Column –
【パワハラ加害者・パワハラ行為者への対応方法の豆知識】
行為者向け・パワハラ事案認定に納得できない時の対応実践マニュアル
パワーハラスメント(パワハラ)行為者が、事案認定や対応に納得できない場合に、冷静かつ建設的に向き合うための実践的ステップをまとめた完全ガイド。専門的視点と信頼性の高い情報に基づき、企業・管理職・行為者本人が活用できる内容です。

1. 納得できないと感じる状況とは何か
1-1. 「自分は悪くない」と感じる心理的背景
パワハラ行為者とされる人が「納得できない」と感じる最大の要因は、「自分の意図と受け取られ方のギャップ」です。たとえば以下のような場面が挙げられます。
- 部下への注意や指導を「教育」と思っていたが、相手が「威圧的」と感じた。
- 組織の調査で「被害者の言い分だけが重視された」と感じる。
- 処分内容や理由の説明が曖昧で、納得感を得られない。
- 「自分にも言い分があるのに聞いてもらえない」と感じる。
こうした感情は自然な反応です。しかし、感情的にならず「どの点で納得できないのか」を明確化することが、適切な対応の第一歩です。
1-2. 組織側との認識のズレ
企業側は、労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)に基づき、ハラスメント調査を行います。この過程では、被害者保護を重視する傾向があり、行為者から「不公平だ」と感じられることがあります。 ただし、法的には「行為者の弁明機会を確保すること」も求められており、この点を理解しておくと冷静に対応できます。
2. 自分の立場を正確に理解する
2-1. 「行為者」か「疑われた立場」かを確認する
パワハラに関する立場には段階があります。まず、自分が「確定した加害者」なのか「疑われた段階」なのかを明確にしましょう。
| 区分 | 意味 |
|---|---|
| 行為者(加害者) | 調査でパワハラと認定された、または行為を認めた人。 |
| 疑われた立場 | 調査中または認定前で、事実確認が行われている段階。 |
自分がどの段階にいるかによって、求められる対応や説明要求の仕方が異なります。
2-2. 感情ではなく「事実」と「手続き」で考える
納得できないときほど、感情ではなく「事実」と「手続き」に焦点を当てることが大切です。 ・ どの言動が問題とされたのか ・ その根拠は何か ・ どの規定やルールに基づいて判断されたのか この3点を整理し、冷静に把握しましょう。
3. 事案の整理と証拠・記録の準備
3-1. 客観的に状況を振り返る
自分の記憶だけに頼らず、メール・チャット・メモなど、客観的に確認できる記録を整理します。
- 言動が発生した日時・場所・関係者。
- 当時の状況(業務指示・ミス対応など)。
- 自分の発言意図と相手の反応。
- その後の経過(上司報告・面談・調査など)。
厚生労働省のハラスメント相談サイトでも「事実を具体的に整理しておくことが重要」とされています。
3-2. 納得できない理由を明確化する
「納得できない」と感じる理由を次のように分類すると整理しやすくなります。
- 説明不足:どの行為が問題なのか不明確。
- 手続きへの不信:調査やヒアリングに偏りがあると感じる。
- 判断基準への疑問:何をもってパワハラと判断したのか分からない。
- 処分内容への疑問:過剰または一方的だと感じる。
それぞれについて「何が分からないのか」「どんな説明が欲しいのか」を整理し、対話の土台をつくります。
4. 社内での対応手順と確認すべきポイント
4-1. 社内の規程・プロセスを確認する
多くの企業には「ハラスメント防止規程」や「懲戒規程」があり、手続きの流れが定められています。確認すべき主な項目は次の通りです。
- 調査方法(第三者委員会の有無、関係者ヒアリングの流れ)
- 本人への説明と反論機会の有無
- 処分の種類とその基準
- 再調査・再審請求の仕組みがあるか
もし規程が社内ポータルなどで公開されていない場合は、人事部や総務部に確認を依頼しましょう。
4-2. 面談・報告書提出時のポイント
面談や意見書を出す際には、次の原則を守ると良いでしょう。
- 感情的にならず、事実と根拠を中心に話す。
- 「どうして納得できないのか」を論理的に説明する。
- 改善提案や再発防止の意欲を示す。
これにより、「反発的な態度」ではなく「誠実な再発防止姿勢」として受け止められやすくなります。
5. 社外機関・専門家を活用する
5-1. 外部相談窓口の活用
社内対応で納得できない場合は、外部の中立的機関へ相談できます。
- 総合労働相談コーナー(厚生労働省):パワハラ・解雇・労働条件に関する無料相談窓口。
- 都道府県労働局のあっせん制度:会社との間で第三者が調整を行う制度。
- 弁護士・社会保険労務士:法的観点から手続きの適正性を確認してもらう。
外部機関の相談は「会社に敵対する行為」ではなく、客観的な視点を得るための手段です。
5-2. 相談時の準備
相談時には以下を整理しておくとスムーズです。
- 事案の概要(いつ・どこで・誰に・どのような行為をしたか)
- 会社の対応内容(処分・説明内容など)
- 自分が納得できない点と理由
- 希望する結果(再説明、和解、改善提案など)
文書化しておくと、感情に流されず論理的に話せます。
6. 再発防止と自己改善へのステップ
6-1. 自己分析と行動変容
納得できない状況に直面したとしても、そこで終わらせず「自分の行動を見直す機会」と捉えることが重要です。 心理学的には「行動変容の5段階(無関心期・関心期・準備期・実行期・維持期)」を意識すると改善が定着しやすくなります。
- 自分の言動がどのように受け止められたかを知る。
- 怒りや焦りをコントロールする方法(呼吸・3秒ルールなど)を身につける。
- コミュニケーション研修やカウンセリングで再発防止スキルを磨く。
6-2. 納得感を高める「対話」の重要性
納得できないときほど「説明を受ける」「理解を深める」「相互に学ぶ」ことが必要です。 企業にとっても、行為者が変化を示すことは組織文化の改善につながります。 一方的な反論ではなく、「どのように再発を防ぎたいか」「どう改善していきたいか」を伝える姿勢が信頼回復の鍵です。
まとめ:主要な学びと次の行動
主要ポイント
- 納得できない理由を感情ではなく事実で整理する。
- 社内規程・法律・手続きの正確な理解が不可欠。
- 説明を求める姿勢と再発防止の意欲を明確に示す。
- 外部機関や専門家を上手に活用し、客観的視点を得る。
- 納得を目的にしつつ、自分の成長と信頼回復を目指す。
今すぐできるアクション
- 時系列で自分の行為・説明内容を記録する。
- 社内のハラスメント防止規程を読み返す。
- 人事・上司に「説明面談」を正式に依頼する。
- 感情を整えるセルフケア(深呼吸・冷静な記録化)を行う。
- 必要に応じて外部相談窓口で専門的意見を得る。
FAQ
Q1:自分では指導のつもりでしたが、パワハラと判断されました。なぜですか?
A1:パワハラは「優越的立場」「業務上必要かつ相当な範囲を超える」「就業環境を害する言動」の3要件を満たす場合に該当します。たとえ意図が指導であっても、相手が恐怖・屈辱を感じるレベルだと判断されれば該当する可能性があります。
Q2:調査の内容に不信感があります。どうすればいいですか?
A2:まず、調査方法・判断基準・説明内容を文書で確認しましょう。納得できない場合は、社内のハラスメント相談窓口や人事部門に正式に「再説明を求める書面」を提出できます。
Q3:会社の処分に納得できません。外部相談してもよいですか?
A3:はい。外部機関への相談は本人の権利です。厚生労働省の総合労働相談コーナーや弁護士会の労働相談を利用すると、中立的な助言が得られます。相談は無料で、匿名でも可能です。
Q4:再発防止のために何をすればよいですか?
A4:自分の感情の癖を知ることが第一歩です。怒りを感じたときに一呼吸置く、相手の立場で考える、適切なフィードバック手法(SBI法やDESC法)を学ぶなどが有効です。
Q5:行為者として社内で孤立してしまいました。どう立て直せばよいですか?
A5:まず誠実な態度で対話を続けることが大切です。改善意欲を見せ、信頼回復の行動(謝罪・報告・学び直し)を積み重ねましょう。組織内での孤立は一時的なものです。焦らず「行動で示す」ことが最も効果的です。
参考・情報源
- 厚生労働省「職場におけるハラスメント対策」 https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/
- 総合労働相談コーナー(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html
- 企業法務メディア「パワハラ防止法の概要と実務対応」 https://kigyobengo.com/media/useful/260
