Column – 83
【パワハラ加害者・パワハラ行為者への対応方法の豆知識】
パワハラ加害者は「アンガーマネジメント」で更生できるのか?

職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)は、個人や組織に甚大な悪影響を及ぼします。被害者の心身の健康を損ない、職場の生産性や雰囲気を著しく低下させるケースも少なくありません。一方で、パワハラ加害者に対しては「更生」が可能なのか、どのような形で再発防止を図るべきか、といった問いがしばしば投げかけられます。
本記事では、パワハラ加害者が「怒りのコントロール」すなわち「アンガーマネジメント」を身につけることで、本当に再発を防ぎ、更生することができるのかについて、考察します。
パワハラの本質と加害のメカニズム

パワハラは、単なるコミュニケーションの行き違いや、感情的な衝突だけが原因ではありません。権力関係のもとで、相手を傷つけたり、恐怖心を与えたりする行為が含まれています。パワハラ加害者はしばしば、自分の行動が「指導」や「指摘」の範疇であると正当化しがちですが、実際には自分の感情やストレスを適切に管理できていない場合が多いのです。
怒りは人間誰しもが感じる自然な感情ですが、その表し方や頻度が極端だったり、攻撃的な言動に結びつく場合、周囲の人々に大きな被害をもたらします。パワハラ加害者には、しばしば「怒りを感じやすい性格」「ストレス耐性の低さ」「自分の感情への気づきの乏しさ」などの傾向が見られます。
アンガーマネジメントとは何か

アンガーマネジメント(怒りのコントロール)は、1970年代にアメリカで発展した心理トレーニングの一つです。怒りという感情の仕組みを理解し、それにどう対処していくかを学ぶことで、不必要な衝突やトラブルを未然に防ぐことを目指します。
主な内容は以下の通りです。
- 自分の怒りを認識し、冷静に観察する力を養う
- 怒りの背景となる価値観や思考パターンを見直す
- 感情を適切に表現するためのコミュニケーション技術を身につける
- ストレスの原因を把握して対処する方法を学ぶ
アンガーマネジメントを習得することで、短気な反応や暴言を抑え、より成熟した対応が可能になります。
怒りのコントロールは加害者更生の鍵となるのか
加害者がアンガーマネジメントを学ぶことで、確かに職場での衝突やハラスメント行為を減らすことができるという実証研究は少なくありません。実際、企業の再発防止プログラムや研修の中にアンガーマネジメントを取り入れるケースも増えています。
しかし、パワハラの背景には、単なる怒り以外にも「権力欲」「他者への共感の欠如」「ストレスの発散方法の歪み」など、複数の要因が複雑に絡み合っています。怒りのコントロールだけで全ての問題が解決するわけではありません。
アンガーマネジメントの限界
- 加害者自身が「自分の行動が問題である」と認識しない限り、行動の変化は期待できない
- 怒り以外の感情や動機が関係している場合、再発予防には他のアプローチも必要
- 組織の風土や評価制度がパワハラを助長している場合、個人の努力だけでは改善が難しい
こうした点から、アンガーマネジメントは更生の「一助」にはなり得ますが、十分条件とは言えないのです。
効果的なパワハラ再発防止に必要な要素

パワハラ加害者の更生には、アンガーマネジメント以外にも多角的なアプローチが求められます。
- 行動の客観的な振り返りと継続的なフィードバック
- 被害者との対話や修復的な取り組み
- 組織としての職場環境改善や管理職への教育
- 加害者のストレスマネジメントやメンタルヘルス支援
- 必要に応じて専門家によるカウンセリングや心理療法の活用
これらを包括的に進めることで、パワハラの再発のリスクを大幅に減らすことができます。
職場ができること・求められること
組織としては、パワハラ防止のためのガイドラインや通報制度の整備、定期的な教育・研修の実施が不可欠です。一方で、パワハラ加害者が自分自身の行動や感情に真摯に向き合い、自発的に変わる意思を持つことも重要です。
職場での行動を変えるには、以下のようなサポート体制が必要です。
- 第三者によるモニタリングや相談窓口の設置
- 継続的なフォローアップと評価
- 個人の成長を見守る風土づくり
まとめ

パワハラ加害者がアンガーマネジメントを実践することで、更生や再発防止に近づくことは十分に期待できます。しかし、それだけで全てが解決するわけではなく、動機の多様性や組織の構造、本人の自覚といった複数の要因を考慮に入れる必要があります。
本当の意味での「更生」とは、パワハラ加害者が自分の行動を自覚し、被害者の苦しみに向き合い、再発防止に努め続けることです。職場全体としても、一人ひとりが安全・安心に働ける環境づくりのために、継続的な取組みが求められています。
個人・組織の双方が学びと成長を続けること――それこそが、パワハラのない職場を実現するための第一歩なのかもしれません。