Column – 91
【パワハラ防止研修お役立ちマニュアル】
【管理職向け】パワハラ防止研修で学ぶ指導とパワハラの違いの基準

管理職にとって「正しい指導」と「パワハラの境界線」は明確に理解しておくべき重要なテーマです。
本記事では、言葉遣い・目的・態度などを軸に、「部下の成長を促す指導」と「相手に苦痛を与えるパワハラ」を分かりやすく整理します。研修で活用できる判断基準や対応の豆知識も紹介します。
指導とパワハラの基本的な違い

「指導」は部下の成長や業務改善を目的としたコミュニケーションであり、一方で「パワハラ」は権力関係を利用して相手に苦痛を与える行為です。前者は必要性があり、受け手への配慮が伴いますが、後者は業務に無関係な発言や威圧的な態度を含む点で区別されます。
特に厚生労働省が示すパワハラの定義では、以下の3要素をすべて満たすものが該当します:
① 優越的な関係を背景とした言動
② 業務上必要かつ相当な範囲を超えている
③ 労働者の就業環境が害されるもの
指導が適切かパワハラかを判断する基準

現場では「これは厳しい指導なのか、それともパワハラなのか?」という判断が非常に難しい場合があります。とくに管理職は、業務を円滑に進めるために部下に指示や注意をする立場にありますが、その言動が不適切であればパワハラと見なされるリスクがあります。
適切な判断には、以下のように複数の視点を組み合わせて総合的に見ることが必要です。1つの軸だけで判断するのではなく、「目的」「方法」「態度」「状況」「受け止め方」など、多面的に評価することで、より確実な判断が可能になります。
判断軸 | 指導に該当する要素 | パワハラになりやすい要素 |
---|---|---|
1. 目的・意図 | 部下の育成、業務改善のための具体的な目標がある。 | 感情のはけ口や支配・排除のために言動が使われている。 |
2. 必要性と相当性 | 業務に必要な範囲内での注意や助言。 | 業務と無関係な話題、極端な量や頻度の叱責。 |
3. 言動の内容・態度 | 丁寧で冷静な伝え方。相手の理解度に応じて言葉を選んでいる。 | 大声で怒鳴る、皮肉や嘲笑を交える、感情的で一方的な言い方。 |
4. 場所・タイミング | 人目のない場所で、落ち着いて話す配慮がある。 | 他の社員の前で侮辱する、繰り返し同じ指摘を長時間続ける。 |
5. 相手の受け止め方 | 相手が「納得できる」「改善に役立った」と受け止めている。 | 相手が「怖かった」「屈辱的だった」と精神的ダメージを受けている。 |
この5つの軸は、企業のハラスメント防止ガイドラインや労務管理においてもよく使われる基本的な枠組みです。研修ではこれを「チェックシート化」し、ケースに応じて参加者自身が判定できるように訓練するのが効果的です。
たとえば、「業務改善のために注意したが、相手が涙を流して席を外した」といった状況では、「目的」は正当でも「態度」や「タイミング」に問題があった可能性があります。このように1つの軸では判断が難しいため、複数の側面からバランスよく検討することが重要です。
また、「受け手の主観で決まるのか?」という疑問も多く聞かれますが、法的判断では受け手の感じ方だけでなく、客観的な状況・証拠・証言も重視されます。ですので、加害者本人が「正当な指導だった」と思っていても、社会的な基準と照らし合わせて不適切とされる可能性があることを忘れてはいけません。
研修では、こうした判断軸をもとに、実際の言動を「これはパワハラに該当するか?」「どこを改善すれば適切な指導になるか?」と具体的に見直す演習が効果的です。単に「これはダメ」と教えるのではなく、「こうすれば伝わる」という改善視点を持たせることが、行動変容の第一歩になります。
ケーススタディ:よくある誤解される指導例と改善策

以下に、管理職が「普通の指導」と捉えがちな言動について、パワハラに該当しやすいパターンと改善例をまとめました。
“誤った”言動例 | パワハラ指摘の理由 | 改善した指導例 |
---|---|---|
「やる気ないのか!」と怒鳴る | 人格を否定、感情的で威圧的 | 「最近元気がないように見えるけど、何か困っていることある?」と声かけ |
長時間にわたって執拗に叱責 | 必要性を超えた指摘、被害者環境を害す | 「ここは改善点です。一緒にどう直すか考えましょう」と短く具体的に切り出す |
能力や性格を否定する発言 | 人格攻撃、評価に無関係な否定 | 「この部分はこうすれば信頼を得られる」と改善点を示しつつ期待を伝える |
こうした“無自覚なパワハラ”は、管理職自身が気づかずに行いがちです。研修内で具体例を事前に共有しておくことも大切です。
研修に取り入れるべき判断と指導スキル強化の方法

研修では、以下のような演習やワークが有効です。
- 判定ワーク:複数の事例を示し、「これは指導か?」をグループで議論。
- ロールプレイ:加害者・被害者・第三者に分かれて状況を体験、言葉や態度を改善。
- 反応想像ゲーム:「この言い方をされたらどう感じるか」を参加者同士で伝え合う演習。
- フィードバック技術演習:否定ではなく、改善点+期待を組み合わせた伝え方を練習。
これらを通じて、単に知識を伝えるだけでなく、「相手の立場で感じる力」を鍛えることが研修の狙いです。
また、事前に自社のパワハラ防止方針や相談窓口、相談フローを共有しておくことも不可欠です。どこに相談すべきかが明確になっていることで、万一の際に迅速に対応できます。
まとめ
指導とパワハラの違いを判断するには、「目的」「言動の態度」「業務との関係」「相手の受け止め方」などを総合的に見る必要があります。管理職研修では、この判断基準と実践演習を組み合わせることで、現場での対応力を効果的に高められます。
研修を通じて、相手の成長を促す指導に対する自信を養いながら、パワハラを未然に防ぐ知見を習得しましょう。
FAQ
Q1: 厳しく叱るだけでパワハラになるの?
A1: 単に厳しいだけではなく、相手に苦痛や屈辱を与えるような言動があればパワハラに当たります。必要性と程度を考慮し、改善を促す姿勢が求められます。
Q2: 嫌味や皮肉は指導になる?
A2: 嫌味や皮肉は相手の尊厳を傷つける可能性が高く、指導には該当しません。具体的な改善点を示す前向きなコミュニケーションを心がけましょう。
Q3: 指導とパワハラの判断に迷ったときは?
A3: 部下にどう受け止められるかを基準に考え、複数軸(目的・方法・態度・相手の視点)で判断するよう心がけましょう。