Column –
【パワハラ防止研修お役立ちマニュアル】
パワハラ防止研修を実施しない企業に理由を聞きました
パワハラ防止研修を実施しない企業に理由をヒアリングし、その背景・課題・解決策を専門的に解説します。制度理解・リスク管理・風土改善の観点から離脱せず読める構成でまとめました。

目次
- パワハラ防止研修を実施しない企業が挙げる主な理由
- 企業が抱える構造的な課題(深層要因)
- 研修を行わないことで発生するリスク
- パワハラ防止研修を実施するメリット
- 効果的なパワハラ防止研修の設計ポイント
- 研修を導入した企業の変化
- FAQ(よくある質問)
- まとめと次アクション
- 参考・情報源
パワハラ防止研修を実施しない企業が挙げる主な理由
ヒアリングを重ねると、多くの企業が「研修を実施しない」ことを選択しているわけではなく、必要だと認識しながらも踏み切れない構造的要因を抱えていることが見えてきます。
1. 「うちは問題が起きていない」という認識
中小企業を中心に多いのが、潜在化したパワハラに気づけていない状態です。相談窓口が機能していない、離職者が離職理由を正確に伝えない、業務多忙で対話の機会が少ないなどの要因で、問題が水面下で進行しているケースは珍しくありません。
2. 管理職層の反発・抵抗感
「自分たちの指導スタイルを否定される気がする」「管理手法が縛られる」という懸念が根強く、研修導入が経営層で止まる事例もあります。特に成果至上主義の組織では、“強いリーダー像”が誤って固定化されていることがあります。
3. 研修の効果がわかりにくい
売上と直結する研修ではないため、「費用対効果が見えにくい」という声は多く聞かれます。実際には、離職コスト・採用コスト・生産性低下などの“見えない損失”が発生していますが、可視化されていない企業も少なくありません。
4. そもそも研修の種類や必要性が理解されていない
パワハラ防止研修にも、一般社員向け・管理職向け・組織風土改善型など複数のタイプがあります。自社に合った形式が分からず、選べないまま先延ばしになっているケースも多く存在します。
企業が抱える構造的な課題(深層要因)
表面上の理由の裏には、より根本的な組織課題があります。
1. コミュニケーション文化が属人的
評価制度・育成方針が曖昧な企業では、上司の個人的価値観で指導が行われやすく、ハラスメントに発展するリスクが高まります。制度設計が追いついていないことが研修実施を妨げています。
2. 本質的なリスクマネジメントが不十分
パワハラは「感情の問題」ではなく、法的リスクと損失リスクを内包しています。ところが、労務管理を十分に理解している企業はまだ多くありません。
- 企業の信用低下
- 損害賠償請求
- 離職の連鎖
- 採用難の深刻化
これらが複合的に起こると、研修費をはるかに上回る損失につながります。
3. 経営層の情報不足
制度の義務化が進んでも、経営層が最新の労務トレンドを把握していないケースが見られます。「義務なのか努力義務なのか」「どこまで対策すべきか」が理解されないまま放置されることも少なくありません。
研修を行わないことで発生するリスク
実施しない場合のリスクは、大きく3つに分類されます。
1. 法的リスク
厚生労働省が公開している指針では、事業主が講ずべき措置として以下が明示されています。
- 社内方針の明確化
- 研修などを通じた周知・啓発
- 相談対応体制の整備
研修を実施しない企業は、このうちの一部を欠く可能性があり、結果として労務トラブル時の責任が重く評価されることがあります。
2. 組織の健全性が失われる
パワハラは組織の静かな崩壊を招きます。
- 優秀人材の離職
- チーム内の関係悪化
- 心理的安全性の低下
- 生産性低下による業績悪化
特に心理的安全性が低い組織では、イノベーションが生まれにくくなり、長期的な競争力を喪失します。
3. 採用難の深刻化
企業口コミサイトやSNSを通じて、社員の声が可視化される時代です。内部の問題は外部に伝わりやすく、採用ブランディングに多大な影響を与えます。研修を行わない企業は、求職者から「人を大切にしない企業」と判断されることがあります。
パワハラ防止研修を実施するメリット
企業側が研修を導入した結果、得られた主なメリットは次のとおりです。
1. 管理職の指導力向上
管理職が「叱る」「指導する」「育成する」を適切に区別できるようになり、部下への関わり方が改善します。結果として、チームの目標達成度が上がったケースも多く報告されています。
2. 離職防止・定着率向上
パワハラ防止研修は、社員からは「会社が自分を守ろうとしている」というメッセージとして受け取られます。心理的安全性が高まることで、離職率の低下につながります。
3. 企業イメージの向上
人材を大切にする姿勢は、採用活動や企業ブランディングにも好影響を与えます。求職者にとって、研修制度が整っていることは重要な安心材料になります。
効果的なパワハラ防止研修の設計ポイント
1. 一般社員向け・管理職向けを分ける
研修内容は立場によって大きく異なります。特に管理職は、法的責任・指導方法・評価との連動など、より高度な内容が求められます。
2. 自社の事例を使う
抽象的な説明だけでは効果が薄くなります。匿名化した社内事例を素材にすることで、自分事として捉えやすくなり、行動変容が促されます。
3. 研修後のフォローアップを行う
単発研修では行動変容が定着しづらいため、以下を併用すると効果が高まります。
- 定期的なアンケート
- 相談窓口の整備
- 管理職へのコーチング
- 社内の対話の場の設置
研修を導入した企業の変化
ここでは、一般的に報告されている傾向のみを記します。
- 管理職の暴言が減少し、部下が意見を言いやすくなった
- 離職理由の上位から「上司との関係」が消えた
- 業績会議が建設的になり、目標達成の精度が向上した
- ハラスメント相談窓口が実質的に機能し始めた
研修を単なる教育ではなく、組織変革の起点として位置づけられるかが成果の分岐点になります。
FAQ(よくある質問)
Q1. パワハラ防止研修は義務ですか?
周知・啓発は事業主が講ずべき措置として定められています。研修という形式が必須ではありませんが、多くの企業が最も確実な周知方法として採用しています。
Q2. どの規模の企業から必要ですか?
規模に関わらず、すべての企業にパワハラ対策が求められます。小規模事業者でも相談体制や啓発が必要です。
Q3. 一般社員にも研修は必要ですか?
必要です。パワハラは管理職だけが起こすものではなく、同僚同士や部下から上司へのケースもあり、全社員の理解が不可欠です。
Q4. オンライン研修でも効果はありますか?
可能です。特にケーススタディやロールプレイを取り入れた双方向型であれば、対面と同等の効果が得られます。
Q5. 予算が限られている場合の対策は?
短時間研修、動画教材の併用、管理職限定の重点研修など段階的な導入が可能です。最も重要なのは、まったく実施しない状態を避けることです。
まとめと次アクション
主要な学び
- 多くの企業は「必要性は理解しているが踏み切れない」構造的悩みを抱えている
- 研修を行わないことで、法的リスク・組織崩壊・採用難の三重苦が発生する
- 研修は単なる教育ではなく、組織文化を整える起点となる
- 自社に合わせて内容をカスタマイズするほど定着率が高まる
読者が今すぐできる次アクション
- 管理職と現場の「課題認識のズレ」を一度棚卸しする
- 自社に必要な研修タイプ(一般社員向け/管理職向け)を整理する
- 自社事例の匿名化素材を集め、研修に活かせる状態にする
- 定期的なアンケートや面談を通じて心理的安全性を可視化する
参考・情報源
- 厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html
- 独立行政法人 労働政策研究・研修機構「ハラスメントに関する調査」 https://www.jil.go.jp/
- 民間調査機関による職場のハラスメント実態調査 https://www.stat.go.jp/
