。どこから不当要求になりますか?」
「こちらにもミスがある場合、値引きや損害賠償の要求にはどこまで応じるべきなのでしょうか?」
カスタマーハラスメントの現場で、特に判断に迷いやすいのが、返金、値引き、交換、損害賠償、慰謝料、迷惑料など「金銭やサービスを求める要求」です。
顧客から返金や値引きを求められたからといって、それだけでカスタマーハラスメントになるわけではありません。
商品に不具合があった、契約したサービスが提供されなかった、企業側の説明や対応に問題があったなど、顧客の申入れに理由がある場合もあります。
一方で、
- 商品やサービスと関係のない高額な金銭を要求する
- 契約内容を著しく超えるサービスを要求する
- 対応することが著しく困難な値引きや補償を要求する
- 合理的な説明をしても不当な金銭要求を繰り返す
といった場合には、要求内容そのものが社会通念上許容される範囲を超える可能性があります。
さらに、要求そのものに一定の理由があったとしても、暴言、脅迫、威圧、長時間拘束などを用いて要求を通そうとすれば、「要求の手段・態様」が問題になります。
この記事では、厚生労働省のカスタマーハラスメント防止指針等をもとに、返金・値引き・損害賠償などの要求はどこからカスハラになるのか、正当な申入れとの境界を具体例とともに詳しく解説します。
結論|返金・値引き・損害賠償の要求だけではカスハラではない
まず結論から確認しましょう。
顧客から返金・値引き・損害賠償などを求められたという事実だけで、直ちにカスタマーハラスメントになるわけではありません。
要求に理由があるか、その内容が相当か、契約や商品・サービスとの関係、要求するための手段や態様、これまでの経緯などを総合的に確認する必要があります。
つまり、
「お金を要求されたかどうか」だけで判断するのではありません。
同じ「返金してください」という要求でも、
- 商品に重大な不具合があり、契約や制度に基づいて冷静に返金を求める場合
- 問題のない商品について全額返金を要求し、断られると従業員を長時間怒鳴り続ける場合
では、評価が大きく異なります。
要求型カスハラは「内容」と「手段・態様」を分けて考える
要求型のカスタマーハラスメントを判断するときに非常に重要なのが、
- 何を要求しているのか
- どのような方法で要求しているのか
を分けて考えることです。
厚生労働省の指針でも、社会通念上許容される範囲を超えているかについて、「言動の内容」と「手段や態様」に着目して総合的に判断することとされています。
そして、どちらか一方だけが社会通念上許容される範囲を超えている場合でも、カスハラの要素に該当し得ます。
要求型カスハラを考える基本
要求内容に問題があるケース
→「何を求めているか」が過剰・不当
要求方法に問題があるケース
→「どうやって求めているか」が暴言・脅迫・威圧・執拗など
両方に問題があるケース
→ 不当な要求を、暴言・威圧等を使って通そうとする
厚生労働省が示す「要求内容」の典型例
厚生労働省のカスタマーハラスメント防止指針では、「言動の内容が社会通念上許容される範囲を超えるもの」の典型例として、次のようなものが示されています。
1.そもそも要求に理由がない、または商品・サービスとまったく関係のない要求
提供された商品やサービスとは関係のない要求などです。
2.契約等で想定しているサービスを著しく超える要求
契約内容を著しく超えたサービスの提供を求める場合などです。
3.対応が著しく困難、または対応不可能な要求
厚生労働省の指針では、その例として契約金額の著しい減額を要求することが示されています。
4.不当な損害賠償要求
商品やサービスの内容と無関係な不当な損害賠償要求などです。
ただし、これらは「この言葉が出たら自動的にカスハラ」というチェックリストではありません。
個別の事実関係や経緯、契約内容、要求の程度、手段・態様などを確認する必要があります。
返金要求はどこからカスハラ?
「返金してください」という要求そのものは、直ちにカスハラではありません。
たとえば、
- 商品に不具合がある
- 注文した商品と違う商品が届いた
- 契約したサービスが提供されていない
- 企業が定める返金条件に該当する
など、返金を求めることに合理的な理由がある場合があります。
このような場合には、企業は契約内容、利用規約、関係法令、自社の返金ルールなどを確認して対応します。
カスハラの可能性が問題になる返金要求
一方で、
- 商品を十分使用した後に、理由なく全額返金を求める
- 返金対象ではないことを繰り返し説明しても、同じ要求を執拗に続ける
- 返金に加えて商品まで無償で提供するよう求める
- 要求を断ると暴言・脅迫・威圧を始める
などの場合には、要求内容や手段・態様について検討する必要があります。
値引き・減額要求はどこからカスハラ?
値引きを求めることについても、それだけで直ちにカスハラになるわけではありません。
商品・サービスに問題がある場合や、契約交渉の中で価格について協議すること自体は通常の商取引でも行われます。
一方、厚生労働省の指針では、契約金額の著しい減額を要求することが、「対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求」の例として示されています。
たとえば、
CASE|著しい減額を一方的に要求する
契約済みのサービスについて、提供内容に重大な問題がないにもかかわらず、
「半額にしろ。そうしなければ取引先全部に言いふらす」
などと要求する。
この場合には、減額要求そのものの相当性だけでなく、要求を通すための脅迫的な手段についても検討します。
損害賠償・慰謝料・迷惑料の要求はどこからカスハラ?
「損害賠償を請求された」「慰謝料を要求された」というだけでカスハラになるわけではありません。
実際に損害が発生し、法令や契約関係等に基づいて賠償の問題が生じるケースもあり得ます。
一方で、厚生労働省の指針では、商品やサービス等の内容と無関係である不当な損害賠償要求が、社会通念上許容される範囲を超える典型例として示されています。
CASE|商品代を大幅に超える「迷惑料」を要求する
1,000円の商品について企業側がミスを認め、交換・返金を提案したところ、
「時間を無駄にした。迷惑料として50万円払え」
と要求された。
このような場合、単純に「50万円だからカスハラ」と機械的に判断するのではなく、実際にどのような損害が生じているのか、要求と商品・サービスとの関係、要求の根拠、経緯などを確認します。
企業側だけでは法的な判断が難しい場合には、法務担当者や弁護士等の専門家へ相談することも重要です。
無料サービス・特別待遇の要求は?
金銭そのものではなくても、
- 無料で追加サービスを提供しろ
- 通常は有料のサービスを無料にしろ
- 契約に含まれていないサービスを提供しろ
- 自分だけ特別扱いしろ
- 通常はできない対応を自分だけ認めろ
などの要求についても、内容によっては「契約等により想定しているサービスを著しく超える要求」として問題になることがあります。
ここでも重要なのは、契約・商品・サービスの内容と、顧客が求めている内容との距離です。
会社側にミスがある場合はどう考える?
要求型カスハラで特に難しいのが、企業側にも問題があるケースです。
たとえば、
- 商品の欠陥
- 誤配送
- 説明不足
- 予約ミス
- 従業員の不適切な対応
などが実際にあれば、顧客が返金、交換、説明、一定の補償等を求めることに理由がある場合があります。
厚生労働省の指針でも、事業主または労働者側の不適切な対応が、顧客の言動の原因や背景となっている場合があることに留意する必要があるとされています。
会社側にミスがあるかどうかと、顧客の要求や言動が社会通念上許容される範囲内かどうかは、分けて考えることが重要です。
会社側に問題があれば、必要な謝罪・説明・是正を行う。
しかし、会社側にミスがあるからといって、すべての要求や暴言、脅迫、長時間拘束等が当然に許容されるわけではありません。
要求は正当でも手段がカスハラになることがある
ここは非常に重要です。
顧客の要求内容そのものには一定の合理性があっても、その要求を実現するための手段や態様が社会通念上許容される範囲を超える場合があります。
たとえば、
- 返金を求めながら担当者を侮辱する
- 値引きを要求しながら机を叩いて威圧する
- 損害賠償を要求しながら「家族を調べるぞ」と脅す
- 交換要求について何時間も従業員を拘束する
- 同じ要求を何度説明しても執拗に繰り返す
といったケースです。
つまり、
「要求に理由がある」ことと、
「どのような要求方法でも許される」ことは同じではありません。
具体例で見る「正当な申入れ」と「カスハラ」
CASE 1|商品の不具合について通常の返金を求める
購入した商品に不具合があり、顧客が落ち着いた口調で、
「返金または交換をお願いできますか」
と申し出た。
→ 原則として、直ちにカスハラとはいえません。
CASE 2|返金対象外について説明後も要求を繰り返す
会社が理由とルールを説明しているにもかかわらず、顧客が長時間にわたり同じ全額返金要求を繰り返し、従業員が通常業務を行えない状態になった。
→ 要求内容、執拗性・継続性、就業環境への影響等を総合的に確認します。
CASE 3|合理的な交換要求に暴言が加わる
商品に不具合があり、交換を求めること自体には理由があるが、
「お前は無能だ。こんな会社潰れてしまえ」
などと担当者の人格を否定する言動を繰り返した。
→ 交換要求の相当性とは別に、手段・態様について検討します。
CASE 4|商品と無関係な高額賠償を要求する
商品代金や実際の問題との関係が認めにくい高額な「迷惑料」を要求し、拒否すると脅迫的な言動を行った。
→ 要求内容と手段・態様の両方について問題となる可能性があります。
要求型カスハラを判断する8つのポイント
現場で判断に迷った場合には、少なくとも次の8つを確認します。
- 要求に理由があるか
- 商品・サービスや契約との関係があるか
- 要求の程度は相当か
- 企業側にミスや問題があったか
- どのような言葉・態様で要求しているか
- 要求は何回、どの程度続いているか
- 企業はどこまで説明・対応したか
- 従業員の就業環境にどのような影響が生じているか
一つの要素だけで決めるのではなく、事案全体を確認することが重要です。
現場従業員はどう対応する?
返金や損害賠償を求められた際、現場従業員がその場で「カスハラかどうか」「いくら払うか」を一人で判断する仕組みにはしないことが重要です。
基本的には、
- 顧客が何を求めているのかを確認する
- 理由や事実関係を確認する
- 自社のルールや契約内容の範囲で説明する
- 権限を超える要求には即答しない
- 要求が続く場合は管理職へ報告する
- 暴言・威圧等が加わった場合は一人で対応しない
という流れが考えられます。
管理職・責任者はどう対応する?
管理職は、単に現場担当者の代わりに謝罪するのではなく、要求内容と事実関係を整理する必要があります。
- 商品・サービスに問題があったか
- 契約や利用規約はどうなっているか
- これまで会社はどのような説明をしたか
- 要求内容に合理性があるか
- 要求金額やサービス内容は相当か
- 暴言・脅迫・長時間拘束等があるか
- 従業員への影響はどうか
を確認し、組織として対応方針を決めます。
法的判断が必要な高額請求や損害賠償要求については、現場や管理職だけで判断せず、法務担当者や弁護士等への相談も検討します。
現場で使える対応フレーズ例
要求内容を確認する場合
「ご要望の内容を正確に確認させてください。どのような対応をご希望でしょうか。」
その場では判断できない場合
「私の判断だけではお答えできませんので、責任者に確認したうえでご回答いたします。」
会社の対応可能範囲を説明する場合
「確認した結果、当社として対応できる内容は〇〇となります。」
同じ要求が繰り返される場合
「当社としての回答は先ほどご説明した内容となります。これ以上同じご要求にはお応えすることができません。」
暴言・威圧等が加わった場合
「ご要望については伺いますが、暴言や威圧的な言動が続く場合には、対応を継続することができません。」
これらは一律の法定文言ではありません。
企業ごとに業種・業態、契約関係、顧客対応の実態等に合わせて対応フレーズを整備することが重要です。
企業があらかじめ決めておくべきルール
返金・値引き・賠償要求への対応を現場任せにしないため、企業はあらかじめルールを明確にしておく必要があります。
- 現場担当者が判断できる返金・値引きの範囲
- 管理職へ引き継ぐ金額・事案の基準
- 返金・交換等の基本ルール
- 損害賠償要求を受けた場合の報告先
- 法務・弁護士へ相談する基準
- 同じ要求が続いた場合の対応方法
- 暴言・脅迫等が伴った場合の対応方法
- 対応内容・事実関係の記録方法
を自社の実態に応じて整理しておくことが重要です。
「いくらまでなら現場で判断してよいのか」「どこから上司へ上げるのか」が不明確な職場では、従業員が顧客と会社の間で板挟みになりやすくなります。
よくある質問
Q. 返金を要求されたらカスハラですか?
いいえ。返金要求だけで直ちにカスハラになるわけではありません。要求に理由があるか、商品・サービスとの関係、契約内容、要求の程度、手段・態様等を確認します。
Q. 「全額返金しろ」と言われたらカスハラですか?
「全額返金」という言葉だけでは判断できません。実際に全額返金が相当な事案なのか、要求の理由や経緯、要求方法等を確認する必要があります。
Q. 値引きを要求しただけでカスハラになりますか?
通常の価格交渉や合理的な値引きの申入れまで直ちにカスハラになるものではありません。一方、契約金額の著しい減額要求などは、社会通念上許容される範囲を超える要求に該当し得ます。
Q. 慰謝料や迷惑料を要求されたらカスハラですか?
要求されたという事実だけでは判断できません。実際の損害、商品・サービスとの関係、要求の根拠、金額、経緯、要求方法等を確認します。不当な損害賠償要求は、厚生労働省の指針でも典型例として示されています。
Q. 会社側にミスがあれば、どんな要求にも応じなければいけませんか?
いいえ。企業側のミスは重要な判断要素ですが、それによってすべての要求や暴言・脅迫等が当然に許容されるわけではありません。企業側の問題と顧客の要求・言動の相当性を分けて確認します。
Q. 商品代より高い金額を要求されたら必ずカスハラですか?
単純に「商品代より高い」という一点だけでは判断できません。実際に生じた損害その他の事情によって評価が異なる可能性があるため、個別の事実関係を確認する必要があります。
Q. お客様の要求を断ってもよいのでしょうか?
企業が対応できない要求については、その理由と会社として可能な対応を明確に説明することが重要です。特に法的判断を伴う場合には、社内の法務部門や弁護士等への相談を検討します。
Q. 不当な要求が続いたら、すぐ「カスハラです」と伝えるべきですか?
必ずしも最初から「カスハラ」という言葉を相手に伝える必要はありません。まず要求内容を整理し、会社として対応できる範囲を説明したうえで、問題となる具体的な言動を控えるよう求めるなど、あらかじめ定めた会社の対応方針に沿って対応します。
まとめ|「何を要求したか」と「どう要求したか」を分けて判断する
返金、値引き、損害賠償、慰謝料、迷惑料などを要求されたからといって、それだけでカスタマーハラスメントになるわけではありません。
要求型カスハラを判断するときは、
- 要求に理由があるか
- 商品・サービスや契約との関係
- 要求の程度
- 企業側のミスの有無
- 要求の手段・態様
- 頻度や継続性
- 従業員の就業環境への影響
などを総合的に確認します。
「返金を求めたからカスハラ」ではない。
「会社にミスがあるから何を要求してもよい」でもない。
正当な申入れには誠実に対応する。
企業側に問題があれば必要な是正を行う。
一方で、社会通念上許容される範囲を超えた要求や言動については、現場従業員一人に背負わせない。
「顧客を敵にしない。従業員を一人にしない。」
この基本姿勢を持ちながら、企業として返金・値引き・損害賠償要求に対する共通ルールと判断体制を整えておくことが重要です。
参考資料
本記事は、厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)」、厚生労働省「あかるい職場応援団」その他の厚生労働省公表資料をもとに、一般社団法人パワーハラスメント防止協会が実務上理解しやすいよう整理・解説することを想定して作成しています。
具体的な返金義務、損害賠償義務その他の法律上の権利義務については、個別の契約内容、事実関係、関係法令その他の事情によって異なる場合があります。具体的な法的判断が必要な事案については、弁護士等の専門家への相談をご検討ください。
