Column – 74
【パワハラ加害者・パワハラ行為者への対応方法の豆知識】
パワハラ加害者を懲戒処分することでパワハラ問題は解決されるのか?

パワハラ問題への対処として、加害者に懲戒処分を下すことは、企業の責任ある対応のひとつとされています。しかし、それだけで本当に問題は解決するのでしょうか?
本記事では、懲戒処分の意義や限界、そして真の解決につなげるために必要な視点や対策について、具体的に解説します。
1. 懲戒処分の目的とは?
懲戒処分は、企業の就業規則に基づき、不適切な行為を行った従業員に対して下される法的措置です。パワハラ行為に対する懲戒処分は、以下のような目的を持っています。
- 行為者への責任追及:不適切な行為に対してけじめをつける。
- 被害者の名誉回復:組織が被害を軽視しない姿勢を示す。
- 職場全体への警鐘:再発を防ぐ抑止力としての効果。
このように、懲戒処分は「企業としての毅然とした姿勢」を内外に示す手段として重要な役割を担います。
2. 懲戒処分だけでは問題が解決しない理由
懲戒処分は、行為者への責任追及として一定の効果を持ちますが、それだけでパワハラ問題が解決するわけではありません。表面的な対処にとどまり、根本原因や職場環境へのアプローチが欠けていれば、問題は再発・拡大する可能性さえあるのです。
以下に、懲戒処分だけでは問題解決に至らない主な理由を詳しく解説します。
- 1. 組織文化や風土にメスが入らない
パワハラが発生する背景には、「上司が強く出るのは当然」「成果さえ出せば手段は問わない」といった職場の価値観や文化が影響していることがあります。加害者個人を処分しただけでは、そのような根本的な構造に変化は生まれず、別の人物が同じ行為を繰り返すリスクが残ります。 - 2. 被害者が十分に救済されない
懲戒処分が下されても、被害者が職場に安心して戻れるとは限りません。精神的ショックや人間関係の悪化により、退職を選ばざるを得ないケースも少なくありません。真の解決には、被害者に対する継続的なケアと環境調整が不可欠です。 - 3. 行為者が根本的に反省していない可能性
処分を受けた加害者が納得しておらず、「自分は悪くない」「処分は不当だ」と考えている場合、再発のリスクは非常に高まります。再教育やカウンセリングを通じて、加害者が自分の言動を理解・修正する機会を設けなければ、行動変容は望めません。 - 4. 周囲の職場メンバーへの影響
懲戒が行われた事実だけが職場に広がり、「何を言ってもパワハラになるのでは」と社員が過剰に委縮する雰囲気が生まれることもあります。このような空気は、建設的なコミュニケーションの阻害要因となり、組織全体の生産性低下につながるおそれがあります。 - 5. 一時的な抑止効果にとどまる
懲戒処分は短期的には抑止力になりますが、時間が経てばその効果も薄れます。定期的な研修やモニタリング、通報制度の整備といった「継続的な予防施策」がなければ、職場環境は元に戻りやすく、再発の土壌が残ります。
このように、懲戒処分はあくまで「スタート地点」であり、組織として真に問題を解決したいのであれば、以下のような補完策が必要です。
- 職場全体へのハラスメント研修
- 加害者・被害者の両者への心理的サポート
- 評価制度や管理職のマネジメント手法の見直し
- 匿名通報制度や社外相談窓口の設置
懲戒処分だけで満足するのではなく、職場の安全と信頼を回復するための包括的な対策を講じることが求められています。
3. 図解:懲戒処分と再発防止策の関係
施策 | 対象 | 目的 | 効果 |
---|---|---|---|
懲戒処分 | 行為者本人 | 法的責任の追及 | 即時の抑止力 |
研修・再教育 | 加害者・全社員 | 行動・認識の修正 | 理解と防止の促進 |
社内制度の見直し | 管理職・人事 | 環境面からの改善 | 職場文化の是正 |
心理的ケア | 被害者・加害者 | 心の安定と信頼回復 | 働きやすさの向上 |
4. 懲戒処分後に企業が取り組むべきこと
懲戒処分を終えた後こそ、組織としての真価が問われます。以下のような施策を講じることで、再発防止と職場の健全化を図ることができます。
- 定期的なハラスメント研修の実施:加害者だけでなく、職場全体に正しい知識と価値観を浸透させます。
- 相談体制の見直し:匿名でも安心して相談できる窓口を整備し、声を上げやすい環境づくりを行います。
- 管理職への意識改革:「指導」と「ハラスメント」の違いを具体的に学ぶ機会を設け、正しいリーダーシップを育成します。
- 被害者・加害者双方への心理的ケア:社内外のカウンセラーと連携し、感情面での回復も支援します。
処分だけに頼らず、こうした支援策を継続することで、職場の空気は確実に変わっていきます。
5. 処分の適正性と社内の信頼維持
懲戒処分を行う際には、企業の信頼性が試されます。「この処分は適切だったのか?」「公平に調査が行われたか?」といった声に応えるためには、以下のポイントが重要です。
- 公正な調査体制の整備:社内の利害関係に左右されず、第三者を交えた調査委員会の設置も有効です。
- 就業規則と整合した運用:感情的な判断ではなく、客観的な事実に基づいた処分が信頼につながります。
- 透明性のある説明責任:被害者・加害者双方への丁寧な説明が、社内の納得感を生み出します。
処分を「企業の都合」ではなく、「組織としての正義」として理解されることが、職場の信頼を保つ鍵になります。
まとめ
パワハラ加害者を懲戒処分することは、問題解決の“きっかけ”にはなりますが、それ自体が“ゴール”ではありません。懲戒は対処的な一手であり、根本的な解決には、再教育、制度の整備、職場風土の改善、心理的支援といった多角的なアプローチが必要です。
一人を処分すれば終わり、という考え方ではなく、「なぜパワハラが起きたのか」「どうすれば再発しないか」を全社的に考え、対話と改善を重ねていくことが、本当の意味での問題解決につながります。
FAQ
Q. 懲戒処分の種類にはどんなものがありますか?
A. 一般的には譴責、減給、出勤停止、降格、懲戒解雇などがあります。行為の重さに応じて段階的に判断されます。
Q. 処分された社員が納得していない場合は?
A. 十分な調査と説明がなければ、不服申立てや訴訟の可能性もあります。公平な手続きが不可欠です。
Q. 再発防止にはどんな研修が有効ですか?
A. 管理職には「指導とハラスメントの境界」を中心に、一般社員には「対処法」「相談方法」の共有が有効です。
Q. 被害者への対応は加害者を懲戒処分にするだけで十分ですか?
A. いいえ。職場復帰支援やカウンセリング、環境改善が不可欠です。被害者の声に耳を傾ける姿勢が大切です。