Column –
【パワハラ防止研修お役立ちマニュアル】
パワハラ防止研修は対面式のほうがオンラインより効果的な理由

1. はじめに

近年、パワーハラスメント(以下、パワハラ)は職場における深刻な問題として社会的な関心を集めています。厚生労働省が義務化した「パワハラ防止法」により、企業はパワハラ防止のための 研修 を実施することが推奨されています。その研修方法には大きく分けて「対面式」と「オンライン式」があります。
コロナ禍を契機にオンライン研修の需要が急増しましたが、パワハラ防止研修においては、対面式の方が効果的であると考えられます。本稿ではその理由を多角的に論じます。
2. パワハラ防止研修の目的と重要性
パワハラ防止研修の目的は、単なる知識習得ではなく、職場文化の改善と具体的な行動変容にあります。大きく次の3点が柱です。
- パワハラの定義と法的リスクの理解
- 加害者にならないための意識改革
- 被害者や第三者として適切に対応できるスキル習得
つまり、研修は知識を与えるだけでなく、受講者が「自分ごと」として認識し、職場での行動を変えることを狙っています。そのため、受動的な学習ではなく、参加者が主体的に関与する場作りが不可欠です。
3. 研修形態の違い:対面式とオンライン式
- 対面式研修:講師と受講者が同じ会場に集まり、直接的なやりとりを通じて学ぶ形式。グループワークやロールプレイなど体験型学習がしやすい。
- オンライン研修:PCやスマートフォンを介して受講する形式。時間・場所に制約が少なくコスト面のメリットが大きい一方、参加者同士の交流や実体験が希薄になりやすい。
両者は一長一短があるものの、パワハラ防止という「感情や価値観に深く関わる学習」においては、対面式の効果が際立ちます。
4. 対面式研修のメリット
4-1. 非言語的コミュニケーションの重要性
パワハラの多くは「言葉そのもの」だけでなく、「言い方」「態度」「表情」といった非言語的要素によって成立します。対面式では、こうした細やかなニュアンスを講師が再現したり、受講者同士で体感したりすることが可能です。オンラインではカメラやマイクの制約により、表情や声色の細部が伝わりにくく、リアリティが損なわれます。
4-2. 双方向的な関わりと即時フィードバック
対面の場では、講師が参加者の反応をリアルタイムで把握し、説明を補足したりディスカッションを深めたりできます。さらに、ロールプレイなどの演習後には講師や仲間から即座にフィードバックを受けることができ、学びを自己反省と結びつけやすい点が大きな強みです。
4-3. 集団的学習効果と職場風土改善への波及
研修を「同じ空間で共に体験する」こと自体が、組織文化の変革に寄与します。受講者同士が互いの価値観を共有し、理解を深めることで、職場全体の意識改革が促されます。オンラインでは「個別の学習」に留まりがちですが、対面式は「集団で学び合う」効果を最大限に発揮できます。
5. オンライン研修の限界と課題
5-1. 参加者の集中力維持の困難
オンライン研修は自宅や職場のPCから受講することが多いため、周囲の雑音や別業務によって注意が途切れやすい傾向にあります。結果として、学習内容の定着度が低下しやすい問題があります。
5-2. 表情や態度の把握不足
画面越しでは参加者一人ひとりの細かな反応を見取ることが難しく、講師側も受講者の理解度や関心度を測りにくいのが実情です。このため、参加者が受け身のまま時間だけが過ぎてしまうリスクが高いといえます。
5-3. 受講者同士の相互理解不足
パワハラ防止研修においては「自分と他者の価値観の違い」を理解することが重要です。しかし、オンラインでは参加者同士の交流が限定的であり、ディスカッションやグループワークの深まりに限界があります。
6. 実例に見る対面式研修の効果
ある企業では、オンライン研修後のアンケートでは「知識は得られたが、職場でどう活かすかイメージしづらい」という声が多く寄せられました。一方、対面式研修では「グループワークで他部署の考え方を知り、視野が広がった」「実際の場面を再現する演習で、自分の言動の癖に気づけた」といった具体的な変化が報告されています。この差は、体験的・相互的な学びがもたらす効果を物語っています。
7. 対面式研修を活かすための工夫
- ロールプレイの積極的導入:現実の職場で起こりうる場面を再現し、感情を伴った体験学習を行う。
- 少人数での対話型学習:講師主導ではなく、受講者同士の議論を促すことで内省を深める。
- 研修後のフォローアップ:対面研修で得た気づきを日常に活かすため、定期的な振り返りや追加ワークを設ける。
8. 今後の研修スタイルの展望:ハイブリッド化の可能性
ただし、オンライン研修の利便性を完全に否定するものではありません。基礎知識のインプットや法令の理解といった部分はオンラインで効率的に行い、感情や価値観の共有を重視する演習部分は対面で実施する「ハイブリッド型研修」が今後の主流になると考えられます。
9. まとめ
パワハラ防止研修は、単なる知識伝達にとどまらず、組織文化を変革し、職場の人間関係を健全にすることを目的としています。そのためには、非言語的要素の理解や相互交流、リアルな体験学習が欠かせません。これらを最も効果的に実現できるのが対面式研修です。
オンライン研修が持つ利便性を補助的に活かしつつ、対面式の強みを中心に据えることで、パワハラ防止の実効性を高めることができるでしょう。