「お客様が大声を出したら、それだけでカスハラですか?」
「怒鳴られましたが、会社側にもミスがあります。それでもカスハラになりますか?」
「一度だけ声を荒らげた場合でも、カスハラになることはありますか?」
カスタマーハラスメントの現場で、非常に判断に迷いやすいのが「大声」「怒鳴り声」「声を荒らげる行為」です。
顧客が不満を感じて声を大きくしただけで、直ちにすべてカスタマーハラスメントになるわけではありません。
一方で、大きな声を上げて従業員や周囲を威圧したり、怒鳴り声を繰り返して従業員を精神的に追い詰めたりする行為は、カスタマーハラスメントに該当する可能性があります。
では、どこからがカスハラなのでしょうか。
実は、「声の大きさ」だけで線を引くことはできません。
重要なのは、何を要求しているのか、どのような言葉を使ったのか、どのような態様で声を上げたのか、何回・どの程度続いたのか、なぜその状況になったのか、そして従業員の就業環境にどのような影響が生じたのかを総合的に見ることです。
この記事では、厚生労働省のカスタマーハラスメント防止指針等をもとに、「大声・怒鳴り声はどこからカスハラになるのか」を、具体例を交えながら詳しく解説します。
結論|大声を出しただけで直ちにカスハラになるわけではない
まず結論からお伝えします。
顧客が大声を出したという事実だけで、直ちにカスタマーハラスメントになるわけではありません。
一方で、大きな声を上げて従業員や周囲を威圧する、怒鳴り続ける、侮辱的な言葉を大声で繰り返すなど、その手段や態様が社会通念上許容される範囲を超え、労働者の就業環境を害する場合には、カスタマーハラスメントに該当する可能性があります。
つまり、
「声が大きかったか」ではなく、「その大声がどのような意味を持つ言動だったのか」
を見る必要があります。
同じ「大きな声」であっても、突然の事故や重大な商品トラブルに驚いて一瞬声が大きくなった場合と、従業員を威圧して要求を通す目的で怒鳴り続けた場合とでは、評価は大きく異なります。
カスハラ判断の基本となる3つの要素
大声・怒鳴り声について考える場合も、まずカスタマーハラスメントの基本となる3つの要素に戻ることが重要です。
厚生労働省の指針では、職場におけるカスタマーハラスメントについて、次の3つの要素をすべて満たすものと整理しています。
- 顧客等の言動であること
- その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えたものであること
- その言動によって労働者の就業環境が害されること
大声・怒鳴り声で特に問題になるのは、2つ目の「社会通念上許容される範囲を超えているか」という点です。
さらに、その言動によって従業員の就業環境が害されたかどうかも確認します。
大声が「威圧的な言動」になる場合とは
厚生労働省のカスタマーハラスメント防止指針では、社会通念上許容される範囲を超える手段・態様の例として、
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 威圧的な言動
- 継続的・執拗な言動
- 拘束的な言動
などが示されています。
大声については、単純に声の音量だけを見るのではなく、その大声によって従業員や周囲を威圧しているかが重要になります。
たとえば、
- カウンター越しに従業員へ身を乗り出して怒鳴る
- 周囲の客が振り返るほどの大声を繰り返す
- 「俺の言うことを聞け」などと声を荒らげて要求を通そうとする
- 説明しようとする従業員を大声で遮り続ける
- 従業員を萎縮させることを目的とするような態様で怒鳴る
といった行為については、威圧性を含めて判断する必要があります。
大声・怒鳴り声を判断する7つのポイント
では、実際の現場では何を確認すればよいのでしょうか。
大声や怒鳴り声については、少なくとも次の7つの観点から確認すると整理しやすくなります。
1.何を要求しているのか
まず確認したいのは、顧客の要求内容です。
たとえば、購入した商品に実際の欠陥があり、
「交換してほしい」
と求めるのであれば、要求そのものには合理性がある可能性があります。
一方、
「商品代金は1万円だが、迷惑料として100万円払え」
など、商品・サービスや実際の損害との関係を欠く要求であれば、要求内容自体の相当性も問題になります。
2.どのような言葉を使っているのか
声の大きさだけでなく、発言内容も重要です。
たとえば、
- 「説明してください」
- 「納得できません」
- 「責任者と話したいです」
という言葉と、
- 「バカ」
- 「無能」
- 「人間失格」
- 「辞めろ」
- 「お前を潰すぞ」
などの侮辱・人格否定・脅迫的な言葉とでは、評価が異なります。
3.どのような態様で声を上げているのか
同じ言葉であっても、伝え方によって意味が変わります。
従業員へ接近しながら怒鳴る、机を叩きながら叫ぶ、指を突きつけながら声を荒らげるなど、他の動作を伴う場合には、威圧性がより強くなることがあります。
4.何回、どの程度続いているのか
一瞬声が大きくなったのか、それとも何度注意しても怒鳴り続けているのかも重要です。
厚生労働省の指針でも、言動の頻度や継続性は判断要素とされています。
ただし、後で説明するように、回数が少なければ必ずカスハラにならないという意味ではありません。
5.どこで行われているのか
店舗内で多数の顧客がいる前で大声を上げる場合、個室で話をしている場合、電話で話している場合など、状況によって周囲への影響も異なります。
他の顧客が退店したり、他の従業員の業務まで止まったりするような場合には、職場全体への影響も考慮する必要があります。
6.その大声に至った経緯は何か
企業側の説明不足や明らかなミスが原因となっているのか、顧客に対して十分な説明が行われた後も大声が続いているのかなど、経緯も確認します。
厚生労働省の指針でも、事業主や労働者側の不適切な対応が顧客等の言動の原因や背景となっている場合があることに留意するよう求めています。
7.従業員の就業環境にどのような影響が生じているのか
最終的には、顧客等の言動によって労働者の就業環境が害されているかを確認します。
たとえば、
- 恐怖で通常の接客を続けることができない
- 精神的に強い苦痛を感じ、業務に重大な支障が生じている
- 他の従業員が対応を中断して応援に入らなければならない
- その場にいることが困難になっている
などの状況が考えられます。
大声でも直ちにカスハラとはいえないケース
「大声=カスハラ」と機械的に判断しないために、カスハラとは直ちにいえないケースも考えてみましょう。
CASE 1|重大なトラブルに驚いて一瞬声が大きくなった
顧客が購入した商品に重大な不具合があり、驚いて、
「これはどういうことですか!」
と一時的に声が大きくなった。
しかし、従業員の説明を聞いた後は落ち着き、人格否定や脅迫等もなく、合理的な説明・交換を求めている。
このような場合には、「声が大きかった」という一部分だけを切り取るのではなく、原因、経緯、継続性、要求内容などを確認する必要があります。
CASE 2|企業側の重大な説明ミスについて強い口調で説明を求めた
企業側から誤った説明を受けた顧客が、通常より強い口調で、
「なぜこのような説明になったのですか。責任者から説明してください」
と申し出た。
人格否定や脅迫はなく、必要な説明後は通常のやり取りに戻った。
このようなケースでも、直ちにカスハラと断定するのではなく、正当な申入れである可能性を十分に検討する必要があります。
カスハラに該当する可能性が高まるケース
反対に、大声が他の問題行為と組み合わさると、カスハラに該当する可能性が高まります。
CASE 3|大声で人格を否定し続ける
顧客が担当者に対し、
「お前はバカか!こんな仕事もできないのか!」
などと店舗内で繰り返し怒鳴り続ける。
担当者が説明しようとしても、大声で遮り続ける。
この場合、大声という声量だけでなく、侮辱的な発言、継続性、威圧性、就業環境への影響などを総合的に確認します。
CASE 4|要求を通すために大声で威圧する
顧客が、
「今すぐ無料にしろ!俺が怒っているのが分からないのか!」
などと大声で繰り返し要求し、従業員や周囲の顧客を威圧する。
要求内容の相当性とともに、大声を用いた手段・態様の相当性を検討します。
CASE 5|注意しても怒鳴り続ける
従業員が、
「お話は伺いますので、大きな声はお控えいただけますか」
と求めても、顧客がさらに声を大きくして怒鳴り続ける。
このような場合は、言動の継続性や威圧性がより強くなっていることを考慮します。
声量だけでなく「何を言ったか」も重要
大声・怒鳴り声を判断する際には、声量と発言内容を切り離して考えないことが重要です。
厚生労働省は、社会通念上許容される範囲を超える手段・態様の例として、脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言などの精神的な攻撃も示しています。
つまり、
大声 + 侮辱
大声 + 人格否定
大声 + 脅迫
大声 + 執拗な責め立て
といった組み合わせでは、単なる声量以上の問題が生じます。
1回怒鳴っただけでもカスハラになることはある?
あります。
カスハラについて、
「3回以上怒鳴ったらカスハラ」
「10分以上続いたらカスハラ」
といった全国一律の回数・時間基準が定められているわけではありません。
厚生労働省の指針では、言動の頻度や継続性を考慮する一方、強い身体的または精神的苦痛を与える態様の言動の場合は、1回でも就業環境を害する場合があるとされています。
たとえば、一度の発言であっても、重大な脅迫を大声で行うようなケースについて、「1回だから問題ない」と考えることは適切ではありません。
回数は重要な判断要素ですが、「回数だけ」が判断基準ではありません。
会社側にミスがあった場合はどう判断する?
これは特に重要です。
企業や従業員側にミスがある場合、顧客が不満を持ったり、通常より強い口調で説明を求めたりすることには一定の理由がある場合があります。
そのため、企業側のミスを無視して、
「大声を出したからカスハラです」
と処理することは適切ではありません。
一方で、会社側にミスがあったからといって、
- 人格を否定する
- 何度も怒鳴り続ける
- 脅迫する
- 暴力を振るう
- 土下座を強要する
といった行為まで当然に許容されるわけではありません。
会社側のミスの有無と、顧客の言動の相当性は、分けて考えることが重要です。
会社側に改善すべき問題があれば、謝罪・説明・改善を行う。
そのうえで、社会通念上許容される範囲を超えた言動については、別途、従業員を保護するための対応を検討します。
正当な苦情を「大声だから」とカスハラ扱いしない
カスハラ対策が進むことで、企業側が陥ってはいけないもう一つの問題があります。
それは、少し強い口調で苦情を言われただけで、
「カスハラです」
と顧客の申入れを打ち切ってしまうことです。
厚生労働省の指針でも、顧客等からの苦情のすべてがカスタマーハラスメントに該当するわけではなく、客観的に見て社会通念上許容される範囲で行われるものは、いわば正当な申入れであり、カスハラには当たらないとされています。
企業には、
「従業員を守ること」と「顧客の正当な申入れを受け止めること」を両立する姿勢
が必要です。
従業員は大声を受けたときどう対応する?
実際に顧客から大声を向けられた場合、従業員が一人でカスハラ認定まで行う必要はありません。
まず重要なのは、状況を悪化させず、自分自身の安全を確保しながら、組織につなぐことです。
基本的には、
- 顧客の主張・要求内容を確認する
- 必要な説明を冷静に行う
- 大声や暴言が続く場合は、その言動を控えるよう求める
- 一人で抱えず、上司・管理職へ報告する
- 必要に応じて責任者へ対応を交代する
- 安全確保が難しい場合にはその場を離れる
といった対応が考えられます。
重要なのは、従業員自身が「どこまで我慢するか」を個人の感覚だけで決める仕組みにしないことです。
管理職・責任者はどう対応する?
管理職や責任者には、現場担当者とは異なる役割があります。
従業員が顧客から大声や威圧的な言動を受けている場合には、
- 必要に応じて担当者から対応を引き継ぐ
- 従業員を一人で対応させない
- 顧客の要求内容を整理する
- 会社側の事実関係を確認する
- 大声・暴言等を控えるよう明確に伝える
- 必要に応じて対応終了を判断する
- 安全上の危険があれば警備・警察等との連携を検討する
- 対応後に被害を受けた従業員の状態を確認する
といった組織的な対応が重要になります。
現場で使える対応フレーズ例
大声を受けたとき、従業員がその場で言葉を考えるのは簡単ではありません。
企業は、業種や顧客対応の実態に合わせて、あらかじめ基本的な対応フレーズを準備しておくとよいでしょう。
まず話を聞く場合
「お話は伺います。まず状況を確認させていただけますでしょうか。」
大声を控えてもらう場合
「お話は伺いますので、大きな声でのご発言はお控えいただけますでしょうか。」
大声・暴言が続いている場合
「ご説明は続けますが、大声やそのような言葉が続く場合には、担当を代わらせていただきます。」
責任者へ交代する場合
「これ以上は私一人では対応できませんので、責任者に引き継がせていただきます。」
安全な対応を継続できない場合
「これ以上この状態での対応を続けることはできません。いったん対応を終了させていただきます。」
なお、これらは一律の法定文言ではありません。
企業ごとに、業種・業態、顧客との契約関係、現場環境等を踏まえて、実際に使用する表現と判断基準を整備することが重要です。
企業があらかじめ決めておくべきルール
2026年10月1日から、事業主には職場におけるカスタマーハラスメントを防止するための雇用管理上必要な措置を講じることが求められます。
大声・怒鳴り声への対応についても、現場任せにするのではなく、あらかじめルールを決めておくことが重要です。
たとえば、
- どの段階で管理職へ報告するのか
- どの段階で担当者を交代するのか
- 従業員を一人で対応させないケースは何か
- 大声や暴言を控えるよう誰が注意するのか
- 必要に応じて録音・録画を行う場合のルール
- 対応を終了する判断を誰が行うのか
- 退店を求める場合の判断基準
- 警察等へ通報・相談する場合の基準
- 事案をどのように記録するのか
- 対応後に被害者へどのような配慮を行うのか
などを明確にしておくことが考えられます。
「大声を受けたらどうするか」が従業員ごとに違うのではなく、会社として共通の判断・対応の仕組みを作ることが大切です。
よくある質問
Q. お客様が一度大声を出しただけでもカスハラですか?
一度大声を出したという事実だけで、直ちにカスハラになるわけではありません。発言内容、態様、経緯、要求内容、就業環境への影響などを総合的に判断します。ただし、強い身体的・精神的苦痛を与える態様であれば、1回でも就業環境を害する場合があります。
Q. 怒鳴ったら必ず「威圧的な言動」になりますか?
機械的に決まるものではありません。どのような言葉を、どのような態様で、どの程度、どのような状況で発したかなどを確認します。
Q. 声の大きさを数値で決める基準はありますか?
カスハラについて、「何デシベル以上ならカスハラ」という全国一律の法的基準が設けられているわけではありません。声量だけでなく、言動全体を見て判断します。
Q. 会社側にミスがあれば、顧客が怒鳴ってもカスハラにはなりませんか?
会社側にミスがあることは重要な事情ですが、それだけで暴言、脅迫、人格否定、過度な威圧等が当然に許されるわけではありません。会社側の問題と顧客の言動の相当性を分けて確認する必要があります。
Q. 「責任者を出せ!」と大声で言われたらカスハラですか?
責任者への説明を求めること自体が直ちにカスハラになるわけではありません。要求の理由、大声の態様、侮辱や脅迫の有無、繰り返しの程度などを総合的に確認します。
Q. 他のお客様がいる前で怒鳴られた場合はどうですか?
周囲への影響も判断事情の一つになります。他の顧客や従業員が萎縮する、業務が中断するなど、職場全体への影響が生じている場合には、その事情も考慮します。
Q. 大声を出されたらすぐ警察を呼んでもよいですか?
大声だけを理由に一律に警察へ通報するというものではありません。一方、暴行、傷害、脅迫など犯罪に該当し得る言動がある場合や、安全確保が困難な場合には、企業があらかじめ定めた方針等に基づき警察への相談・通報を検討します。
Q. 従業員が「怖い」と感じたら、それだけでカスハラになりますか?
本人の感じ方は重要ですが、就業環境が害されたかについては、「平均的な労働者の感じ方」を基準として判断することが適当とされています。個別の事実関係を総合的に確認します。
まとめ|大声ではなく「言動全体」を見る
顧客が大声を出したという事実だけで、直ちにカスタマーハラスメントになるわけではありません。
一方で、大きな声を上げて従業員や周囲を威圧する言動は、社会通念上許容される範囲を超える手段・態様として問題になることがあります。
判断するときには、
- 要求内容
- 発言内容
- 声を上げた態様
- 頻度・継続性
- 言動に至った経緯
- 企業側の対応
- 就業環境への影響
などを総合的に確認します。
重要なのは、
「大声だったからカスハラ」でもなく、
「一度だけだからカスハラではない」でもない。
ということです。
正当な苦情には誠実に対応する。
会社側に問題があれば改善する。
しかし、社会通念上許容される範囲を超えた言動については、従業員一人に耐えさせない。
「顧客を敵にしない。従業員を一人にしない。」
この基本姿勢を持ちながら、企業として共通の判断基準と対応体制を整えておくことが重要です。
参考資料
本記事は、厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)」、厚生労働省「あかるい職場応援団」、その他の厚生労働省公表資料をもとに、一般社団法人パワーハラスメント防止協会が実務上理解しやすいよう整理・解説することを想定して作成しています。
具体的な事案については、個別の事実関係、業種・業態、業務内容、契約関係、言動の態様・頻度・継続性、労働者の状況その他の事情によって判断が異なる場合があります。
