パワハラ防止研修で学ぶ判例~いじめの口裏合わせで自殺2350万円賠~

Column – 75
パワハラ防止研修お役立ちマニュアル
パワハラ防止研修で学ぶ判例~いじめの口裏合わせで自殺2350万円賠償~

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パワハラ(パワーハラスメント)、パワハラ加害者(行為者)という言葉を聞かない日はありません。パワハラ(パワーハラスメント)という言葉は2001年に日本で作られた造語ですが、「パワハラ(パワーハラスメント)とは何か」について正しい理解をしている人は多くはありません。それは、パワハラ(パワーハラスメント)にはグレーゾーン(確定診断ができない状態)のケースが多く存在しているからです。このコラムでは、パワハラ(パワーハラスメント)防止研修で「パワハラ(パワーハラスメント)とは何か」について理解を深めることができるパワハラ(パワーハラスメント)裁判事例について解説していきます。

【目次】

  1. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判例の類型
  2. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に影響を与えること
  3. パワハラ(パワーハラスメント)の裏にある背景
  4. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に見られる言動
  5. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に発展した経緯
  6. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判で採用される証拠
  7. パワハラ(パワーハラスメント)の民事上の損害賠償責任
  8. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判例~いじめの口裏合わせで自殺2350万円賠償~
  9. まとめ

 1. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判例の類型


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裁判例の類型

職場におけるパワハラ(パワーハラスメント)の裁判例の類型は、受け手(被害者)が、行為者(加害者)や使用者(事業主)に対して慰謝料等の損害賠償を請求するケースと、使用者がパワハラ(パワーハラスメント)行為者(加害者)に対して懲戒等の処分をしたことに対して、行為者(加害者)が、処分が重すぎるとして処分の無効確認等を求めるケース(処分を争う行為者)による請求との2つに大きく分けることができます。  


当コラムでは、パワハラ(パワーハラスメント)について、「損害賠償請求(受け手による請求)」と「処分を争う行為者(加害者)による請求」の裁判事例について解説していきます。  



 2. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に影響を与えること


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に影響を与えること

職場におけるパワハラ(パワーハラスメント)の事案では、受け手(被害者)の置かれている状況がパワハラ(パワーハラスメント)の判断に影響する場合があります。例えば、一般的な社員への厳しい指導よりも新卒社員のように社会人経験に乏しく対応力に限りのある者に対する厳しい指導の方がパワハラ(パワーハラスメント)と判断されやすい傾向にあります。  


また、パワハラ(パワーハラスメント)は、役職的に上の立場の者が下の立場の者を見下して、パワハラ(パワーハラスメント)に及んだと思われるケースが多くあります。  


このように、パワハラ(パワーハラスメント)事案が判断される上で受けて(被害者)の置かれている状況が大きく影響することを理解しながら判例を読み解くことも大切です。  


   

 3. パワハラ(パワーハラスメント)の裏にある背景


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裏にある背景

パワハラ(パワーハラスメント)の事案では、受け手(被害者)側に、行為者(加害者)から厳しい言動を浴びせられる一因(たとえば、何度指導してもミスが繰り返される等)となったと思われる言動がみられることも多くあります。  


また、受け手(被害者)が精神的な問題を抱えていて、それに上司が対応しきれずに受け手(被害者)がパワハラ(パワーハラスメント)を受けたと感じてしまったと思われる事案もあります。  


このように、パワハラ(パワーハラスメント)には、パワハラ(パワーハラスメント)が起きた背景があり、これを無視して行為者(加害者)を処分するだけでは、事態の根本的な解決にならないこともあります。  


裁判だけではなく、社内でパワハラ(パワーハラスメント)が起きた時は、事実確認だけではなく、パワハラ(パワーハラスメント)が起きた背景も丁寧にヒアリングする必要がここにあります。  



 4. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に見られる言動


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に見られる言動

どのような言動がパワハラ(パワーハラスメント)に該当するか分からないという人は多くいると思います。裁判例が不法行為にあたると認定した行為者(加害者)の言動(違法といえるパワハラ)について参考にすると、職場で起きている言動がパワハラ(パワーハラスメント)に該当するか、しないかの判断材料に用いることができます。  


職場のパワハラ(パワーハラスメント)相談窓口における事実確認の時も受け手(被害者)からは、裁判例などにみられるように「具体的」に聴き取りをすることが重要です。ただ、「人格を否定されました」だけでは、十分な証拠にはなりえず信用性を肯定することも難しくなります。パワハラ(パワーハラスメント)には、受け手(被害者)の「過剰反応」ともみられる事案があり、裁判例でも、受け手(被害者)がパワハラ(パワーハラスメント)と主張した言動は不法行為には当たらないと判断しているケースがありますので参考にしてください。



 5. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に発展した経緯


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裁判に発展した経緯

裁判に至る背景は裁判により異なりますが、管理職や事実調査の担当者らの対応ミスによって、訴訟に発展したと思われるケースがあります。例えば、懇親会の席での管理職から部下へのパワハラ(パワーハラスメント)を社員間の個人的な問題と判断した会社が十分な被害者対応をしなかったために、被害感情が悪化した被害者が退職後に管理職と会社を被告として訴訟提起した事案があります。また、事実確認担当者が被害者に不用意な発言をしたことで被害感情が悪化した事案などもあります。  


これとは対象的に、裁判には至ってはいるが、受け手(被害者)からの通報・相談をきっかけとして使用者が事実確認を適切に行い、行為者(加害者)を処分しているケースもあります。これらの使用者の対応は、パワハラ(パワーハラスメント)事案が発生した場合の事実確認や被害者・行為者(加害者)に対する実際の対応例として参考にしてください。  



 6. パワハラ(パワーハラスメント)の裁判で採用される証拠


■ パワハラ(パワーハラスメント)の裁判で採用される証拠

パワハラ(パワーハラスメント)の訴訟は、客観的証拠が少ないため、下級審と上級審とでパワハラ(パワーハラスメント)の言動があったと認定するかの判断が分かれるケースも多くみられます。組織で事実調査をしたところ、受け手(被害者)が主張する行為者(加害者)の言動があったと認めてよいか迷うこともあります。  


裁判所が、どのような証拠に基づいてパワハラ(パワーハラスメント)の言動があったと認定したのか、また、被害者の供述の信用性をどのようにして判断したのかがわかる部分について、裁判例を参考に組織の相談対応としての事実確認をする際の参考にしてください。  



 7. パワハラ(パワーハラスメント)の民事上の損害賠償責任


■ パワハラ(パワーハラスメント)の民事上の損害賠償責任

パワハラ(パワーハラスメント)行為をした者は、民法上、不法行為責任を負う(民法709条)可能性があり、その場合は、受け手(被害者)の損害に対して賠償する責任が発生します。  


一方、会社も、民事上の損害賠償責任が発生します。その構成に「不法行為責任」と「債務不履行責任」の二つが考えられます。  


不法行為責任においては、使用者責任(民法715条)が問題になることが多いといえます。特に、パワハラ(パワーハラスメント)の場合は、業務指導の一環としてなされた行為が問題となることが多いと想定されるため、「事業の執行につき」の要件を満たすことが多くなります。その場合、使用者は、損害賠償責任を負い、その損害賠償の範囲は、不法行為責任を負うパワハラ行為者(加害者)本人と同じものです。   


もう一つの債務不履行責任とは、企業に配慮義務の違反があるとして、その債務不履行に基づく損害賠償責任(民法415条)を負わせるという考え方になります。安全配慮義務(労働契約法5条)を、パワハラ事案に即して、より具体化した配慮義務ともいえます。同条をさらに進めて、人格的利益(良好な職場環境で働くという利益)が不当に侵害されないよう配慮する義務があるとする考え方です。 



 8. パワハラ裁判例~いじめの口裏合わせで自殺2350万円賠償~


■ パワハラ裁判例~いじめの口裏合わせで自殺2350万円賠償~

  • 判例のポイント
    • 閉鎖的な職場における上司による悪質な「いじめ」(精神的な攻撃)と、同僚間での口裏合わせによって受け手の訴えが握りつぶされたことなどにより、受け手の自殺に至った事例で、市に対し、約2350万円の支払いを命じた判例。

    • 使用者(市)の安全配慮義務違反により、市の自殺に対する損害賠償責任が認められている。

    • 調査担当者は、相談者に対する事情聴取を実施せず、しかも行為者自身に調査を指示するという不適切な事実調査を行ったうえで、いじめがなかったと判断してしまっている。

    • 使用者が市のため。国家賠償法1条1項の責任の問題となっている。


  • 行為者(加害者): D1(工業用水課課長)・D2(同課事務係係長)・D3(同課事務係主査)

  • 受け手(被害者): V(市職員。昭和63年採用、平成7年5月に工業用水課に異動し配管工事員として勤務。平成9年3月に自殺 )

  • 勤務先: 市水道局の工業用水課の事務室(職員数10名)


  • 背景等
    • Vが工業用水課に異動する前、市が計画した工事の施工のため、工業用水課工務係主任らが、Vの親に対し、工事用地として同親の耕作地を貸してほしい旨申し入れ交渉したが、同親が断り、Y市は他の土地を借りたため、工事費が増加したという出来事があった。

    • Vは無口で内気な性格であり、工業用水課に異動したVは、同課の歓送迎会で、上司から上記の出来事を聞き、同課全体の雰囲気が必ずしも自分を歓迎していないことを知るとともに、負い目を感じた。

    • 工業用水課は、主にD3主査を中心にD1課長ら3名によって課の雰囲気が作られる面があった。

    • D3主査は、物事にはっきりした人物で、地声も大きく、大きな音を立ててドアを開閉したり、スリッパの音を立てて歩くなど動作も大きいところがあり、内気でぼそぼそと話すVに対し、「もう少し聞こえる声で話してくれよ。」などと言ったこともあり、Vは、D3主査の言動に驚き、接し方が分からないような様子を見せていた。

    • Vには、本件いじめ以前には業務遂行上の目立った問題行動は見られなかった。


  • Dらの言動
    1. D1ら3名が、平成7年5月に工業用水課に配転されたVに対し、異動の翌月ころから、聞こえよがしに、「何であんなのがここに来たんだよ」、「何であんなのがAの評価なんだよ」などと言った。

    2. D3主査が、同僚Fと下ネタ話をしていたとき、会話に入ってくることなく黙っているVに対し、「もっとスケベな話にものってこい」、「F、Vは独身なので、センズリ比べをしろ」などと呼び捨てにしながら猥雑なことを言った。また、Vが女性経験がないことを告げると、Vに対するからかいの度合いをますます強め、D3主査がFに対し、「Vに風俗店のことについて教えてやれ」「経験のために連れて行ってやってくれ」などと言った。

    3. D3主査が、Vを「むくみ麻原」などと呼んだり、Vが登庁すると「ハルマゲドンが来た」などと言って嘲笑した。

    4. D3主査が、ストレス等のためにさらに太ったVに対し、外回りから帰ってきて上気していたり、食後顔を紅潮させていたり、ジュースを飲んだり、からかわれて赤面しているときなどに、「酒を飲んでいるな」などと言って嘲笑した。

    5. 平成7年9月ころになると、いじめられたことによって出勤することが辛くなり、休みがちになったVに対し、D1ら3名は「とんでもないのが来た。最初に断れば良かった」「顔が赤くなってきた。そろそろ泣き出すぞ」「そろそろ課長(D1課長のこと)にやめさせて頂いてありがとうございますと来るぞ」などとVが工業用水課には必要とされていない厄介者であるかのような発言をした。

    6. 平成7年11月の合同旅行会の際、異動後初めての旅行だからと親から勧められて参加したVが、D1ら3名が酒を飲んでいる部屋に、休みがちだったことについて挨拶に行ったところ、D3主査が、持参した果物ナイフでチーズを切っており、そのナイフをVに示し、振り回すようにしながら「今日こそは切ってやる」などとVを脅かすようなことを言い、さらに、Vに対し、「一番最初にセンズリこかすぞ、コノヤロー」などと言ったり、Vが休みがちだったことについても「普通は長く休んだら手土産ぐらいもってくるもんだ」などと言った。


  • Vの状況
    • 合同旅行会以後、VはD3主査の前に出ると、一層おどおどした態度を見せるようになり、11月は半休を含め4日しか出勤しなかった。

    • Vは、市議会議員にいじめを受けていると訴え、同議員は、11月下旬ころ、D1課長と面談して、いじめの事実の有無を調査するよう申し入れた。

    • Vは、病院で心因反応と診断されて通院するようになり、同年12月には1日出勤したのみであった。


  • 使用者の対応等
    • Vが労働組合に職場でいじめなどを受けた旨を訴え、12月、実態調査を行うこととなった。

    • これを知ったD1課長ら3名は、「被害妄想で済むんだからみんな頼むぞ。」「工水ははじっこだから分からないよ。」「まさか組合の方からやってくるとは思わなかった。」などと、工業用水課の他の職員に対し、Vに対するいじめ、嫌がらせはVの被害妄想であり、Vを除く職員全員でいじめの事実を見聞きしたことはないと言えば、いじめはなかったことになる旨働き掛けるなどして、Vに対するいじめの事実がVの被害妄想であると口裏合わせをするように働きかけた。

    • 組合本部で、組合幹部、水道局職員課長GおよびD1ら3名の立会のもと、Vがメモを読み上げていじめを訴え、心因反応で1か月の療養を要するという診断書を提出した。D1課長は、錯覚であると答えるのみで、効果的な反論はしなかった。

    • Vの訴えを受け、G課長は、自らD1ら3名のほか工業用水課職員から事情聴取をするととみに、D1課長に対し、工業用水課の職員を中心にいじめを見聞したことがあるか否かを調査するように指示した。

    • しかし、G課長は、Vが欠勤を続けているということでVから直接事情を聴取することはなかった。

    • 調査の結果、G課長は、いじめの事実を自ら確認することはできなかった上、平成8年1月、D1課長からも同様の報告を受けたため、いじめの事実はなかったと判断した。

    • Vは平成8年1月には3日間(そのうち2日はそれぞれ半日のみ)出勤しただけであった。

    • 平成8年1月、市議会議員がD1課長に面談し、Vの希望に添って配置転換をしてほしい旨申し入れた。Vの親も、水道局総務部長に面談し、Vの机の中から遺書が出てきたと伝えた。

    • そこで、G課長とH係長がVの担当医師と面談し、Vの自宅を訪問した。その際に、Vが配置希望を出したが、「今休んでいるので、配置換えは難しい。」旨答えた。


  • Vの自殺
    • Vは、平成8年3月はすべて欠勤した。

    • Vは、同年4月1日に水道局資材課に配転されたが、4月に2日出勤したのみであり、それ以降12月までの間は出勤しなかった。

    • Vは、同年4月、2回にわたり、自殺を企てたが、未遂に止まった。

    • その後、VはA病院に2回入院(精神分裂病、境界性人格障害、心因反応と診断)、B病院に2回入院(精神分裂病、心因反応と診断)、クリニックで治療(心因反応、精神分裂病と診断)した。

    • Vは、平成9年1月に4日間(そのうち1日は半日のみ)出勤したのみであり、同年2月以降は出勤しなかった。そして、同年3月4日、自宅で首をくくって自殺した。


  • Vの遺族による提訴
    • Vの父母は、D1・D2・D3に対する不法行為による損害賠償請求と、市に対する国賠法1条1項による損害賠償請求をして、提訴した。


  • 判決の概要
    • 東京高裁は、市は安全配慮義務違反により、国家賠償法1条1項の責任を負うとして、合計約2350万円(Vの逸失利益+遺族固有の慰謝料合計約7100万円であるが7割減額し、弁護士費用合計220万円)の支払いを命じた(D1ら3名の個人責任は否定した)。


  • 理由:D1ら3名の行為について
    • 内気で無口な性格であり、しかも、工業用水課とVの親とのトラブルが原因で職場に歓迎されていない上、負い目を感じており、職場にも溶け込めないVに対し、上司であるD1課長ら3名が嫌がらせとしていじめ行為を執拗に繰り返し行ってきたものであり、挙句の果てに厄介者であるかのように扱い、さらに、同課における初めての合同旅行会に出席したVに対し、D3主査が、ナイフを振り回しながら脅かすようなことを言い、D1課長・D2係長も、D3主査が嘲笑したときに大声で笑って同調していたものであり、これにより、Vが精神的、肉体的に苦痛を被ったことは推測し得る。したがって、D1ら3名の言動は、Vに対するいじめというべきである(国賠事案であるため、D1ら3名は責任を負担しない)。


  • 理由:市の法的責任について
    • 工業用水課の責任者であるD1課長は、D3主査などによるいじめを制止するとともに、Vに自ら謝罪し、D3らにも謝罪させるなどしてその精神的負荷を和らげるなどの適切な処置をとり、また、職員課に報告して指導を受けるべきであったにもかかわらず、D3主査およびD2係長によるいじめを制止しないばかりか、これに同調していたものであり、G課長から調査を命じられていても、いじめの事実がなかった旨報告し、これを否定する態度をとり続けていたものであり、その結果、Vは、同課に配属されるまではほとんど欠勤したことがなかったにもかかわらず、まったく出勤できなくなるほど追い詰められ、心因反応という精神疾患に罹り、治療を要する状態になった。

    • Vの訴えを聞いたG課長は、直ちに、いじめの事実の有無を積極的に調査し、速やかに喜後策(防止策、加害者等関係者に対する適切な措置、Vの配転など)を講じるべきであったのに、これを怠り、D1課長ら3名などに対し面談するなどして調査を一応行ったものの、Vからはその事情聴取もしないままいじめの事実がなかったと判断し、いじめ防止策および加害者等関係者に対する適切な措置を講ぜず、Vの職場復帰のみを図ったものであり、その結果、不安感の大きかったVは復帰できないまま、症状が重くなり、自殺に至った。

    • 以上より、D1課長およびG課長においては、Vに対する安全配慮義務を怠ったといえる。

    • 精神疾患に罹患した者が自殺することはままあることであり、しかも、心因反応の場合には、自殺念慮の出現する可能性が高いことをも併せ考えると、Vに対するいじめを認識していたD1課長およびVの訴えを聞いたG課長においては、適正な措置を報らなければ、Vが欠勤にとどまらず場合によっては自殺のような重大な行動を起こすおそれがあることを予見することができた。また、上記の措置を講じていれば、Vが職場復帰することができ、精神疾患も回復し、自殺に至らなかったであろうと推認することができる。従って、D1課長およびG課長の安全配慮義務違反とVの自殺との間には相当因果関係がある。

    • よって、市は、安全配慮義務違反により、Vの自殺について、国家賠償法1条1項の責任を負う。


  • 理由:損害賠償額について
    • Vの逸失利益は約4700万円、Vの父母固有の慰謝料は合計2400万円とするのが相当であるが(合計約7100万円)、自殺は最後のいじめから1年以上後のことであり、配置転換や入通院を実施したが功を奏することなく自殺に至ったという事情等を考慮すると、Vの資質ないし心因的要因も加わって自殺への契機となったものと認められるから、上記損害額の7割を軽減するのが相当である(合計約2130万円)。これに弁護士費用合計220万円を認める。

    • 国賠事案であるため、D1らの個人としての不法行為責任は否定され、市の賠償責任のみが認められる(国賠法の解釈により、公務員個人は責任を負わないとされている)。



 9. まとめ

今回のコラムでは、パワハラ(パワーハラスメント)の裁判について詳しく解説してまいりました。組織のパワハラ(パワーハラスメント)相談窓口に寄せられた相談の初動対応を間違えると被害感情が悪化して裁判に至るケースも多くあります。パワハラ(パワーハラスメント)が起きた背景は事案により異なりますが、受け手(被害者)の心情に配慮しながら、パワハラ裁判事例を参考にしつつ、慎重に対応をすることが求められます。


近時は、パワハラ(パワーハラスメント)の事案が増えており、最悪のケースになると命を失う人も出てきます。パワハラ(パワーハラスメント)は企業と個人の存立に多大なる影響を及ぼすリスクの高い経営課題であると認識し、パワハラ裁判に至ることがないよう企業も従業員も尽力することが重要です。  



 最後に

パワーハラスメント(パワハラ)対策でお困りの企業様は、一般社団法人パワーハラスメント防止協会までご連絡ください。パワーハラスメント(パワハラ)加害者(行為者)更生支援研修、パワーハラスメント(パワハラ)防止研修をはじめ、パワーハラスメント(パワハラ)を防止するための各種サービスをご提供しております。日本全国の皆さまからのご連絡をお待ちしております。


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