Column – 71
【パワハラ加害者・パワハラ行為者への対応方法の豆知識】
無自覚なパワハラ加害者・パワハラ行為者の特徴とその対応策

パワハラ問題の根深さの一つは、「加害者に自覚がない」ことにあります。悪意があるなら指摘や制裁も通じますが、無自覚なケースでは、本人が問題を理解しておらず、改善の意志すら持っていないことも。ここでは、無自覚なパワハラ加害者の特徴を多角的に分析し、その背後にある心理や行動傾向を明らかにします。
無自覚なパワハラ加害者・パワハラ行為者の特徴

1. 「正しいことをしている」という思い込み
無自覚な加害者は、「自分は間違っていない」と強く信じています。特に、管理職や経験年数が長い人に多く見られる傾向です。「厳しく言うのは指導の一環」「自分もこうやって育てられた」と、過去の成功体験を根拠に、自らの言動を正当化します。
2. 感情の鈍感さ・共感性の欠如
被害者の表情や言葉から「嫌がっている」「傷ついている」といったサインを読み取る力が乏しい傾向があります。これは単なる無関心ではなく、他人の感情を想像する力(共感性)が育っていないことが背景にあります。
3. 冗談や軽口の“ズレ”に無自覚
「このくらい普通だろう」「冗談じゃないか」という言葉を多用する人は、相手との距離感や時代の変化を正しく理解できていない可能性があります。性別、年齢、容姿、家庭環境など、現在ではNGとなる話題を無邪気に持ち出してしまうのもこのタイプです。
4. 被害者側に問題があると思い込む
「あいつが打たれ弱いだけ」「社会人なんだから当然」といった発言をする加害者は、自分の言動にではなく、被害者側の耐性や適応力に問題があると考えています。これは責任転嫁でもありますが、根底には自己防衛や現実逃避の心理もあります。
5. 一貫性のない行動と言動
パワハラ加害者の中には、「優しく褒めた直後に怒鳴る」「状況によって態度が豹変する」といった不安定な行動パターンを持つ人もいます。これにより被害者は「何が地雷なのかわからない」と委縮し、精神的な負荷を大きく抱えることになります。
6. フィードバックへの防衛反応が強い
無自覚な加害者は、指摘や注意を受けると「自分が悪者にされた」と受け取ることがあります。話をすり替える、被害者を責め返す、涙や怒りで場を支配しようとするなど、防衛反応が強く現れる傾向があります。
7. コミュニケーションの主語が常に「自分」
「自分はこう思った」「自分ならこうする」といった“自己中心型”の会話が多く、相手の立場に立った言葉が極端に少ないのも特徴の一つです。これは対話ではなく、独白に近い状態です。
8. 過去の環境に縛られている
かつての職場文化や体育会系の価値観など、「昔の常識」に強く依存しているケースもあります。今の時代にそぐわない言動でも、「昔はこれが普通だった」という理由で改善意欲を持たないのが問題です。
9. パワハラの定義を正しく理解していない
意外にも多いのが、そもそも“何がパワハラか”を知らない人。厚労省の6類型(身体的・精神的攻撃、過小・過大要求、人間関係切り離しなど)を研修などで学ぶ機会がないまま、独自の価値観で判断していることがあります。
なぜ「自覚がない」ままパワハラは続くのか?背景と構造を徹底解説

無自覚なパワハラは、加害者に悪意がない分、発見も改善も難しい問題です。「そんなつもりはなかった」「普通の指導だった」と言い張る行為者に対し、どうしてこれほどまでに“気づけない”まま“繰り返してしまう”のでしょうか? 本記事では、その心理的・構造的・文化的背景を多角的に分析します。
1. 心理的なバイアスと防衛反応
① 自己正当化バイアス
人は自分の行動を肯定的に解釈したがる傾向があります。たとえ他人が不快に感じていても、「自分は良かれと思って言った」「厳しさも成長のためだ」と自分の行為を正当化し、反省よりも弁明を優先してしまうのです。
② 認知的不協和の回避
「良い上司でいたい」「部下思いでありたい」という自己イメージを持つ人にとって、自分の行為が“ハラスメント”と認定されることは強いストレスになります。その結果、無意識に「そんなはずがない」と事実を否定・歪曲する心理反応が生じます。
③ 他責思考のクセ
他者に原因を求めやすい人は、「言われた相手が敏感すぎる」「最近の若者は打たれ弱い」と環境や相手の問題にすり替えることで、自身の非を認める苦痛から逃げようとします。
2. 組織構造や評価制度の影響
① 成果重視がハラスメントを隠す
組織によっては、上司の言動よりも「結果が出ているか」が重視される文化があります。営業成績や納期達成などの成果を上げる人物であれば、多少の強圧的な態度も“リーダーシップ”と誤認され、問題視されにくくなります。
② 上位者を指摘しにくい関係性
上下関係が強く、「目上の人に物申す」ことが許されない風土では、部下や同僚がパワハラに気づいても、本人に伝えるどころか報告すらできません。その結果、加害者は“誰からも否定されない=問題ない”と誤認し続けます。
③ ハラスメント対策制度の形骸化
相談窓口があっても、実際には「動かない」「守秘義務が曖昧」「報復を恐れる」などの理由で利用されないことも多々あります。このような制度の“見せかけ感”が、加害者の自覚を妨げています。
3. 職場文化と“普通”の基準のズレ
① 昔の常識を引きずっている
「昔はこれが普通だった」「自分もこうやって鍛えられた」など、過去の職場文化を現在にそのまま持ち込む人は珍しくありません。特に中高年層の男性に多く見られ、価値観の更新が追いついていないことが問題となります。
② 暗黙の“耐える文化”
職場に「我慢してこそ社会人」「理不尽に耐えて成長する」という空気が蔓延していると、被害者自身が「この程度でパワハラというのはおかしい」と感じてしまい、声を上げづらくなります。結果的に、加害者も気づく機会を失います。
③ ノンバーバルな圧力
誰も口にしなくても、「あの人に逆らうと面倒」「言っても無駄」といった空気感があると、表面的には問題が見えにくくなります。特に古参社員や実力者が加害者だった場合、周囲は“見て見ぬふり”をしやすくなります。
4. 被害者側の“沈黙”も影響する
① 言えない・気づかれない
被害者が我慢してしまう理由はさまざまです。報復を恐れていたり、上司との関係を壊したくなかったり、自分の立場に自信がなかったり。その沈黙は、加害者にとって「問題なし」のサインとして誤解されがちです。
② 被害者が自分を責める
「自分が至らないから怒られたのかも」「期待されているから厳しいのかも」と、被害者側が自己否定的な思考に陥ることもあります。これにより、加害者の問題行動が表に出る機会はさらに減っていきます。
まとめ

無自覚なパワハラが続いてしまうのは、加害者の性格だけでなく、職場の構造や文化、周囲の沈黙など複合的な要因が絡み合っているからです。「気づいてもらえない」のではなく、「気づけるようになっていない」のです。対応の第一歩は、“気づきの場”を意図的につくること。組織の側にも、仕組みと雰囲気の整備が求められます。