Column – 93
【パワハラ防止研修お役立ちマニュアル】
【管理職向け】パワハラ研修の進め方と効果を高める5つのポイント

管理職として、部下への指導とパワハラの境界線を明確に理解し、「行動を変える」ことが重要です。本記事では、加害者の無自覚な行動を早期に捉え、適切な対応につなげる方法を5つの視点で解説します。
研修を単なる義務に終わらせず、実践力につなげる進行のコツをお伝えします。
無自覚な加害行為を気づかせる仕組みづくり

多くのパワハラ事例では、加害者本人に「悪意がなかった」「正当な指導だった」という認識があります。これは“無自覚な加害”と呼ばれ、パワハラ問題の根深さを物語っています。特に管理職は、役職ゆえの「権限」を自覚しづらく、言葉や態度が部下に与える影響に無頓着なまま、ハラスメントを引き起こしてしまうケースが少なくありません。
こうした状況を改善するためには、研修の初期段階で「気づき」を与えることが最も重要です。形式的な定義説明ではなく、実際のパワハラ事例をもとに感情移入できる演出が効果的です。たとえば、以下のような構成で研修を進めます。
- ステップ1:具体的なケース紹介
「部下に業務上のミスを注意したところ、萎縮して出勤しなくなった」という事例を提示します。加害者側の発言内容や態度、表情を再現することで、参加者に「自分も同じようなことをしていないか」と内省を促します。 - ステップ2:受け取り手の心理を解説
同じ発言でも、受け手の立場や心理状態によって「指導」にも「威圧」にもなることを解説。部下の反応やメンタル状態に対する想像力を持たせる工夫です。 - ステップ3:パワハラに該当するかの分岐演習
いくつかの事例を挙げて、「これはパワハラか否か」を参加者に判断させるグループワークを実施。判断が分かれるようなグレーゾーンの例を使うことで、基準のあいまいさと重要性を体感できます。 - ステップ4:適切な指導表現への言い換え
最後に、加害的表現をどう言い換えれば部下が前向きに受け止められるか、対話形式で学びます。「ダメだろうこれは!」→「ここは改善できる余地があるね」のように、言い回しの変換を習得させましょう。
このようなアプローチは、「自分の中にある加害性」に気づかせるだけでなく、「どうすれば良い関わりができるか」という前向きな学びにつながります。研修の場で一時的に反省させるだけでなく、現場に戻ってからの行動を変えるための“思考の枠組み”を与えることが狙いです。
また、研修中に参加者自身が「これは昔、自分がやっていたかも…」と気づく場面を引き出せれば、成功といえます。感情的な自己防衛ではなく、論理的な理解と自発的な行動修正へと導くことが、実効性ある研修の第一歩となるのです。
法的・企業リスクを意識化させる実例紹介

パワハラは単なる「人間関係のトラブル」ではなく、重大な法的リスクと企業経営への打撃を伴う問題です。特に加害行為が「業務上の適切な指導」と混同されやすい管理職においては、その境界を明確に理解し、リスクとして捉える姿勢が求められます。
まず押さえておきたいのは、厚生労働省が定めた「パワハラ6類型」です。これに該当すれば、法的責任の対象となる可能性があります。
類型 | 具体例 |
---|---|
身体的な攻撃 | 叩く、物を投げるなどの暴力行為 |
精神的な攻撃 | 人格を否定する発言、繰り返しの叱責 |
人間関係からの切り離し | 特定の人を業務連絡から外す、隔離する |
過大な要求 | 明らかに達成不可能な業務を与える |
過小な要求 | 仕事を与えない、スキル無視の業務 |
個の侵害 | 私生活への過干渉、家庭事情への口出し |
このような行為が職場で見過ごされれば、企業は民事上の損害賠償責任や、場合によっては労働基準監督署からの指導・是正勧告を受けることになります。実際、近年では以下のような判例が出ています。
- 精神的苦痛による損害賠償命令:700万円
上司からの長期間にわたる叱責・暴言により部下がうつ病を発症。企業側は「注意指導の範囲」と主張したが、裁判所はパワハラと認定し、会社と上司に連帯で賠償命令。 - 企業のイメージ毀損と株価下落
大手企業でパワハラが表面化し、メディアで大きく報道。一時的な売上減少や顧客離れを招いたほか、企業ブランドへの信頼も失墜。
これらの実例から分かるように、パワハラの加害行為は個人の責任にとどまらず、組織全体の危機管理問題にもなり得るのです。とりわけ管理職は「部下の指導責任」と「ハラスメント加害者としてのリスク」の両方を背負っているため、その自覚を持つことが求められます。
さらに、労働施策総合推進法の改正により、2022年4月からは中小企業を含むすべての企業に「パワハラ防止措置」が義務化されました。違反した場合、企業名が公表される可能性もあり、レピュテーションリスク(評判の危機)は非常に高いといえます。
研修ではこれらのリスクを“他人事”としてではなく、“自分ごと”として認識させるために、実際のトラブル例を映像やシナリオで再現するのも効果的です。「もし自分がこの立場だったら?」「この発言を誰かに見られていたら?」と疑似体験させることで、参加者の危機意識が大きく高まります。
まとめると、パワハラ研修において法的・企業リスクを伝える際は、次の3つを押さえておきましょう:
- 具体的な法令・類型・罰則の説明(法的な裏付け)
- 判例・損害額・ニュース報道などの現実味ある事例紹介
- “自分だったら”を考えさせるシナリオワークや問いかけ
これにより、単なる制度説明では得られない「当事者意識」が生まれ、加害リスクに対するアンテナが研ぎ澄まされていきます。
実践型ワークで指導スキルを向上

研修を座学で終わらせず、ロールプレイやロール反転など実践的ワークを導入します。
加害者役・被害者役・傍観者役になり代わって「言葉遣いや態度をどう改善するか」を体感させることで、ただ知識を得るだけでなく、行動変容につなげます。
5つのポイントまとめ
ポイント | 目的 | 具体内容 |
---|---|---|
① 無自覚な加害の気づき | 加害行為の境界を理解 | 事例提示+境界線演習 |
② 法的・企業リスクの認識 | 当事者意識の向上 | 判例紹介+失敗事例学習 |
③ 実践的指導スキル習得 | 言動改善の体得 | ロールプレイ/改善提案 |
④ 継続サポート体制の設計 | 意識の定着 | フォローアップ/相談窓口対応 |
⑤ 組織文化の醸成 | 再発防止の土壌作り | 経営層メッセージ+社内周知 |
継続と支援体制を組み込む
研修直後に「終わり」ではなく、継続的なフォローと支援が鍵です。たとえば、研修後1ヵ月に簡単な振り返りアンケート、三ヵ月後にチェックミーティングを設けるなど。
また、相談窓口の導線や対応フローが実際に機能しているか確認する場も必要です。
組織文化としてパワハラ防止を根付かせる

最終的には経営層からの強いメッセージが効果の底上げになります。「パワハラは許さない」という方針を明文化し、研修やポスター、社内報などで周知することで、職場全体に明確な意識を植え付けられます。
また、管理職自身が「模範」として日々の言動を見直す姿勢も欠かせません。
まとめ
本記事では、加害側の管理職が「無意識に踏み込んでしまう言動」を自覚し、適切に改善するための研修設計のコツを5つの視点で紹介しました。事例を通じた気づき、実践的演習、リスク意識、フォロー体制、文化醸成を組み合わせることで、単なる研修を「行動変容」にまで結びつけられます。
これによりパワハラの未然防止と組織健全化が期待できます。