Column –
【パワハラ加害者・パワハラ行為者への対応方法の豆知識】
パワハラ行為者への間違った対応|事態を悪化させないためのアプローチ
パワハラ行為者への「間違った対応」は組織のリスクを拡大します。曖昧な指導・和解強要・放置が招く悪影響と、専門的根拠に基づく正しい対応方法をわかりやすく解説します。

パワハラ行為者への対応が重要視される理由
パワーハラスメント(パワハラ)は、被害者の心理的安全性を損なうだけでなく、組織全体の生産性や離職率にも影響を与える重大な問題である。公的機関の調査[参考]でも、職場のハラスメントが組織パフォーマンスに影響することが繰り返し示されている。
パワハラ問題は「個人」ではなく「組織」のリスク
パワハラ行為者への対応を誤ると、組織としてのリスクが拡大する。具体的には以下の通りである。
- 離職増加による採用・教育コストの増大
- 職場環境の悪化による生産性低下
- 企業ブランドの毀損
- 労働紛争リスクの増加
行為者支援の必要性
被害者保護は第一優先だが、行為者への適切な教育・再発防止策も同じく重要である。行為者の多くは「意識のズレ」「コミュニケーションの習慣化された偏り」「マネジメント技術の不足」が背景にあり、適切な介入で改善が期待できるケースもある。
現場で起こりがちな「間違った対応」
パワハラ行為者に対して、組織が陥りやすい誤った対応は少なくない。これらは善意で行われる場合もあるが、結果として状況を悪化させる。
(1)曖昧な注意で終わらせる
「少し強めの言い方にならないよう気をつけてくださいね」という表面的な指導は再発を招く。行動ではなく性格を責める曖昧なフィードバックも逆効果となる。
(2)被害者と行為者を“和解”させようとする
多くの現場で行われがちだが、ハラスメントは「個人同士のトラブル」ではなく職場の問題である。和解強要は二次被害につながる。
(3)行為者の能力が高いために問題視しない
「業績が高い」「管理職経験が長い」という理由から対応が後手に回り、結果として組織文化が歪むケースがある。
(4)人事や経営層が感情的に対応する
行為者を一方的に断罪したり、逆に過剰に擁護したりするのは双方に悪影響である。客観性・公平性の欠如は信頼性を損ねる。
なぜ誤った対応が事態を悪化させるのか
パワハラ対応における失敗は、単にトラブルの長期化だけでなく、組織文化そのものを蝕む。
心理的安全性が失われる
誤った対応は「相談しても意味がない」という空気を作り、他の従業員までも沈黙させてしまう。
行為者の行動修正が進まない
行動のどの部分が問題なのか明確に示されないと、本人は「自分は悪くない」と認識してしまう。再発の可能性が高まる。
組織への不信が広がる
不適切な対応は、被害者だけでなく周囲の従業員の不満も増幅し、離職やパフォーマンス低下につながる。
専門的視点からの正しいアプローチ
ここでは、心理学・組織行動学・人事労務の実務知見を踏まえた適切な対応方法を整理する。
(1)事実確認と構造的分析
行為者の言動を「誰が・どこで・何を・どのように・どれくらい」行ったか、具体的に確認する。これは断罪のためではなく、行動の構造を把握するためである。
(2)行動レベルでのフィードバック(BAFモデルなど)
行動(Behavior)、影響(Affect)、今後の期待(Future)の3段階で伝える。例:
「業務進行中に大声で叱責した行動が、周囲の委縮を生み、生産性が下がった。今後は事実ベースで静かに指摘してほしい。」
(3)行為者の背景理解
行為者の多くは「指導のつもりだった」「厳しくしないと部下が育たない」などの誤った信念を持っている。認知の歪みを理解した上で介入することが効果的である。
(4)再発防止プログラムの実施
研修・カウンセリング・コーチングなどを通じて行動修正を行う。継続的フォローが不可欠である。
組織が整備すべき体制と仕組み
個別対応だけでは再発防止は難しい。組織全体で構造的に取り組む必要がある。
相談窓口の複線化
人事以外にも複数の相談先を設けることで、相談しやすさが向上する。
管理職教育の体系化
管理職向けにコンフリクトマネジメント、コーチング、コミュニケーションなどの研修を体系的に行う。
エスカレーションルールの明文化
問題発生時の対応フローを明文化し、誰がどの段階で何を担当するかを明確にする。
個人・管理職が取るべき行動指針
管理職は「組織文化を守る役割」を担っているため、パワハラ行為者への対応も高い専門性が求められる。
(1)客観性を担保する
個人の好き嫌いではなく、「行動」を基準に判断する。記録を残すことで公平性が高まる。
(2)改善可能性を見極める
改善意欲の有無、コミュニケーション習慣、日常の態度を複合的に評価する。
(3)被害者保護を最優先にする
行為者指導よりも先に、安全確保・配置転換などの配慮が必要である。
ケース別:望ましい対応と避けるべき行動
ケースA:行為者が「指導のつもり」と主張する場合
望ましい対応:
・具体的行動を提示し、影響と改善策をセットで伝える。
・指導技術を高める研修機会を提供する。
避けるべき行動:
・「あなたの性格の問題です」と人格攻撃する。
ケースB:行為者が強い怒りの傾向を持つ場合
望ましい対応:
・感情コントロール支援(心理的スキル訓練)
・業務負荷の調整
避けるべき行動:
・怒りを抑え込ませるだけの表面的指導
ケースC:組織で権力が強い行為者の場合
望ましい対応:
・第三者的視点を持つ外部機関による介入
・ガバナンス基準の適用を徹底
避けるべき行動:
・「仕方がない」と放置する
FAQ:よくある質問
Q1. パワハラ行為者は更生できるのか?
行動ベースでの指導と継続的なフォローがあれば改善可能なケースは多い。ただし、改善意欲が不可欠である。
Q2. 行為者が反論してきた場合どうするべきか?
反論の有無は「事実確認」と切り離して扱う。感情ではなく行動事実に焦点を当てることが重要。
Q3. 行為者への研修は効果があるのか?
コミュニケーションや感情調整のスキル学習は再発防止に一定の効果があることが研究でも示されている[参考]。
Q4. 行為者をすぐ処分するべきか?
処分の判断には、事実確認、被害の程度、改善可能性など複合的な評価が必要であり、慎重さが求められる。
まとめ
◆ 本記事の主要ポイント
- 誤った対応は心理的安全性を損ない、組織全体のリスクとなる。
- 曖昧な注意・和解強要・放置は特に避けるべきである。
- 事実確認・行動フィードバック・構造的介入が正しい対応の核となる。
- 行為者支援は再発防止に有効であり、専門的アプローチが必要。
◆ 今すぐできる次アクション
- 相談体制の確認と改善点の洗い出し
- 管理職向けの研修・教育計画の準備
- パワハラ行為者への対応フローの文書化
- 事実確認シートや行動評価ガイドラインの整備
参考・情報源
- 厚生労働省「職場のハラスメント対策」 https://www.mhlw.go.jp/
- 日本産業衛生学会「職場のメンタルヘルス」 https://www.sanei.or.jp/
- 国立研究開発法人 労働安全衛生総合研究所 https://www.jniosh.johas.go.jp/
- ハーバード・ビジネス・レビュー(組織行動関連) https://www.dhbr.net/
