Column – 78
【パワハラ防止研修お役立ちマニュアル】
パワハラ防止研修は義務?企業が知っておくべき対策と研修の重要性

職場でのパワーハラスメント(パワハラ)は、従業員の心身に深刻な影響を及ぼすだけでなく、企業の信頼性や生産性にも悪影響を与えます。近年、法改正により企業にはパワハラ防止措置が義務付けられましたが、研修自体は義務ではありません。
しかし、効果的な研修を実施することで、職場環境の改善やトラブルの未然防止につながります。本記事では、パワハラ防止研修の必要性や実施方法について詳しく解説します。
パワハラ防止措置の義務化とは?

「パワハラ防止が義務化された」と聞くと、「パワハラ研修をしなければいけないのか?」と誤解する方も多いかもしれません。実際に義務化されたのは、職場におけるパワハラ防止の“措置”であり、研修そのものは法的に義務付けられていません。
■ 背景と法律の位置づけ
2020年6月に施行された「改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)」により、大企業に対してパワハラ防止措置の実施が義務付けられました。その後、2022年4月からは中小企業にも同様の義務が拡大され、全ての企業が対象となっています。
この法律では、パワハラとは「職場において優越的な関係を背景に行われる業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動で、労働者の就業環境を害するもの」と定義されています。
■ 企業が講じるべき主な措置
- ① 方針の明確化と周知・啓発:パワハラを許容しない姿勢を明文化し、社内に周知
- ② 相談体制の整備:相談窓口の設置や対応フローの構築
- ③ 迅速・適正な対応:事実関係の確認と被害者・加害者への適切な措置
- ④ 再発防止策の実施:加害者への指導・配置転換など継続的な改善
■ 企業規模ごとの注意点
企業区分 | 義務化の時期 | 対応が必要な主な内容 |
---|---|---|
大企業 | 2020年6月〜 | 全措置義務。研修は任意だが実施推奨 |
中小企業 | 2022年4月〜 | 大企業と同様の義務。特に体制整備が課題 |
■ 罰則や行政指導について
パワハラ防止措置に法的な義務があるとはいえ、違反した場合の罰則(罰金や刑事罰)は設けられていません。しかし、厚生労働省や労働基準監督署からの行政指導や、企業名の公表といったレピュテーションリスク(評判リスク)が存在します。
また、被害を受けた従業員から損害賠償請求を受けるケースも実際に起きており、法的責任を問われるリスクは小さくありません。
■ 防止措置と研修の関係を表で整理
パワハラ防止措置における各要素と、研修によってどのような効果が得られるかを表にまとめました。研修は義務ではありませんが、防止措置の実効性を高めるために非常に有効な手段です。
防止措置の項目 | 研修で補える内容 | 期待される効果 |
---|---|---|
方針の明確化と周知 | パワハラを許さない職場方針の伝達 法的背景と企業の姿勢を共有 |
従業員の意識統一 組織としてのメッセージの強化 |
相談体制の整備 | 窓口の存在や相談の流れを周知 相談する側・受ける側それぞれの心構え |
相談件数の増加・早期発見 対応の迅速化と安心感 |
迅速・適正な対応 | 管理職向けに対応の基本を伝授 事実確認・関係者の保護・記録の重要性 |
対応ミスによる二次被害防止 企業としての信頼保持 |
再発防止策の実施 | ケーススタディやロールプレイで 行動改善の指導方法を学習 |
再発の防止 加害者の再教育と職場全体の変化 |
パワハラ防止研修の重要性

パワハラ防止措置は法律上の義務ですが、そこで定められたルールを実際に機能させるには、従業員一人ひとりの「理解」と「行動」が欠かせません。研修はその橋渡しとなる重要な施策であり、単なる知識伝達にとどまらず、組織風土の改革やリスクマネジメントにも直結します。
■ なぜ「研修」が必要なのか?
たとえばパワハラの加害者は、必ずしも“悪意ある人物”とは限りません。「指導のつもりだった」「自分の経験では当たり前だった」という、無自覚な加害行為が職場で多発しているのが現実です。
研修では、こうした“グレーゾーンの言動”について具体的な事例を通じて明確化し、職場における健全なコミュニケーションのあり方を学びます。
■ 組織にとっての「研修」の効果
- ① リスクの最小化:法的リスク・評判リスク・離職リスクを減少
- ② 行動の標準化:管理職・現場リーダーの行動に一貫性が出る
- ③ 組織文化の改善:「パワハラは許されない」という共通認識の醸成
- ④ 相談しやすい環境の整備:被害者が孤立せず、問題が早期に表面化
■ 研修の受講者別メリット
対象者 | 研修で得られる効果 |
---|---|
一般社員 | ・どのような言動がパワハラかを明確に理解できる ・自分や他人が被害を受けた際の対応がわかる |
管理職・役職者 | ・無意識のパワハラを防ぐ意識が育つ ・部下との関わり方、注意・指導の伝え方を見直す機会に |
経営層 | ・自社の風土や対応体制の現状を客観的に把握できる ・組織のリスクマネジメントとしての研修の価値を理解 |
■ 社外ステークホルダーへの信頼にも直結
パワハラ問題が発覚した際、SNSや報道によって企業のブランドイメージは一瞬で毀損されます。日ごろから研修を通じて職場の風通しを良くし、健全性をアピールすることは、取引先・株主・求職者への信頼構築にも大きく貢献します。
■ 一過性ではなく「文化」として根づかせる
一度の研修で全員の意識が変わるわけではありません。重要なのは、研修を単発イベントで終わらせず、定期的に・継続的に実施することです。習慣として定着させることで、「あたりまえに尊重し合える職場」が少しずつ育っていきます。
研修の実施方法と比較
研修形式 | メリット | デメリット |
---|---|---|
社内研修 | 自社文化に合った研修ができる/柔軟な内容設定 | 担当者の専門性が問われる/属人化のリスク |
外部講師 | 専門性の高い講義/最新の判例や傾向も学べる | コストがかかる/日程調整が必要 |
eラーニング | 時間と場所を選ばない/反復学習しやすい | 参加者の集中力が保ちにくい/双方向性に欠ける |
まとめ

パワハラ防止措置はすべての企業にとって法的な義務です。一方で、研修自体は義務ではないものの、措置の実効性を高め、トラブルを未然に防ぐためには欠かせない取り組みとなります。企業として“やるべきこと”と“やっておいた方がよいこと”を正しく整理し、計画的に実行していくことが、安心して働ける職場環境づくりにつながります。