Column – 72
【パワハラ加害者・パワハラ行為者への対応方法の豆知識】
なぜ再発するのか?パワハラ行為者の傾向と防止対策のポイント

職場でのパワーハラスメント(パワハラ)は、組織の健全な運営を脅かす重大な問題です。特に、加害者が再び同様の行為を繰り返す「再発」は、被害者や周囲の従業員に深刻な影響を及ぼします。本記事では、パワハラ行為者の再発傾向と、その防止対策について詳しく解説します。
パワハラ行為者の再発傾向
パワハラ行為者が再発に至る背景には、複数の心理的・組織的要因が絡み合っています。表面的には“注意したのにまた繰り返した”ように見えても、実際には「本人の認識不足」や「職場の構造的な問題」が根底にある場合が少なくありません。ここでは、行為者に共通する再発傾向をいくつかの側面から掘り下げて解説します。
1. 自覚の欠如と正当化傾向
パワハラ行為者の多くは、自らの言動がハラスメントに該当しているという「自覚がない」、あるいは「必要な指導だった」と正当化している傾向があります。とくに「指導の一環」「相手のためを思って言った」といった理由で、自分を納得させているケースは少なくありません。これにより、反省の機会を逃し、同様の行動を繰り返しやすくなります。
2. 権限構造への過信
管理職やベテラン社員など、ある程度の権限を持つ立場にある人ほど、自分の行動が許容されるという誤認を持ちがちです。組織がその行動を見て見ぬふりをしてきた場合、「黙認されてきた」という経験が積み重なり、パワハラ行為へのブレーキが働かなくなることがあります。
3. 感情コントロールの未熟さ
パワハラには怒りや苛立ちなどの感情が直接的に関係することが多く、感情の自己管理が苦手な人は再発しやすい傾向にあります。感情のトリガーとなる場面(たとえば、部下のミスや進捗遅れ)に直面した際、冷静さを保つスキルを持ち合わせていないと、また同じように攻撃的な言動をとってしまいます。
4. 職場文化の影響
「昔からこのやり方だった」「自分もこうやって育てられた」といった、企業風土の中にある“ハラスメントの温床”が、行為者の再発を助長することもあります。上司が強く言って当然という文化、ミスを叱責で解決する風潮などが根付いている職場では、パワハラの再発を“個人の問題”として片付けにくく、組織としての取り組みが求められます。
5. 再発防止措置の不十分さ
注意や処分を受けたとしても、再発を防ぐ具体的な教育や支援がない場合、行為者は自分のどの言動が問題だったのか理解できないままになります。結果として、表面的に反省したふりをしても、根本的な認知や行動が変わっていないため、数ヶ月後には同じような事案を起こすケースが見られます。
6. 対人スキルの乏しさ
部下とのコミュニケーションに不安を抱えている人や、言葉の選び方・聞き方のバリエーションが少ない人は、どうしても一方的な叱責や否定的な指導に偏りやすくなります。本人は「わかりやすく伝えたつもり」でも、相手にとっては威圧的に受け取られやすく、そのミスコミュニケーションが再発につながります。
再発防止のための対策

パワハラ行為の再発を防ぐためには、単に行為者を叱責したり処分したりするだけでは不十分です。本人の意識改革と組織全体の仕組みづくりの両輪でアプローチすることが、再発防止には不可欠です。以下に、具体的かつ効果的な対策を6つの視点から紹介します。
1. 行為者向けの専門的な研修の導入
一般的なハラスメント研修ではなく、再発者向けの個別対応型プログラムを取り入れることが効果的です。特に、下記のような構成を含む研修が有効です。
- パワハラに該当する具体的な行動の事例解説
- 自分の言動の振り返りと再認識
- 相手の立場に立つエンパシートレーニング
- 怒りや苛立ちをコントロールするスキルの習得
こうしたプログラムは、心理的アプローチと実務的アプローチの両方を組み合わせて構成されており、再発リスクを確実に低下させる実績があります。
2. 継続的な個別面談とモニタリング
研修後に放置してしまえば、再び元の行動パターンに戻る可能性があります。そのため、定期的なフォロー面談が欠かせません。人事部やコンプライアンス担当者が、行為者と1対1で行動の変化や意識の確認を行いましょう。面談では以下を意識します。
- 最近の言動や部下との関係性についてのヒアリング
- 改善した点・困難に感じていることの共有
- 具体的なフィードバックと次回までの目標設定
3. 管理職としての教育の再構築
行為者が管理職である場合、リーダーシップ教育の見直しも必要です。役職者であることが「厳しさ」「強さ」と混同されているケースでは、「信頼される指導者とはどうあるべきか」「支援型リーダーシップとは何か」といった観点からの再教育が求められます。
4. 感情マネジメント支援
パワハラには「怒りのコントロール」が密接に関係しています。再発防止には、アンガーマネジメントや認知行動療法的なアプローチを取り入れたトレーニングが有効です。社内外の専門家によるワークショップやオンラインプログラムなどを導入することで、行為者が感情に支配されにくい状態をつくることができます。
5. 組織環境の整備と透明性の確保
個人への対応と並行して、再発を許さない職場の空気づくりも重要です。具体的には、以下のような仕組みを整えると良いでしょう。
- 匿名での通報窓口の整備と、報告後の適正な対応
- 管理職を対象にした定期研修とコンプライアンスチェック
- パワハラに関する定期的な意識調査
- 評価制度に「部下育成力」や「信頼性」を組み込む
組織としての毅然とした姿勢を示すことで、「またやっても大丈夫だろう」という行為者の慢心を未然に防ぐことができます。
6. 被害者・関係者へのケアと情報共有
再発防止策には、被害を受けた側や同じチームで働く従業員へのケアも含まれます。心理的安全性の確保は、職場全体の安心感と、パワハラ抑止の好循環を生み出します。具体的には次のような対応が推奨されます。
- 被害者へのカウンセリング支援
- 部署異動や勤務体制の柔軟な調整
- 研修や面談の実施状況についての全体共有(可能な範囲で)
まとめ

パワハラ行為者の再発を防ぐためには、行為者本人の意識改革だけでなく、職場全体の環境整備や継続的な支援が不可欠です。組織として、パワハラを許さない姿勢を明確にし、再発防止に向けた取り組みを継続的に行っていくことが求められます。