Column – 70
【パワハラ加害者・パワハラ行為者への対応方法の豆知識】
パワハラ加害者・行為者への対応方法:行動改善に導く実践知識

職場でパワーハラスメント(パワハラ)が発生したとき、加害者への対応を誤ると、被害者の離職や職場環境の悪化、さらなるトラブルを招きかねません。特に加害者の行動背景や性格は多様であり、一律的な処分や注意だけでは根本的な改善に至らないケースも少なくありません。本記事では、パワハラ行為者のタイプ別特徴と、それぞれに合った対応方法を実践的に解説します。
パワハラ加害者・パワハラ行為者の特徴と対応のポイント

パワハラ加害者には、共通する特徴と同時に、性格傾向や立場、業務環境などに応じた個別の背景があります。以下に代表的な5つのタイプを紹介し、それぞれに応じた対応の方針を提示します。
1. 権威主義型
特徴:年功序列や役職による「上下関係」に強いこだわりを持ち、自分よりも立場の弱い相手に対して高圧的な態度を取りがちです。指示は常に命令調で、異論を認めず、自らの価値を職位と実績で誇示する傾向があります。
主な言動例:
- 「俺の若い頃はもっと厳しかった」などの過去自慢
- 部下を“教育”と称して怒鳴る
- 反論を封じる雰囲気を作る
対応策:
- 会社の就業規則や行動指針を用いた、ルールベースでの指導
- 直属上司または人事部からの明確な警告
- 「立場ある人ほど模範的行動が求められる」という責任の自覚を促す研修
2. 自己防衛型
特徴:不安感が強く、失敗を極端に恐れるタイプ。他人を支配下に置くことで自己を守ろうとし、過度に完璧を求めたり、他者への責任転嫁を行いやすい傾向があります。
主な言動例:
- 「これは全部お前のせいだ」と責任を押し付ける
- 部下の報告が遅れるとすぐに激怒する
- 自分の指導方法を疑わない
対応策:
- 「あなたの不安や負担を軽減するため」と伝えての支援提供
- 感情の原因を言語化させるワークショップ(メタ認知トレーニング)
- 成長型マインドセットを身につけさせる研修(失敗を許容する考え方)
3. 感情爆発型
特徴:衝動的に怒りや不満を表現し、声を荒げたり物に当たるなど、情緒的な起伏が激しいタイプです。本人にとっては“一瞬の感情”でも、被害者には深刻な心理的ダメージが残ります。
主な言動例:
- 突然大声を出す・怒鳴る
- 会議中に机を叩く・資料を投げる
- 感情が抑えられず、後から謝ることも
対応策:
- 産業医・カウンセラーとの連携によるストレス管理支援
- 怒りの感情を扱う「アンガーマネジメント研修」
- 周囲への影響度を可視化したフィードバック(被害者の声の共有)
4. 無自覚型
特徴:自分の言動がハラスメントに該当するという意識が希薄で、悪気がなく無神経な発言を繰り返すタイプです。「冗談のつもりだった」「そんなつもりはなかった」が常套句です。
主な言動例:
- 「お前またミス?ほんとポンコツだな(笑)」
- 女性に対して外見や年齢を話題にする
- 「昔はこれくらい普通だった」が口癖
対応策:
- 客観的な基準(判例・社内規定など)を用いた認識ギャップの指摘
- 本人の行動がどう“受け取られたか”に焦点を当てたディスカッション
- マイクロアグレッションなど無意識の偏見に関する教育
5. 成果至上主義型
特徴:成果を上げることに重きを置き、プロセスや人間関係を軽視する傾向にあります。過度なノルマや深夜までの残業指示など、業務面での圧力がパワハラに繋がるタイプです。
主な言動例:
- 「結果を出せなければ価値がない」などのプレッシャー発言
- 部下に対し、常に高い成果を強要する
- 失敗した部下を晒し者にする
対応策:
- 組織として「過程」も評価する制度の導入
- チームビルディングと心理的安全性の理解を深める研修
- 目標設定の適正化と上司による見直しサポート
対応は「人格攻撃」でなく「行動改善」へ

パワハラが起きた際、「加害者を責めたい」「謝罪を強く求めたい」という感情は自然なものです。しかし、感情に任せた“人格否定”や“名指し非難”を行ってしまうと、逆に以下のような悪影響を招くことがあります:
- 加害者が防衛的・攻撃的になり、対話が成立しなくなる
- 責任を他者に転嫁しようとし、事実関係の認識が歪む
- 謝罪はするが「本心では反省していない」状態が続く
- 処分だけで終わり、根本的な行動は何も変わらない
フィードバックは“行動”に絞る
加害者への対応は、「人となり」ではなく「具体的な行動」に焦点を当てることが肝要です。たとえば、
- NG:「あなたはいつも威圧的だ」→ 人格を攻撃する表現
- OK:「昨日の会議で声を荒げたことで、○○さんが話しにくくなっていました」→ 行動の事実と影響にフォーカス
このような「Iメッセージ」や「事実+影響」のフレームで伝えることで、加害者が自らの行動を見つめ直すきっかけになります。
非難ではなく“理解”から入る
加害者も、多くの場合「悪意」ではなく「誤解」「習慣」「ストレス」「価値観のズレ」から行動しています。以下の問いを用いると、建設的な対話のきっかけになります:
- 「この発言をしたとき、どんな意図がありましたか?」
- 「相手がどう感じていたかについて、どう思いますか?」
- 「次回、同じ状況があったとしたら、どう行動したいですか?」
これは“追及”ではなく、“共に振り返る”姿勢です。相手に「自分で考え、変わる余地がある」と感じてもらえる関わり方こそ、行動改善の第一歩です。
「行動改善」は一度で終わらない
加害者にとっての行動改善は、時間がかかるプロセスです。単発の注意や研修で変わることは稀であり、継続的な関わりが必要です:
- 定期的な面談やフォローアップ(3ヶ月~半年)
- 匿名フィードバックの活用(360度評価)
- 再発傾向が見られた場合の段階的な是正措置
「何度も指導しているのに変わらない」と感じたときこそ、プロセスの点検と支援の方法見直しが必要です。
組織全体で支える文化が必要
個人の行動改善は、本人の努力だけでなく、周囲のサポート体制にも依存します。
- ミスや相談を“責めない”文化を育てる
- 小さな成功(変化)を肯定的にフィードバックする
- 人事制度に「人間関係の良好性」などを評価項目として組み込む
行動改善を促すには、「変わろうとする人を支える職場風土」が欠かせません。加害者の“変化”に寛容な職場は、被害者にも「安心して働ける場」となり、組織全体のエンゲージメント向上にもつながります。
まとめ

パワハラの加害者対応は、処分や指導にとどまらず、「どうすれば再発しないか」「どうすれば本人が変わるか」を中長期で見据える必要があります。人格を責めず、行動に着目するアプローチを丁寧に積み重ねることが、真の改善を生む鍵です。