Column –
【パワハラ防止研修お役立ちマニュアル】
なぜ研修後も再発?行動が変わるパワハラ防止研修の本質
なぜパワハラ防止研修後も再発が起きるのか。知識提供型研修の限界と、行動変容を生む研修設計の条件を専門的に解説。人事・管理職が再発防止に本当に必要な視点と実務対応がわかる。

パワーハラスメント防止研修を実施したにもかかわらず、一定期間を経て同様の問題が再発してしまう──。多くの企業・組織で繰り返し語られる課題です。本記事では、「なぜ研修を受けても行動が変わらないのか」という検索ユーザーの根源的な疑問に正面から向き合い、再発を防ぎ、実際に行動変容を起こすパワハラ防止研修の条件を、専門的かつ実務的な視点で解説します。
制度対応としての研修ではなく、現場で機能する研修とは何か。人事・コンプライアンス担当者、管理職、研修設計者が知っておくべきポイントを体系的に整理します。
研修をしても再発する理由
「理解している」と「できている」は別
多くの加害事案では、当事者本人が「パワハラはいけないことだと分かっている」と認識しています。それでも再発が起きるのは、知識理解と実際の行動は別の次元だからです。人は強いストレスや責任感、焦りにさらされると、理性的判断よりも感情反応が優位になります。
再発は「悪意」ではなく「条件反射」で起きる
再発の多くは、意図的な加害ではなく、過去の成功体験や職場文化の中で身についた反応パターンが自動的に表出した結果です。この点を理解せず、「意識が低い」「反省が足りない」と評価してしまうと、適切な対策から遠ざかります。
知識提供型研修の限界
法律解説・定義説明だけでは行動は変わらない
パワハラの定義や法的リスクを丁寧に説明する研修は重要です。しかし、それだけでは「知っているが、現場では止められない」という状態を改善できません。これは多くの研修担当者が実感している点でしょう。
「正しい答え」を覚える研修の落とし穴
選択式テストやケーススタディで模範解答を学ぶ形式は、評価には適していますが、実際の職場の複雑な人間関係や時間的制約の中では再現性が低くなりがちです。
行動変容が起きる研修設計の条件
「自分の行動」を題材にする
行動が変わる研修では、抽象的な事例ではなく、本人が実際に経験した場面を素材にします。どの瞬間に何を感じ、どんな選択をしたのかを具体的に言語化することで、再発条件が明確になります。
小さな行動単位まで分解する
「気をつける」「優しくする」といった抽象目標ではなく、声量、言葉の選び方、間の取り方など、行動を細分化して設計することが重要です。
再発防止に必要な心理的アプローチ
感情を抑えるのではなく「気づく」
多くの研修では「怒らないようにする」ことが強調されますが、感情そのものを消すことはできません。重要なのは、感情が高まった瞬間に気づき、行動との間に距離を取る力を育てることです。
安全に振り返れる場の設計
責められない、安全な対話環境がなければ、本人は防衛的になり、本音の振り返りができません。心理的安全性(安心して意見や感情を表明できる状態)は、行動変容の前提条件です。
組織側に求められる支援と環境調整
個人任せにしない再発防止
再発防止を本人の努力だけに委ねると、失敗時のダメージが大きくなります。業務量、役割の曖昧さ、評価制度など、組織側の条件整理が不可欠です。
「監視」ではなく「伴走」
定期的なチェックや面談は有効ですが、監視的になると逆効果です。「困ったときに相談できる」仕組みとして設計することが重要です。
実務で活かすための具体策
研修後フォローの設計
単発研修で終わらせず、一定期間の振り返りやフォローアップ面談を組み合わせることで、学びが定着しやすくなります。
管理職・人事の役割分担
現場上司、人事、外部専門家がそれぞれの立場で役割を分担し、一貫したメッセージを出すことが再発防止につながります。
パワハラ防止研修を形骸化させないために
「やった感」で終わらせない評価軸
受講率や満足度だけでなく、行動指標(相談件数の質、コミュニケーションの変化など)を中長期で見る視点が必要です。
研修は組織文化づくりの一部
パワハラ防止研修は単独施策ではなく、組織文化を育てるプロセスの一部として位置づけることで、初めて効果を発揮します。
まとめ|行動が変わる研修にするための要点
- 知識理解と行動変容は別物と認識する
- 本人の実体験をもとに研修を設計する
- 感情への気づきと行動設計をセットで行う
- 組織側の支援と環境調整を欠かさない
よくある質問(FAQ)
Q. 何度研修をしても同じ人が問題を起こします
A. 知識型研修だけでは限界があります。行動条件と感情反応に踏み込んだ個別対応が必要です。
Q. 管理職が防衛的で研修が進みません
A. 評価や処分と切り離した安全な場を用意することが重要です。
Q. 外部研修と内部対応、どちらが有効ですか
A. 目的によりますが、組み合わせることで効果が高まるケースが多いです。
参考・情報源
- 厚生労働省「職場におけるハラスメント対策」https://www.mhlw.go.jp/
- 日本産業カウンセラー協会 https://www.counselor.or.jp/
- ILO(国際労働機関) https://www.ilo.org/
