パワハラ加害者への懲戒処分マニュアル|人事労務が守るべき法的注意点

Column –
【パワハラ加害者・パワハラ行為者への対応方法の豆知識】
パワハラ加害者への懲戒処分マニュアル|人事労務が守るべき法的注意点

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パワハラ懲戒の法的枠組み(定義・義務・根拠)

パワハラの定義と典型類型

公的指針では、職場での①優越的な関係を背景とした言動で、②業務上必要かつ相当な範囲を超え、③就業環境を害するものをパワハラと定義し、身体的攻撃・精神的攻撃・人間関係からの切り離し・過大な要求・過小な要求・個の侵害の6類型を例示しています。

事業主の措置義務(防止・相談対応・不利益取扱いの禁止)

法令は、事業主に対し、「相談体制の整備」「再発防止」「相談した労働者への不利益取扱いの禁止」等の雇用管理上の措置を義務づけています。派遣を含む広範な労働者が対象で、出張先・取引先・接待の場なども実質的に職務の延長であれば「職場」に含まれると示されています。

懲戒の法的根拠(就業規則・労基法・労契法)

  • 就業規則の整備:懲戒の種類・事由・手続を規定し、所轄労基署への届出と周知が必要。
  • 懲戒の濫用禁止:懲戒は「客観的に合理的理由」を欠き「社会通念上相当」でないと無効。
  • 減給の上限:制裁としての減給は、一回の額・一賃金支払期の総額に上限がある。

 

実務フロー:懲戒判断フローチャート(保存版)

フローチャート

  1. 通報受付:被害申告・目撃報告・相談窓口からの連絡 → 初動安全確保(配置配慮・一次聴取)。
  2. 予備評価:指針の6類型に照らし、<業務上の必要性>の範囲か<逸脱>か仮説立て。
  3. 調査計画:関係者・資料・期間・守秘・利害相反回避(社外も含む)を計画。
  4. 事実認定:二者択一でなく「合致/矛盾/不明」を分類、録音・メール・チャット・勤怠・業務指示との整合で裏づけ。
  5. 法的評価:就業規則の該当条項、労契法の相当性、労基法の制約(減給上限等)をチェック。
  6. 処分案比較:けん責/減給/出勤停止/降格/諭旨退職/懲戒解雇 などを、再発可能性・企業への影響・一貫性で比較。
  7. 弁明機会:行為者に要点を提示し、反論と証拠提出の機会を確保(記録化)。
  8. 決裁・通知:決定理由・根拠条項・再発防止措置を明記。必要に応じ限定的な社内周知。
  9. フォロー:被害者の職場復帰支援、配置配慮、再発モニタリング、管理職の再教育。

懲戒検討シート

事実証拠類型就業規則の根拠影響再発可能性処分候補相当性チェック
具体的行為を要約録音/メール/証言六類型いずれか第◯条第◯号被害・組織影響高/中/低例:出勤停止◯日過去事例との整合、濫用回避

※医療的所見や録音の真正判断など、専門評価が必要な領域は要取材として社外専門家の関与を検討します。

 

事実認定の難しさと対策

感情依存の判断

「雰囲気」で重処分を選ぶと紛争化のリスクが急増します。言動の頻度・継続性・文脈・立場差・業務必要性を要素に、証拠で裏づけできる事実のみを積み上げます。

証拠の優先順位

  1. 客観資料(録音・チャットログ・メール・勤怠・指示書)
  2. 第三者証言(同席者・窓口担当)
  3. 当事者陳述(前後の一貫性・具体性)

ヒアリングは二名体制・逐語記録・確認サインで再現性を高めます。派遣・請負・取引先を含む場面も「職場」に含み得る点に注意してください。

ヒアリング質問票(雛形)

  • いつ・どこで・誰が・誰に・何を・どの程度(回数/時間/言葉/態様)
  • 業務上の目的(あれば)と他の達し得る手段の有無
  • 周囲の反応・影響(体調・業務支障)
  • 記録・物証の有無、提出可否
  • 再発防止に必要な措置の希望

 

処分の相当性と均衡

「量刑のばらつき」を防ぐチェック

  • 同種同程度事案で過去と同等処分か(過去記録を参照)。
  • 故意・継続性・地位の影響力が高いほど重く、懲戒解雇は最終手段。
  • 指導・配置変更など侵襲性の低い代替で足りないかを検討。
  • 懲戒の目的は規律と再発防止であり、見せしめの制裁は避けるべき。

減給・出勤停止の実務注意

  • 減給上限:一回の額・一賃金支払期の総額に法定上限あり。就業規則に具体的上限と算式を明記し、適用経緯を記録。
  • 出勤停止:期間・賃金の扱い・目的(再教育・環境遮断)を明確化し、必要最小限に。

懲戒解雇のハードル

懲戒解雇は解雇法理(客観的合理性・社会的相当性)と就業規則の根拠・手続の厳格な適合が求められます。軽率な適用は無効リスクが高く、諭旨退職や長期出勤停止+降格など段階的措置の妥当性も併せて比較します。

 

手続の公正性と個人情報

手続の要点(弁明・記録・周知)

  • 弁明機会:行為者に主な疑義と根拠を提示し、反論と証拠提出を受け付ける。
  • 記録化:受付~決定~フォローまで、時系列で記録・保管。再発防止に資する。
  • 限定周知:処分は人事情報。知る必要がある範囲に限定し、目的・内容・再発防止のみを端的に共有。

個人情報・健康情報の扱い

雇用管理情報(人事評価・健康情報等)の取り扱いは、目的明確化・取得最小化・安全管理・第三者提供の統制が基本です。健康情報は特に慎重な管理が求められます。

外部機関の活用(あっせん等)

当事者間の溝が深い場合、都道府県労働局・労働委員会のあっせんで早期の合意形成を図れます。申請は事業主側からも可能で、非公開・簡易・迅速な手続が特徴です。

 

FAQとまとめ

FAQ(よくある質問)

Q. 一度の叱責でもパワハラになり得ますか?
A. 業務指導の範囲内なら該当しませんが、人格否定・威圧等で就業環境を害すれば一度でも該当し得ます。定義要件と6類型で評価します。
Q. 行為者が管理職の場合、処分は重くすべきですか?
A. 地位の影響力や再発可能性を考慮し、一般に重く評価されやすい一方、過去の運用との一貫性も重要です(濫用回避)。
Q. 減給と出勤停止を同時に科せますか?
A. 可能ですが、重畳により過度にならないよう、法定上限と相当性・必要性を精査し、理由を明確に記録してください。
Q. 社内公表はどこまで行うべきですか?
A. 個人特定を避け、再発防止策・行為の類型・規律の方針に限定して共有します。目的外利用や過度な情報拡散は避けてください。
Q. 調査で医療情報に触れる場合の留意点は?
A. 必要最小限の取得にとどめ、目的の明確化・安全管理を徹底します。取り扱いはガイドラインに適合させてください。

 

まとめ:主要学び/次アクション

  • 定義と要件を先に当てはめる:6類型と「業務上の必要性」の線引きを明確化。
  • 就業規則の三点セット:種類・事由・手続を明文化し周知。届出も失念しない。
  • 相当性の筋を通す:過去運用との一貫性、代替手段の有無、減給上限の厳守。
  • 手続の公正と個人情報保護:弁明機会、記録、限定周知、健康情報の慎重管理。
  • 外部資源の活用:労働局・労働委員会のあっせん等で早期解決を検討。

今すぐできること:①就業規則の懲戒条項と周知状況を点検、②相談窓口の体制と調査手順書を整備、③「懲戒検討シート」を使い過去事例との整合リストを作成、④管理職向けに「指導とハラスメントの境界」教育を実施。

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参考・情報源

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