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【パワハラ加害者・パワハラ行為者への対応方法の豆知識】
パワハラ加害者と会社が揉めた時の適切な対応徹底ガイド
パワハラ加害者と会社の間でトラブルが起きたとき、企業と加害者双方が取るべき手続き、注意点、法的責任、相談窓口、事前準備をわかりやすく解説。

- パワハラと会社の法的責任 — なぜ会社も争われるのか
- 加害者処分と解雇 — 有効に進めるための手続きと注意点
- 証拠収集と事実認定 — 会社・加害者双方の準備
- 会社がとるべき防止措置と再発防止体制の整備
- 第三者機関や窓口の活用 — 仲裁・相談・あっせんの可能性
- 示談・裁判・損害賠償 — 争いが長引いたときの対応
- まとめと今すぐできること
- よくある質問(FAQ)
パワハラと会社の法的責任 — なぜ会社も争われるのか
■ 会社も責任を問われる「使用者責任」「安全配慮義務」
職場で加害者(上司や同僚)がパワーハラスメント(以下「パワハラ」)を行った場合、本人だけでなく、加害者を雇用する会社も法的責任を負う可能性があります。具体的には、雇用主が「使用者責任」(民法715条1項)を問われる場合があり、不法行為(民法709条)や債務不履行(民法415条)として損害賠償請求が認められるケースもあります。
また、会社には労働者が安全かつ健康に働けるよう配慮する義務――いわゆる「安全配慮義務」があります(労働契約法第5条、労働安全衛生法第3条など)。もしパワハラを放置したり、防止措置を怠ったりした場合、この義務違反と判断され、損害賠償責任を負う可能性があります。
■ 実際に会社の責任が認められた裁判例
たとえば、過去には被害者が精神疾患を発症したケースで、会社の安全配慮義務違反を理由に約1100万円の賠償が認められた判例があります。
このように、パワハラは単なる個人的なトラブルではなく、会社全体の法的リスクにつながるという認識が必要です。特に、社内対応の不備、証拠の不収集、防止体制の欠如などがあると、会社として重大な責任を問われる可能性があります。
加害者処分と解雇 — 有効に進めるための手続きと注意点
■ 懲戒処分・降格・解雇 — 就業規則をまず確認
パワハラ加害者に対する社内処分としては、懲戒処分・降格・配置転換・解雇などが考えられます。しかし、これらを有効に行うには、事前に「就業規則」に懲戒の種類や事由を明記しておく必要があります。もし後から懲戒規定を追加しても、当該パワハラ発生以前の行為には適用できない場合があります。
■ 解雇をめぐる裁判の現実と慎重な判断の必要性
実際、パワハラを理由に解雇した事案でも、裁判所が不当解雇と認めたケースがあります。たとえば、ある企業がパワハラを理由に従業員を解雇しましたが、裁判所で「指導の範囲内」「懲戒手続きを適切に踏んでいない」などの理由で解雇を無効とされた例があります。
つまり、「パワハラをした」という理由だけでは即座に解雇が認められるわけではなく、公正な手続き、社内規定、証拠の裏付けが不可欠です。会社としては「感情」や「印象」だけで判断せず、慎重かつ適切なステップを踏む必要があります。
証拠収集と事実認定 — 会社・加害者双方の準備
■ 事実認定の重要性と公平な調査
パワハラの当否を判断するには、まず「事実認定」が不可欠です。たとえば、上司の注意指導の範囲なのか、あるいは行き過ぎた暴言・罵倒なのかを区別する必要があります。過去の裁判例では、「注意指導とパワハラの区別」が争点となった例があります。
会社として対応する場合は、客観的で中立な立場で調査を行うことが望ましく、関係者へのヒアリングや記録の収集、再発防止の観点からも慎重な手続きが求められます。
■ 証拠として有効なものと注意点
- 発言内容や出来事の日時、場所、誰がいたかなどを記録したメモまたはログ
- 可能であれば録音・録画(ただし、プライバシーや同意の問題もあるため事前確認が必要)
- メールやチャット、社内SNSなどの書面記録
- 心理的・身体的被害があれば、医師の診断書や通院記録
- 就業規則や懲戒規定など、社内ルールの写し
証拠が薄い、あるいは偏った調査をすると、後にトラブルが長引いたり、裁判で会社側が不利になる可能性があります。
会社がとるべき防止措置と再発防止体制の整備
■ 法律で定められた防止措置 — 相談窓口の設置義務など
日本では、労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)により、事業主にはパワハラの防止措置が義務付けられています。対策としては、パワハラ相談窓口の設置、再発防止のための研修や教育、就業規則の整備などが挙げられます。
■ 相談窓口の運用 — 内部と外部の両面での整備
相談窓口には、社内で対応する「内部相談窓口」と、外部の専門家や第三者機関に委託する「外部相談窓口」があります。内部相談窓口は人事部や法務部、産業医、労働組合などが担当することが多く、外部窓口には弁護士や社会保険労務士、コンサルティング会社などが挙げられます。複数の手段(対面、電話、メール、チャット等)を用意することで、相談しやすい環境を整備することが重要です。
運用する際は、相談者のプライバシーを保護する仕組み、不利益取扱いの防止措置、相談内容の記録と共有ルールなどをあらかじめ定め、関係者に周知しておく必要があります。
第三者機関や窓口の活用 — 仲裁・相談・あっせんの可能性
■ 社外相談窓口の利用 — 公的機関と人権相談の手段
会社内で対応が難しい、あるいは会社が加害者の肩を持つような場合には、公的な「相談窓口」の活用が効果的です。例えば、都道府県にある総合労働相談コーナーでは、パワハラを含むあらゆる労働問題について相談できます(電話または面談)。
また、みんなの人権110番(法務局)といった人権相談の窓口も利用可能で、ハラスメントや差別など人権侵害に該当する場合には支援が期待できます。
■ あっせんや仲裁 — 労働局による紛争解決の手段
社内外の解決が難しい場合、労働局で「あっせん(調整)」の手続きを依頼することができます。これにより、裁判ほど大げさでなく比較的スムーズに紛争解決を図れる可能性があります。相談の入口として総合労働相談コーナーが案内される場合も多く、相談員が状況に応じて適切な機関を紹介してくれます。
示談・裁判・損害賠償 — 争いが長引いたときの対応
■ 慰謝料・賠償金の相場と企業リスク
被害者がパワハラを理由に慰謝料や損害賠償を請求した場合、内容や被害の程度によって差があります。軽度なものでは30万円〜100万円程度という裁判例が多いものの、精神疾患や長期休職、自殺など深刻な事態に至った場合には高額な賠償(場合によっては1億円超)と認められた例もあります。
さらに、裁判になれば慰謝料のほか、治療費、休業損害、逸失利益などが請求対象となる可能性があります。会社にとっては、金銭的負担だけでなく、社会的信用の失墜や人材流出など、さまざまなリスクとなり得ます。
■ 示談交渉・裁判を見据えた対応 — 企業の戦略的判断
パワハラトラブルが示談で解決可能な場合、早期に解決することでコストや reputational risk(評判リスク)を抑えるメリットがあります。一方で、示談金の提示やその後の証拠隠滅・もみ消しがあれば、後々の裁判で不利になる可能性もあるため、示談条件は慎重かつ明文化することが重要です。
もし示談が難しい場合、裁判(民事訴訟)になるケースもありますが、その際にはこれまで収集した証拠、社内調査の透明性、防止措置の有無などが判決に大きく影響します。企業は治療や休職など被害者側の損害項目に対して責任を含めて対応する必要があるでしょう。
まとめと今すぐできること
- 会社は加害者個人だけでなく「使用者責任」「安全配慮義務」に基づき責任を問われる可能性がある。
- 加害者を処分・解雇するには、就業規則の整備と慎重な手続き、十分な証拠が不可欠。
- 事実認定と証拠収集は、公正かつ客観的に。調査記録を残すことが重要。
- パワハラ防止のために、内部/外部の相談窓口や体制を整え、従業員が相談しやすい環境を作る。
- 示談や裁判に備えて、慰謝料・賠償金の相場やリスクを理解し、戦略的に対応を検討する。
- もし社内で解決が難しい場合は、公的な相談窓口(総合労働相談コーナー、みんなの人権110番等)への相談を検討する。
今すぐできること
- 就業規則や懲戒規定を確認し、必要であれば整備する
- パワハラのあった日時・内容・関係者・証拠になりうる記録を整理・保管する
- 内部相談窓口や外部窓口を設置/見直す
- 従業員への研修や注意喚起の実施
- 万が一に備えて、顧問弁護士や社会保険労務士など専門家との連携を確保する
よくある質問(FAQ)
- Q. パワハラを理由に必ず解雇できるの?
- A. いいえ。就業規則や懲戒規定が整備され、公正な手続きと十分な証拠があって初めて、有効な解雇が認められる可能性があります。漠然と「パワハラだから」とだけで解雇すると、不当解雇と判断されるリスクがあります。
- Q. 社外の相談窓口に相談すれば、会社がすぐ処分される?
- A. 相談窓口(例:総合労働相談コーナー、みんなの人権110番)はあくまで助言・調整の窓口であり、必ず会社に処分を促せるわけではありません。ただし、客観的な第三者の関与によって、社内調査や改善が進むきっかけになることがあります。
- Q. 録音やメール以外に有効な証拠はある?
- A. はい。診断書や通院記録、休職記録、就業規則のコピー、さらに関係者の証言なども重要な証拠となります。特に心理的・身体的被害がある場合は医師の診断書が強力です。
- Q. 示談で解決する方が得なの?
- A. 示談は早期解決・コスト抑制・ reputational risk の回避につながる可能性があります。ただし、示談金の妥当性、再発防止の明文化、将来の紛争回避の観点から条件を慎重に検討する必要があります。
- Q. 会社側が防止策を取っていないと、どんなリスクがある?
- A. 法的責任だけでなく、裁判での賠償、外部への情報流出や信用喪失、人材流出、企業風土の悪化など、多方面のリスクがあります。
参考・情報源
- パワハラ防止法とは?パワハラに関する法律のわかりやすい解説 — 「企業弁護ドットコム」
- パワハラ(パワーハラスメント)を理由とする解雇の手順と注意点 — 「企業弁護ドットコム」
- パワハラの慰謝料の相場はいくら?5つのケース別に裁判例を — 「企業弁護ドットコム」
- 職場のハラスメント対策 — 厚生労働省
- パワハラの加害者に対する処分についてわかりやすく解説 — 「企業弁護ドットコム」
- パワハラは安全配慮義務違反?判例や防止策を解説 — Money Forward ビジネス
- パワハラ問題を労働基準監督署に相談して解決できること — Roudou-Pro コラム
- パワハラに対する損害賠償。企業の責任や裁判例に基づく慰謝料の相場を解説 — Law Bright
