パワハラ裁判例~被害者の性格的傾向により素因減額~ 

パワハラ裁判例~被害者の性格的傾向により素因減額~

パワハラ裁判例~被害者の性格的傾向により素因減額~

  • 判例のポイント
    • 身体的な攻撃と精神的な攻撃のパワハラにより受け手が長期休職した事案について、行為者と会社に対し、慰謝料等224万円の賠償を命じた判例  

    • 算定された損害額は休業損害約1904万円と慰謝料500万円と大きいが、受け手の障害の発生等には受け手の性格的傾向による影響が大きいとして6割の素因減額がなされ、また労災保険の休業補償給付金も受けているため損害額から控除されたため、判決が認容した損害額は約204万円となった。

    • 受け手の性格傾向も影響して会社担当者との折衝がもつれ、事態が悪化してしまったといえる。


  • 行為者(加害者): D(店長。平成7年4月入社)、E(管理部長)

  • 受け手(被害者): V(店長代行。平成9年3月入社)

  • 勤務先: 衣料品販売業等を営む会社の店舗


  • 背景等
    • D店長は、Vが通常よりも店長資格を取得するのが遅れていたこともあり、Vに対し、日頃から他の従業員よりも厳しく接していた。

    • 平成10年11月、Vは、従業員間の連絡事項等を記載する「店舗運営日誌」に、「店長へ」として、前日の陳列商品の整理、売上金の入金などに関する店長としての監督責任を含めたD店長の仕事上の不備を指摘する記載をし、その横に「処理しておきましたが、どういうことですか?反省してください。V」と書き添えた。  

    • 上記記載を見たD店長は、Vにさらし者にされたと感じ、Vを休憩室に呼びつけ「これ、どうゆうこと」、「感情的になっていただけやろ」などと説明を求めた。これに対してVは「事実を書いただけです」「感情的になっていない。2回目でしょう」と答えた上、右手を握りしめ殴るような仕草を見せたD店長に対し「2回目でしょう。どうしようもない人だ」と言い、鼻で笑う態度を示した。 


  • D店長の言動
    • ①上記Vの態度に激昂したD店長は、Vの胸倉を掴み、背部を板壁に3回ほど打ち付けた後、謝罪を求めるVに対し謝る素振りをしながら顔面に1回頭突きをし、口論の後Vが退去しようとしたところ、さらに「まだ、話は終わっていない」と言いながら、Vの首のあたりを両手で掴み板壁に頭部、背中等を1回打ち付けるなどした。


    • 上司Fの言動
      • ②検査のため入院したVを訪問した上司Fは、D店長を病院に呼び出して経緯を聴取し、談話スペースで、上司Fの立会いのもとVとD店長を面談させ、D店長は何度も謝罪したが、Vは取り合わなかった、上司Fは、D店長の将来もあるので、警察には届け出ないでほしい旨を述べたが、Vは警察に届け出る旨を答えた。なお、上司Fは、治療費はD店長に請求するようにと述べた。  


    • その後のVの行動
      • Vは実家に帰省し、気分が悪いと訴えて脳外科や整形外科を受診し、入院を希望したが、検査の結果、異常は見られないものの「頸部挫傷」で約4週間の加療を要する旨の診断が出た。その後もVは吐き気、めまいなどを訴えて通院を続け、入院を希望したが、異常は認められなかったため入院には至らなかった。Vは療養による欠勤を続けた。  

      • 平成10年12月、Vは警察に被害届を出し、労基署に療養補給給付申請をした。  


    • 会社の対応
      • 会社は、Vの療養中、給与全額分を支給することとし、労務担当社員が、Vに対し、この支給を継続するためには毎月1回診断書を提出する必要があるとして、口頭ないし書面により再三診断書の提出を求めたが、Vはこの求めに応じないでいた。そこで会社は、平成11年3月分からの給与全額分の支給を停止した。

      • Vは、平成11年5月に精神科を受診し、「神経症」の診断書を得てY社に提出した。  

      • 労務担当社員は、Vに書面を送付し、上記診断書では疾病と本件事件の因果関係が判断できない、因果関係についての記載がある診断書が確認できるまで給与の支払いはできない、因果関係の記載がある診断書の提出がなく、正当な理由なき無断欠勤が続く場合には、退社したものとみなさざるを得ず、もしくは懲戒解雇を検討せざるを得ない、本社に出社の上、これまでの状況の説明を求める、事件当時勤務していた店舗の任務を解くので、店舗近くの社宅を1週間以内に明け渡してもらいたいという旨をVに伝えた。  


    • Vの行動
      • 上記書面を受け取ったVは、蕁麻疹を呈し、救急車にて病院に搬送され、精神的要因による蕁麻疹と診断された。さらにVは、精神科を受診し、「外傷後ストレス障害(神経症)」により引き続き2か月間の休養を加療を要する旨付記した診断書を得て、診断書をY社に送付した。  


    • 会社の対応
      • ④労務担当社員から引き継いだE管理部長は、Vに電話して診断書の提出および面談を求めるとともに、それに応じられないなら労災の休業補償に切り替える必要がある旨申し向けたが、Vはこれに応じなかった。  

      • E管理部長はVに書面を送付し、労災の休業補償に切り替えるよう求め、電話でその意向を確認したところ、Vが応じる旨回答したので、Y社が医療機関関係者からVの治療に係る記録の提出や説明を受けることを同意する旨の同意書の提出を求めたが、Vは、その後4ヵ月以上にわたり、同意書を提出しなかった。  


    • E管理部長の言動
      • ⑤平成13年7月、VがE管理部部長に電話し、会社内における上記事件の報告書の開示などを求めたところ、2時間以上に及ぶ会話の中で、E管理部長がVに対し、「いいかげんにせいよ、お前。おー、何考えてるんかこりゃあ。ぶち殺そうかお前。調子に乗るなよ、お前」などと声を荒げながら申し向けた。Vは電話の直後に気分が悪くなり、救急車で病院に搬送された。 


    • Vによる提訴
      • Vは、D店長および会社に対して、不法行為による損害賠償請求をして、提訴した。


    • 判決の概要
      • 名古屋高裁は、①と⑤についてD部長の不法行為責任を認め、D部長と会社に対し、約224万円(慰謝料約204万円+弁護士費用20万円)の賠償を命じた(連帯責任)。


    • 判決の理由
      1. D店長による暴行の違法性は明らかである。  

      2. (Vは、上司Fが「本件事件は労災には該当しない。」「本件事件を警察へ通報しないように命令する」と述べたと主張するが)上司Fがそのように述べたとまでは認め難く、本家事件を警察へ通報しないように要請すると共に、治療費はD店長に請求するように述べたとしても、会社の担当者として必ずしも不当な処置であるとは言い難く、それがVの病状を悪化させた可能性は否定できないものの、不法行為を構成するとはいえない。  

      3. 会社から再三にわたり社内手続きに必要な診断書の提出を求められたのにVがこれに応じなかったなどの経緯からすれば、③がVの病状を悪化させた可能性は否定できないものの、労務担当社員の行為が不法行為を構成するとはいえない。  

      4. 会社が診断書等を求めたのは、給与の支給継続の判断や雇用関係を維持するか否かを検討するためには、Vの病状を客観的に把握する必要があったのに、Vが適時に診断書を送付せず、十分な説明もせず、同意書の提出も遅れるなどしたためであり、会社の行動は、雇用主として社会的に相当な行為である。また、E管理部長らが面談を求めるなどしたのは、長期休職者と定期的に連絡を取り、その現況や病状、会社への復帰の意思などを確認するためであり違法と評価すべきものではない。 

      5. E管理部長の電話での暴言については、声を荒げながらVの生命、身体に対して害悪を加える趣旨を含むものであること等から、本件発言は違法であって、不法行為を構成する。

        • ①と⑤は共同不法行為(民法719条)にあたり、D店長はE管理部長と連帯して責任を負う。  

        • ①と⑤によりVがPTSDに罹患したとは認め難いが、Vは、几帳面で気が強く、正義感が強く不正を見過ごすことができず、不当な事柄に対して憤り、論理的に相手を問い詰めるという性格傾向を有していたところ、日頃から厳しくあたられていたD店長からの暴行を受けたこと、その後の休職に関する会社担当者との折衝のもつれを通じ、担当者ひいては会社自体に対して、次第に、忌避感、不安感、嫌悪感を感じるようになり、E管理部長の発言を受けたこと等により、会社がVに危害を加えようとしているという類の被害妄想を焦点とする妄想性障害に罹患したものと認めることが相当である。  

        • 損害額は休業損害約1904万円と慰謝料500万円等が相当であるが、Vの障害の発生およびその持続には、Vの性格傾向による影響が大きいと認められるので、6割の素因減額(60%を減額)をする(素因減額後の損害額は休業損害約761万円+慰謝料約204万円)。またVは労災保険の休業補償給付金約1038万円を受けているので、休業損害から控除し(全額控除となる)、損害額は約204万円となる。  

          



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