Column – 92
【パワハラ防止研修お役立ちマニュアル】
【管理職向け】パワハラ研修で学ぶ企業の法的リスクと管理職の責任

パワハラが企業に及ぼす法的リスクは、訴訟・賠償・行政処分だけでなく、社内の信頼や企業ブランドにも深刻な影響を及ぼします。特に管理職には加害行動を防ぎ、被害発生時には適切に対応する「責任」が求められています。
本記事では、企業が負う法的責任と、管理職が研修を通じて果たすべき役割を明確にし、加害者対応の実務的なヒントを紹介します。
企業の法的責任とその背景

日本では「パワーハラスメント防止法(労働施策総合推進法の改正)」により、企業に「防止措置」の義務が課されています。違反があれば行政指導や企業名の公表があり、民事訴訟では企業の“使用者責任”や“安全配慮義務違反”が問われます。
● 使用者責任:社員が職務中にハラスメントをした場合、企業にも責任が及ぶ(民法715条)
● 安全配慮義務:社員の心身の安全確保は企業の義務であり、違反すれば債務不履行となる(労働契約法5条ほか)
特に管理職の無自覚な言動が被害を招くと、企業が訴えられる事例も少なくありません。例えば、上司の繰り返しの叱責により部下がうつ病を発症し、企業と上司に700万円以上の損害賠償が命じられたケースも存在します。
判例・実例から見る損害額・対応不足の影響

判例では、被害者への慰謝料・休業補償・治療費などを含め、大きな金額が企業に求められるケースが増えています。また複数従業員が集団で訴訟を起こし、組織として甚大な負担となる例も報告されています。
事例 | 内容 | 影響 |
---|---|---|
長時間の人格否定的叱責 | 部下がうつ病発症、治療不可→訴訟 | 慰謝料約700万円+企業責任追及 |
取り組み不足、相談窓口不備 | 被害を見逃し、複数部下から訴訟 | 数百万円規模の賠償、対応費用増加 |
報道による社会的批判 | メディアで公になる | ブランド低下・離職増・採用難 |
法的賠償は一時的な損失ですが、ブランド毀損や離職、採用力低下などにより長期的な成長力を削ぐ結果にもなり得ます。
管理職研修で求められる役割:法的理解と行動変容

研修で管理職に必要なのは、法的知識の伝達だけでなく、「自分ごと化」を促す仕組みです。判例や制度をもとにしたワークを通じ、具体的な対応力を身につけさせることが重要です。
- ケーススタディ型演習:実際の事例を読み、判断・対応を議論
- 役割分担型ロールプレイ:加害者・被害者・第三者に分かれ対応を体験
- 対応テンプレートの習得:謝罪・是正措置・フォローアップの手順を学ぶ
特に加害者対応については、「どう謝るか」「どう改善案を示すか」「どう再発を防ぐか」を研修内で具体的に練習させることで、自発的な行動変容が期待できます。
加害者対応の豆知識:研修で役立つ具体策

管理職が現場でパワハラ加害者に対処する場面では、感情論に流されず、冷静かつ建設的な対応が求められます。研修では、以下のような対応フェーズを理解し、実践的に身につけることが重要です。
形式的な謝罪や曖昧な表現では被害者の納得が得られず、対応の失敗がさらなる問題に発展するリスクもあります。
対応フェーズ | 具体的内容 | 狙い |
---|---|---|
① 認識と謝罪 | 加害行為を事実として認め、「申し訳ない」と明言する。責任の所在をあいまいにせず、被害者の感情に寄り添う。 | 問題の所在明確化/信頼回復の第一歩 |
② 改善案の提示 | 具体的に何を変えるのか(指導のトーン、伝え方、タイミングなど)を言語化して示す。必要に応じて外部研修受講なども加える。 | 再発防止/部下の理解と安心感 |
③ 継続的フォロー | 定期面談や振り返りシートなどを通じて「改善が継続しているか」を客観的に確認。上司による状況把握もセットで行う。 | 持続的改善と安全配慮義務の履行 |
こうしたステップを体系的に研修に組み込むことで、単なる知識提供ではなく、「実際にどう動くか」が身につきます。また、加害者対応には人事部門や外部専門家との連携も欠かせないため、管理職には“ひとりで抱え込まない”姿勢も必要です。
なお、加害者本人が「自分は悪くない」「指導の一環だった」と主張するケースも少なくありません。そうした場面では、主観ではなく事実ベースでのフィードバックが効果的です。行為と結果を切り分けて説明し、感情的な応酬を避けながら冷静に行動改善へ導くコミュニケーション力も、研修で習得すべき重要なスキルのひとつです。
まとめ
本記事では、企業が負う法的責任(使用者責任と安全配慮義務)、判例に見る損害事例、ブランド毀損リスク、そして管理職研修において実務的に必要な加害者対応を整理しました。
企業として法的リスクを低減させるためには、管理職が「加害に加担しない」だけでなく、「万一発生した場合に適切に対応できる」スキルを習得する必要があります。研修のデザインにこれらを取り入れることで、企業の安全配慮義務を果たし、組織の健全性を守りましょう。
FAQ
Q1: 企業が賠償責任を問われる条件は?
A1: 社員のハラスメント行為が職務中と認定され、企業が相談窓口など適切対策を講じていなかった場合、「使用者責任」や「安全配慮義務違反」で企業も責任を問われます。
Q2: 社名公表されることはある?
A2: 防止措置義務違反が認められると、是正勧告と共に社名が公表され、社会的信頼を大きく損なう可能性があります。
Q3: 研修で加害者対応を教える効果は?
A3: 謝罪・改善案提示・フォローの演習を通じて、管理職自身が当事者意識を持ち、現場での即応力を養うことができ、再発防止につながります。