パワハラ裁判例~業務遂行能力が低い被害者へ慰謝料~ 

パワハラ裁判例~業務遂行能力が低い被害者へ慰謝料~

パワハラ裁判例~業務遂行能力が低い被害者へ慰謝料~

  • 判例のポイント
    • 療養復帰直後の受け手に対するパワハラ(精神的な攻撃)の事案について、行為者と会社に対し、慰謝料等110万円の支払いを命じた判例 

    • パワーハラスメントに該当しないとして不法行為責任を否定した言動もかなりある。 

    • 受け手は、業務遂行能力がかなり低く、役席に期待される水準の仕事ができていなかった。  

    • 受け手にとって精神的に負担となるような叱責は、療養復帰直後で後遺症等が存する者に対する場合には、特に精神的に厳しいものと判断されている。  

    • パワハラから2年後に受け手が退職しており、パワハラと退職との相当因果関係は否定した。  


  • 行為者(加害者): D1(支店長代理)・D2(営業本部お客様サポートセンター長)・D3(人事総務部長代理)

  • 受け手(被害者): V(大卒後、信金、印刷会社、信組などを経て平成14年に47歳で入行)

  • 勤務先: 銀行


  • 背景等
    • Vは平成18年に脊髄空洞症等に罹患して約3か月入院し、約2か月間の自宅療養を経て職場復帰した。  

    • 争点となった言動は、Vの職場復帰後になされたものである。 

    • 病気とその後遺症を患うVが長時間の自動車運転をすることによる交通事故のリスクや、Vの業務遂行能力がかなり低く、出先のトラブルを予防する必要があったことから、Vは渉外係(外勤)から支店融資係(内勤)に異動となり、VはD1支店長の部下となった。  

    • しかし、Vの事務能力やD1支店長代理との関係、支店の繁忙度などから、Vは約6か月でお客様サポートセンターに異動となり、D2センター長の部下となった。  

    • 更に、Vの事務作業が遅く、周囲の従業員との関係およびVが居眠りをして対策が必要であるとの判断から、約5か月で、業務内容が固定的で残業のない部署であるリスク統括部現金精査室に異動(単身赴任)となった。 

    • それまでVの後遺症の詳細までは把握していなかった銀行は、現金精査室移動後にVの説明を受けて詳細な病状を把握し、また、Vが身体障碍者等級4級と認定されたこともあり、約2.5か月で人事総務部に異動(単身赴任)となり、VはD3部長代理の部下となった。人事総務部には約1年3か月所属した(単身赴任)。   


  • 裁判所が認定した支店融資係在籍時のD1支店長代理の言動
    • ①ミスをしたVに対し、「もうええ加減にせえ、ほんま。代弁の1つもまともにできんのんか。辞めてしまえ。足がけ引っ張るな」、「一生懸命しようとしても一緒じゃが、そら、注意しよらんのじゃもん。同じことを何回も何回も。もう、貸付は合わん、やめとかれ。何ぼしても貸付は無理じゃ、もう、性格的に合わんのじゃと思う。そら、もう1回外出られとった方がええかもしれん」、「足引っ張るばあすんじゃったら、おらん方がええ」などと言った。  

    • ②延滞金の回収ができず、代位弁済の処理もしなかったVに対し、「今まで何回だまされとんで。あほじゃねんかな、もう。普通じゃねえわ。あほうじゃ、そら」、「県信から来た人だって・・そら、すごい人もおる。けど、僕はもう県信から来た人っていったら、もう今は係長・・だから、僕がぺけになったように県信から来た人を僕はもうペケしとるからな」などと言った。 

    • ③ミスをしたVに対し、「何をとぼけたこと言いよんだ、早う帰れ言うからできん。冗談言うな」、「鍵を渡してあげるからいつまでもそこ居れ」、「何をバカなこと言わんべ、仕事ができん理由は何なら、時間できん理由は何なら言うたら、早う帰れ言うからできんのじゃて言うたな自分が」などと言った。 

    • ④Vに対し、(他人と比較して)Jさん以下だという趣旨の発言をした。 


  • Vが主張したサポートセンター在籍時のD2センター長の言動
    • ⑤Vに対し、仕事が遅いとことあるごとに言った。 

    • ⑥債務処理紛失の責任をVに押し付けた。 

    • ⑦Vの居眠りについて注意した(Vは多量服薬等で意識が遠のくことがあったなどと主張)。 

    • ⑧Vの仕事を取り上げた。 


  • Vが主張した人事総務部在籍時のD3部長代理の言動
    • ⑨Vに対し、どこに行っていたと言うなど、一挙一動について毎日詰められた。 

    • ⑩Vに対し、仕事がのろいと言った。 

    • ⑪手順を踏まなかったVを叱責するにあたり、「ウソをついた」、「予め見せなかった」などといって物を投げたり、机をけとばしたり、ペンを机に突き立てたりするなど威嚇した。


  • Vの退職
    • Vは、人事総務部に異動した翌年に、不安抑うつ状態により4回通院して欠勤するなどし、人事総務部への異動から約1年3か月後に、辞表を提出して選択定年退職した。  


  • Vによる提訴
    • Vは、D1ら上司のパワハラにより退職を余儀なくされたとして、上司らに対し、不法行為に基づく損害賠償請求をするとともに、銀行に対し、使用者責任とともに、頻回にわたり配転命令を出した安全配慮義務違反(健康管理義務違反)による固有の不法行為責任を主張して、提訴した。 


  • 判決の概要
    • 岡山地裁は、D1支店長代理の言動(①~④)につき不法行為責任を肯定したが、D2センター長およびD3部長代理の各言動(⑤~⑩)についてはパワーハラスメントに該当しないとして不法行為責任を否定した。なお、D1支店長代理の不法行為とVの退職との間に相当因果関係は認められないとして、退職による損害(逸失利益)の賠償は否定したため、認容額は150万円(Vの精神的苦痛に対する慰謝料100万円+弁護士費用10万円)等となった。  

    • 銀行については、使用者責任によりD1支店長と連携して損害賠償責任を認めた(連帯責任)。 

    • 銀行が頻回にわたって配転命令を出したことについての不法行為責任は否定した。 


  • 判決の理由①
  • D1支店法代理の言動①~④が不法行為に当たるか 

    • D1支店長は、ミスをしたVに対し、厳しい口調で、辞めてしまえ、Jさん以下だなどといった表現を用いて叱責していたことが認められ、それも1回限りではなく、頻繁に行っていたと認められる。 

    • Vが「通用に比して仕事が遅く、役席に期待される水準の仕事ができてはいなかったとはいえる」が、「本件で行われたような叱責は、健常者であっても精神的にかなりの負担を負うものであるところ、脊髄空洞症による療養復帰直後であり、かつ、同症状の後遺症等が存するVにとっては、さらに精神的に厳しいものであったと考えられる」し、それについてD1支店長が全くの無配慮であったことに照らすと、V自身の問題を踏まえても、D1支店長の行為はパワーハラスメントに該当するといえる。  


  • 判決の理由②
  • D2センター長の言動が不法行為に当たるか 

    • ⑤は、「当該事実の存在を認めるに足る証拠はない」 

    • ⑥は、「責任を押し付けようとしていたとは考え難い」 

    • ⑦と⑧は、そのような事実は認められず、仮にそのような事実があったとしても、仕事を勤務時間内や期限内に終わらせるようにすることが上司であり会社員であるD2センター長の務めであると考えられることや、本件でD2センター長の置かれた状況に鑑みれば、多少口調がきつくなったとしても無理からぬことなどから、Vの病状を踏まえても、それだけでパワーハラスメントに当たるとはいえない。  


  • 判決の理由③
  • D3部長代理の言動が不法行為に当たるか 

    • ⑨は、一挙一動について毎日詰められたとの事実までは認められず、Vが勤務時間内に勤務場所にいなかったためにD3部長代理が「どこに行っていた」と質問したことは業務遂行上必要な質問であるといえ、「仮に厳しい口調となっていたとしても、これをもってパワーハラスメントとは認められない」 

    • ⑩は、1回だけであり、⑪は、D3部長代理がVを注意する際にV主張のような行動をとったとは認められないから、注意、指導の限度を超えたものということはできず、パワーハラスメントに該当するとは認められない。 


  • 判決の理由④
  • 頻回にわたる配転命令が銀行による不法行為に当たるか 

    • 短期間で各部署へ移され、その結果、各部署で不都合が生じたことから次の異動を行ったという場当たり的な対応である感は否めないものの、能力的な制約のあるVを含めた従業員全体の職場環境に配慮した結果の対応であり、もとより従業員の配置転換には被用者にある程度広範な裁量が認められていることにも鑑みると、銀行に安全配慮義務違反(健康管理義務違反)があるとして不法行為に問うことは相当ではない。 


  • 判決の理由⑤
  • 退職との相当因果関係 

    • D1支店長の各行為は不法行為であるが、VがD1支店長と勤務していたころからVの退職まで2年近くの期間があることからすると、D1支店長と銀行の行為によりVが退職を余儀なくされたとは言い難い(D1支店長の不法行為とVの退職との間に相当因果関係は認められない)。 



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