パワハラ被害者対応だけでなく加害者更生研修を同時に進める実践法

パワハラ被害者対応だけでは不十分——加害者更生カウンセリング研修を同時に進める理由と実装法

Column –
【パワハラ加害者・パワハラ行為者への対応方法の豆知識】
パワハラ被害者対応だけでなく加害者更生研修を同時に進める実践法

パワーハラスメントの再発防止には、被害者対応と同時に加害者更生カウンセリング研修が不可欠です。公的ガイドラインや信頼できる情報源に基づき、具体的な手順・体制づくり・評価指標まで実務で使える形で解説します。

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1. はじめに:被害者対応だけでは足りない理由

 

パワーハラスメント(以下、パワハラ)は、被害者の心身の健康と職場の安全性・生産性に深刻な影響を与えます。多くの組織はまず被害者の安全確保や相談対応に取り組みますが、そこで止まると再発リスクが残存します。加害者(行為者)の行動原理・感情の扱い・コミュニケーション習慣が変わらなければ、構造的な危険因子は職場に残り続けるためです。

公的ガイドラインは、相談体制整備、事実確認、被害者保護と並び、行為者に対する適正な措置や再発防止のための教育等を求めています(ガイドラインの趣旨)。本記事は、被害者対応の実務ポイントを押さえつつ、加害者更生カウンセリング研修を同時に進めるべき理由と導入方法を、信頼できる情報に基づいて整理します。

 

2. 被害者対応の基本:安全確保・事実確認・不利益取扱い防止

 

2-1. 相談窓口と安心の設計

相談は「話しにくさ」を前提に設計します。プライバシー保護、オンライン・対面双方の選択肢、相談したことで不利益が生じない明確な方針、傾聴と中立性が要点です。相談経路は複線化(上司・人事・外部窓口等)し、利用ハードルを下げます。

2-2. 事実関係の速やかな確認

ヒアリング(いつ・どこで・誰から・どの言動か)、関連資料・ログ・目撃者情報を丁寧に集約し、記録化(記入者・日付・場所・要点)します。被害に関する仮説に依存せず、反証可能性を担保した調査設計が重要です。被害者には過度な再聴取を避け、心理的二次被害を最小化します。

2-3. 安全配慮と環境調整

接触回避(座席・業務・シフト調整)、担当替え、心理的ケア(産業医・公認心理師等の専門職連携)、復帰支援の計画などを必要に応じて講じます。被害者の希望・体調・業務要件の三点を丁寧に調整し、意思確認・記録・合意形成をセットで進めます。

2-4. フィードバックと再発防止への橋渡し

個別ケースの示唆を制度改善へ反映します。相談のしやすさ、対応の迅速性・公正性、再発防止の見える化(方針・処置・教育)を定期レビューし、従業員への周知を継続します。

 

3. 加害者対応の必要性:行動変容なくして再発防止なし

 

3-1. 「自覚の薄さ」と「習慣化した指導」

加害者側に「自分は指導のつもり」という認識が根強いケースは少なくありません。役割期待・業務圧力・コミュニケーション習慣が重なると、攻撃的言動が常態化します。懲戒のみでは行動の学習が起こらず、再発の温床になります。

3-2. 組織リスクと信頼低下

対応が片手落ちだと、法的リスク、採用力の低下、離職増、心理的安全性の損傷につながります。レピュテーションを守る観点でも、加害者の行動変容と職場風土の修復を並行して進める必要があります。

3-3. 行動変容の科学的下支え

行動変容は、気づき(認知)→動機づけ(内在化)→実践(行動)→定着(習慣化)の段階を踏みます。講義だけでは「分かった気」になりやすく、個別カウンセリング・ロールプレイ・フィードバック・フォローアップを組み合わせる学習設計が有効です。

 

4. 加害者更生カウンセリング研修の構造と学習設計

 

行為者の内面(感情の扱い・信念・思考の癖)と外面(言動・伝え方)に同時に働きかけるのが要諦です。研修の導入検討時には、以下のような構成要素を確認します。なお、具体的なプログラム例は、パワハラ加害者更生カウンセリング研修を参照できます。

4-1. 学習モジュール(例)

  • 自己認識:セルフチェック、360度観点でのフィードバック
  • 知識基盤:パワハラ定義・態様・境界、就業規律と責任
  • 感情調整:怒りの発火点の同定、緊張の身体サイン、クールダウン技法
  • コミュニケーション:SBI(状況・行動・影響)やDESC(描写・感情・提案・結果)などの実践
  • ロールプレイ:対話の置き換え練習、難場面の台本化とやり直し
  • 個別カウンセリング:思考の癖(過度の一般化・二分法等)への介入、目標設定
  • フォローアップ:行動目標の追跡、再学習、評価者面談

4-2. 評価と可視化

学習効果の可視化は、本人・上司・人事の納得性を高めます。例:再発率、関係者ヒアリング、面談記録、コミュニケーション頻度・内容の質的変化、エスカレーションの適正化など。

4-3. 倫理と権利の両立

研修参加にあたっては、本人の権利(人格権・プライバシー)への配慮、記録の取り扱い、第三者への共有範囲、目的外利用の禁止を明確にします。被害者保護と行為者の教育権の両立が運用品質を左右します。

 

5. 双方対応モデル:被害者支援+加害者更生+職場文化の三位一体

 

5-1. モデルの全体像

フェーズ 主対象 主な対応 成果の指標(例)
初期対応 被害者 相談・安全確保・一次ケア 不利益防止、心理的負担低減
調査・処置 被害者+加害者 事実確認・適正措置 納得性、公正性の担保
更生・教育 加害者 更生カウンセリング研修 行動変容、再発率低下
定着・改善 職場全体 文化改革・制度改定 離職率・満足度・通報件数の健全化

5-2. 心理的安全性と評価制度の接続

心理的安全性(安心して意見を言える状態)は、業績評価・人事ロジックと矛盾しない設計が必要です。例:管理職評価に「指導の質」「通報対応」「育成成果」を組み込み、ハラスメント抑止を評価構造でも支えることが肝要です。

5-3. 組織学習としての再発防止

個別事案を「学習可能な失敗」と捉え、制度・教育・マネジメントにフィードバックする仕組みを常設します。再発ゼロを“目標”に据えつつ、検知→対応→学習→改善の機能を回し続けることが現実的かつ効果的です。

 

6. 実装ステップ:導入・運用・定着のロードマップ

 

6-1. 方針と規程の明文化

  • 非容認方針・定義・範囲・相談ルート・不利益取扱い禁止・懲戒・教育の位置付けを規程化。
  • 従業員向けハンドブックやeラーニングで周知し、理解度を測定。

6-2. 相談・記録・調査の運用基盤

  • 相談記録の標準様式(要点・証拠・希望・対応時点)を統一。
  • 調査の公平性を担保するため、関係者の利益相反を回避し、手続を透明化。

6-3. パワハラ加害者更生カウンセリング研修の導入

  • 対象選定(再発リスク、役割影響度、本人の学習準備性)。
  • モジュール設計(講義+カウンセリング+ロールプレイ+フォロー)。
  • 評価(行動目標、関係者フィードバック、再発率)。

6-4. KPIとモニタリング

  • 相談件数・経路の多様性、処理リードタイム、被害者満足度。
  • 加害者の行動変容指標(言い換え率、叱責頻度の質的変化、面談記録)。
  • 職場指標(エンゲージメント、離職、内部通報の早期化)。

6-5. マネジャーの能力開発

  • 指導言動の言い換えトレーニング(SBI、DESC、非暴力コミュニケーション)。
  • 感情調整スキル(クールダウン手順、ブレイク、メタ認知)。
  • 定例1on1での内省支援(目標・振り返り・学習アクション)。

 

7. FAQ:よくある疑問への簡潔回答

 

Q1. 被害者対応と加害者研修はどちらを先にやるべき?

A. 被害者の安全確保と相談対応は直ちに実施し、調査・適正措置と並行して加害者の更生研修を設計します。被害者の二次被害防止が最優先ですが、行動変容の支援を遅らせると再発リスクが高まります。

Q2. 加害者が「自分は指導しただけ」と主張する場合は?

A. 事実と影響を分けて検討します。業務上の指導でも、方法・頻度・場所・語調・公開性によりハラスメントとなることがあります。定義と境界を示し、具体事例で内省・言い換え練習を行います。

Q3. 研修の効果はどう測る?

A. 再発率、関係者ヒアリング、1on1記録、通報の質、コミュニケーションの質的変化などを組み合わせて可視化します。単一指標で判断せず、複数の証拠で総合評価します。

Q4. 被害者と加害者を再び同じ職場に戻すべき?

A. 被害者の希望・安全・職務要件・回復状況を最優先に、慎重なリスクアセスメントを行います。接触回避や配置調整、仲裁・対話支援の有無をケース別に判断します。

Q5. 中小規模の組織でも導入できる?

A. 外部の専門家・プログラムを活用することで実装可能です。相談窓口の外部委託、研修の共同実施、テンプレート化された記録様式の利用などで運用負担を下げられます。

 

8. まとめ:主要学び/今すぐできる次アクション

 

主要学び

  • 被害者対応のみでは再発防止が不十分。加害者の行動変容職場文化の修復を同時に進める必要がある。
  • 学習設計は、講義だけでなく個別カウンセリング・ロールプレイ・フォローアップを組み合わせる。
  • 制度・評価・教育を接続し、検知→対応→学習→改善を回す「組織学習」へ。

今すぐできる次アクション

  1. 非容認方針・定義・相談ルート・不利益取扱い禁止を規程に明記し、周知を再点検。
  2. 相談記録・調査手順の標準様式を整備し、関係者の役割を明確化。
  3. パワハラ加害者更生カウンセリング研修の導入計画を策定(対象・モジュール・評価)。
  4. KPI(相談件数、リードタイム、被害者満足、再発率等)を設定し、四半期レビューで改善。
  5. 管理職向けにSBI・DESCの言い換えトレーニングとクールダウン技法を開始。

 

9. 参考・情報源

 

  • 厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策に関する指針」 https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001338359.pdf
  • 総務省消防庁「ハラスメント等担当者のためのハンドブック」 https://www.fdma.go.jp/mission/enrichment/harassment/items/harassment001_07_handbook.pdf
  • 一般社団法人パワーハラスメント防止協会「パワハラ加害者更生カウンセリング研修」 https://www.phpaj.com/service/rehabilitation

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