パワハラ裁判例~パワハラ否定し慰謝料を大幅減額判定~ 

パワハラ裁判例~パワハラ否定し慰謝料を大幅減額判定~

パワハラ裁判例~パワハラ否定し慰謝料を大幅減額判定~

  • 判例のポイント
    • 原審(鳥取地裁)では認められていたパワハラの多くを否定し、慰謝料額を大幅減額した(約300万円の判決だったのを約10万円とした)。  

    • 受け手に多くの問題行動がみられた。  

    • 試用期間中の解雇無効は認められている。  


  • 行為者(加害者): D1(人事課長)、D2(Fユニット担当部長)

  • 受け手(被害者): V(「新準社員」と称される契約社員。Fユニット所属、平成18年7月11日より清掃会社に出向)

  • 勤務先: 電機メーカー


  • 背景等
  • Vは、以下のような複数の問題行動を起こしていた。

    • イ. 女子ロッカールームにおいて「Aさんは以前会社のお金を何億も使い込んで、それで今の職に飛ばされたんだで、それでD1課長も迷惑しとるんだよ」などと述べて同僚のAを中傷する発言をした。

    • ロ. 会社のE取締役に対し、「Fユニットでサンプルの不正出荷をしている人がいる」、「Vに対して会社が辞めさせるように言っている」、「人事担当者が従業員に県外出向を強要している」、「準社員や社員の中には、人事担当者をドスで刺すという発言をしている人がいる」などと述べ、従業員の県外出向という会社がとる施策につき、労使間のルールを無視して、会社の役員に対し、脅迫的な言辞などを用いて当該施策を妨害・中止させようとするなどした。  

    • ハ. 上司や役員を「くん、ちゃん」付けで呼んだ。  


  • Vが主張するD1課長の言動
    1. Vのイとロの問題行動につき注意・指導の必要があると考えたD1課長が、Vを人事課会議室に呼び出して、他の課長とともに面談を実施した際、Vが、ふて腐れ、横を向くなどの不遜な態度を取り続けたため、D1課長が、腹を立て感情的になり大きな声を出して叱責するなどし、「いいかげんにしてくれ、本当に。変な正義心か何か知らないけど、何を考えているんだ、本当に。会社が必死になって詰めようとしても行ってみい」、「自分は面白半分でやっているかもわからんけど、名誉毀損の犯罪なんだぞ」、「それから誰彼と知らず電話をかけたり、そういう行為は一切これからはやめてくれ。今後そういうことがあったら、会社としてはもう相当な処分をする」、「あなたは自分のやったことに対して、まったく反省の色もない。微塵もないじゃないですか。会社としてはあなたのやった行為に対して、何らかの処分をせざるをえない」、「何が監督署だ、何が裁判所だ。自分がやっていることを隠しておいて、何が裁判所だ。とぼけんなよ、本当に。俺は、絶対許さんぞ」などと発言した。なお、Vは、面談室での会話をD1課長らに秘して録音していた。  

    2. 会社が、イ、ロの問題行動について注意喚起するため、Vとの契約更新の際、Vに対して、「新準社員就業規則の懲戒事由に該当する行為が見受けられた場合は、労使懲戒委員会の決定を受け、譴責以上の懲戒処分を下す。その処分内容は、当該事由の程度によって判断するが、即時懲戒解雇もあり得る。(1)人格および名誉を傷つける言動をした時、(2)会社経営に関する虚偽事実を宣伝流布した時、あるいは誹謗中傷した時、(3)その他、新準社員就業規則に定める懲戒事由に該当した時」と記載した「覚書」に署名押印を求めた。また、異動発令日に再度同趣旨の覚書に署名押印を求めた。  

    3. Vが出向する直前の待機期間中に、Vに通常の業務がないことから、次の職場でもイ、ウの問題行動を起こさないために就業規則等の社内規定類の理解を促そうと考えたD2部長が、Vに対し、社内規定類を精読するように指示し、5日間にわたり会議室で社内規定類を精読させた。  

    4. D2部長が、Vに清掃業務を主たる目的とするK社への出向を指示した。  

    5. Vの人事評価が「C」であるとして、会社が給与を減額した。  


  • Vの状況と会社の対応等
    • Vの精神状態が悪化するなどし、Vは欠勤し休職届を会社に郵送するなどした。 

    • 会社は、Vに対し「事務能力の欠如により、常勤事務としての適性に欠ける」ことを理由に採用を取り消すとの解雇通知を発送した。 


  • Vの提訴
    • Vは採用取消(解雇)は無効であるとして雇用契約上の地位確認と賃金支払いを請求し、また、D1らのパワハラ等が不法行為を構成するとして、D1課長・D2部長と会社に対して損害賠償請求をして、提訴した。 


  • 判決の概要
    • 原審(鳥取地判 平20.3.31)は、①以外の言動についても不法行為が成立するとしてD1らと会社に対して慰謝料300万円の支払いを命じていたが、広島高裁松江支部は、①の言動についてのみ不法行為の成立を肯定し、D1課長と会社に対し、慰謝料10万円の支払いを命じた(連帯責任)。


  • 判決の理由
    1. D1課長が他の課長とともにVと面談に及んだのは、企業の人事担当者が問題行動を起こした従業員に対する適切な注意、指導のために行ったものであって、その目的は正当であるといえるが、「D1課長が、大きな声を出し、Vの人間性を否定するかのような不相当な表現を用いてVを叱責した点については、従業員に対する注意、指導として社会通念上許容される範囲を超えているものであり、Vに対する不法行為を構成する。慰謝料の額については、VがD1課長に秘して会話を録音しつつ不遜な態度を取り続けたことに誘発されて、D1課長が感情的になって大きな声を出した面があるという経緯などからすれば、相当低額で足りる。  

    2. 会社は、労働契約更新直前の1年間において、Vにはイとロの「問題行動があったことから、注意を喚起する必要があると考えて」、覚書に署名押印を求めたのであり、その記載内容も必ずしも不当であるとはいえず、裁量の範囲内の措置といえるから、会社の行為は不法行為を構成するとはいえない。  

    3. D2部長がVに対して社内規定類の精読を指示したのは、Vにイ、ロといった「職場のモラルや社員としての品位を著しく低下させる行為」が認められたことから、次の職場でも問題を起こさないためにも社内規定類の理解を促す必要があると考え、出向直前の待機期間における指導の一環として行ったものであり、懲罰の意図あるいは退職を促す意図に基づくものとまでは認め難く、社会通念に照らして相当な措置であって、Vに対する不法行為を構成するものであるとはいえない。  

    4. 会社がVに対してK社への出向を命じたことは、Vを退職させようとの意図に基づくものではなく、Vの就労先確保のための異動であり、企業における人事施策の裁量の範囲内の措置であって、Vに対する不法行為を構成するものであるとはいえない。  

    5. Vに対する人事評価は、会社における人事評価制度および労働組合との間で締結した基準に従ったものであるところ、Vへの「C」評価が不当であることを窺わせる事情は見当たらないことからすれば、企業における人事評価の裁量権を逸脱したものであるとはいえず、Vに対する不法行為を構成するとはいえない。  



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