パワハラ裁判例~いじめの口裏合わせで自殺2350万円賠償~ 

パワハラ裁判例~いじめの口裏合わせで自殺2350万円賠償~

パワハラ裁判例~いじめの口裏合わせで自殺2350万円賠償~

  • 判例のポイント
    • 閉鎖的な職場における上司による悪質な「いじめ」(精神的な攻撃)と、同僚間での口裏合わせによって受け手の訴えが握りつぶされたことなどにより、受け手の自殺に至った事例で、市に対し、約2350万円の支払いを命じた判例。
    • 使用者(市)の安全配慮義務違反により、市の自殺に対する損害賠償責任が認められている。
    • 調査担当者は、相談者に対する事情聴取を実施せず、しかも行為者自身に調査を指示するという不適切な事実調査を行ったうえで、いじめがなかったと判断してしまっている。
    • 使用者が市のため。国家賠償法1条1項の責任の問題となっている。

  • 行為者(加害者): D1(工業用水課課長)・D2(同課事務係係長)・D3(同課事務係主査)

  • 受け手(被害者): V(市職員。昭和63年採用、平成7年5月に工業用水課に異動し配管工事員として勤務。平成9年3月に自殺 )

  • 勤務先: 市水道局の工業用水課の事務室(職員数10名)

  • 背景等
    • Vが工業用水課に異動する前、市が計画した工事の施工のため、工業用水課工務係主任らが、Vの親に対し、工事用地として同親の耕作地を貸してほしい旨申し入れ交渉したが、同親が断り、Y市は他の土地を借りたため、工事費が増加したという出来事があった。
    • Vは無口で内気な性格であり、工業用水課に異動したVは、同課の歓送迎会で、上司から上記の出来事を聞き、同課全体の雰囲気が必ずしも自分を歓迎していないことを知るとともに、負い目を感じた。
    • 工業用水課は、主にD3主査を中心にD1課長ら3名によって課の雰囲気が作られる面があった。
    • D3主査は、物事にはっきりした人物で、地声も大きく、大きな音を立ててドアを開閉したり、スリッパの音を立てて歩くなど動作も大きいところがあり、内気でぼそぼそと話すVに対し、「もう少し聞こえる声で話してくれよ。」などと言ったこともあり、Vは、D3主査の言動に驚き、接し方が分からないような様子を見せていた。
    • Vには、本件いじめ以前には業務遂行上の目立った問題行動は見られなかった。

  • Dらの言動
    1. D1ら3名が、平成7年5月に工業用水課に配転されたVに対し、異動の翌月ころから、聞こえよがしに、「何であんなのがここに来たんだよ」、「何であんなのがAの評価なんだよ」などと言った。
    2. D3主査が、同僚Fと下ネタ話をしていたとき、会話に入ってくることなく黙っているVに対し、「もっとスケベな話にものってこい」、「F、Vは独身なので、センズリ比べをしろ」などと呼び捨てにしながら猥雑なことを言った。また、Vが女性経験がないことを告げると、Vに対するからかいの度合いをますます強め、D3主査がFに対し、「Vに風俗店のことについて教えてやれ」「経験のために連れて行ってやってくれ」などと言った。
    3. D3主査が、Vを「むくみ麻原」などと呼んだり、Vが登庁すると「ハルマゲドンが来た」などと言って嘲笑した。
    4. D3主査が、ストレス等のためにさらに太ったVに対し、外回りから帰ってきて上気していたり、食後顔を紅潮させていたり、ジュースを飲んだり、からかわれて赤面しているときなどに、「酒を飲んでいるな」などと言って嘲笑した。
    5. 平成7年9月ころになると、いじめられたことによって出勤することが辛くなり、休みがちになったVに対し、D1ら3名は「とんでもないのが来た。最初に断れば良かった」「顔が赤くなってきた。そろそろ泣き出すぞ」「そろそろ課長(D1課長のこと)にやめさせて頂いてありがとうございますと来るぞ」などとVが工業用水課には必要とされていない厄介者であるかのような発言をした。
    6. 平成7年11月の合同旅行会の際、異動後初めての旅行だからと親から勧められて参加したVが、D1ら3名が酒を飲んでいる部屋に、休みがちだったことについて挨拶に行ったところ、D3主査が、持参した果物ナイフでチーズを切っており、そのナイフをVに示し、振り回すようにしながら「今日こそは切ってやる」などとVを脅かすようなことを言い、さらに、Vに対し、「一番最初にセンズリこかすぞ、コノヤロー」などと言ったり、Vが休みがちだったことについても「普通は長く休んだら手土産ぐらいもってくるもんだ」などと言った。

  • Vの状況
    • 合同旅行会以後、VはD3主査の前に出ると、一層おどおどした態度を見せるようになり、11月は半休を含め4日しか出勤しなかった。
    • Vは、市議会議員にいじめを受けていると訴え、同議員は、11月下旬ころ、D1課長と面談して、いじめの事実の有無を調査するよう申し入れた。
    • Vは、病院で心因反応と診断されて通院するようになり、同年12月には1日出勤したのみであった。

  • 使用者の対応等
    • Vが労働組合に職場でいじめなどを受けた旨を訴え、12月、実態調査を行うこととなった。
    • これを知ったD1課長ら3名は、「被害妄想で済むんだからみんな頼むぞ。」「工水ははじっこだから分からないよ。」「まさか組合の方からやってくるとは思わなかった。」などと、工業用水課の他の職員に対し、Vに対するいじめ、嫌がらせはVの被害妄想であり、Vを除く職員全員でいじめの事実を見聞きしたことはないと言えば、いじめはなかったことになる旨働き掛けるなどして、Vに対するいじめの事実がVの被害妄想であると口裏合わせをするように働きかけた。
    • 組合本部で、組合幹部、水道局職員課長GおよびD1ら3名の立会のもと、Vがメモを読み上げていじめを訴え、心因反応で1か月の療養を要するという診断書を提出した。D1課長は、錯覚であると答えるのみで、効果的な反論はしなかった。
    • Vの訴えを受け、G課長は、自らD1ら3名のほか工業用水課職員から事情聴取をするととみに、D1課長に対し、工業用水課の職員を中心にいじめを見聞したことがあるか否かを調査するように指示した。
    • しかし、G課長は、Vが欠勤を続けているということでVから直接事情を聴取することはなかった。
    • 調査の結果、G課長は、いじめの事実を自ら確認することはできなかった上、平成8年1月、D1課長からも同様の報告を受けたため、いじめの事実はなかったと判断した。
    • Vは平成8年1月には3日間(そのうち2日はそれぞれ半日のみ)出勤しただけであった。
    • 平成8年1月、市議会議員がD1課長に面談し、Vの希望に添って配置転換をしてほしい旨申し入れた。Vの親も、水道局総務部長に面談し、Vの机の中から遺書が出てきたと伝えた。
    • そこで、G課長とH係長がVの担当医師と面談し、Vの自宅を訪問した。その際に、Vが配置希望を出したが、「今休んでいるので、配置換えは難しい。」旨答えた。

  • Vの自殺
    • Vは、平成8年3月はすべて欠勤した。
    • Vは、同年4月1日に水道局資材課に配転されたが、4月に2日出勤したのみであり、それ以降12月までの間は出勤しなかった。
    • Vは、同年4月、2回にわたり、自殺を企てたが、未遂に止まった。
    • その後、VはA病院に2回入院(精神分裂病、境界性人格障害、心因反応と診断)、B病院に2回入院(精神分裂病、心因反応と診断)、クリニックで治療(心因反応、精神分裂病と診断)した。
    • Vは、平成9年1月に4日間(そのうち1日は半日のみ)出勤したのみであり、同年2月以降は出勤しなかった。そして、同年3月4日、自宅で首をくくって自殺した。

  • Vの遺族による提訴
    • Vの父母は、D1・D2・D3に対する不法行為による損害賠償請求と、市に対する国賠法1条1項による損害賠償請求をして、提訴した。

  • 判決の概要
    • 東京高裁は、市は安全配慮義務違反により、国家賠償法1条1項の責任を負うとして、合計約2350万円(Vの逸失利益+遺族固有の慰謝料合計約7100万円であるが7割減額し、弁護士費用合計220万円)の支払いを命じた(D1ら3名の個人責任は否定した)。

  • 理由:D1ら3名の行為について
    • 内気で無口な性格であり、しかも、工業用水課とVの親とのトラブルが原因で職場に歓迎されていない上、負い目を感じており、職場にも溶け込めないVに対し、上司であるD1課長ら3名が嫌がらせとしていじめ行為を執拗に繰り返し行ってきたものであり、挙句の果てに厄介者であるかのように扱い、さらに、同課における初めての合同旅行会に出席したVに対し、D3主査が、ナイフを振り回しながら脅かすようなことを言い、D1課長・D2係長も、D3主査が嘲笑したときに大声で笑って同調していたものであり、これにより、Vが精神的、肉体的に苦痛を被ったことは推測し得る。したがって、D1ら3名の言動は、Vに対するいじめというべきである(国賠事案であるため、D1ら3名は責任を負担しない)。

  • 理由:市の法的責任について
    • 工業用水課の責任者であるD1課長は、D3主査などによるいじめを制止するとともに、Vに自ら謝罪し、D3らにも謝罪させるなどしてその精神的負荷を和らげるなどの適切な処置をとり、また、職員課に報告して指導を受けるべきであったにもかかわらず、D3主査およびD2係長によるいじめを制止しないばかりか、これに同調していたものであり、G課長から調査を命じられていても、いじめの事実がなかった旨報告し、これを否定する態度をとり続けていたものであり、その結果、Vは、同課に配属されるまではほとんど欠勤したことがなかったにもかかわらず、まったく出勤できなくなるほど追い詰められ、心因反応という精神疾患に罹り、治療を要する状態になった。
    • Vの訴えを聞いたG課長は、直ちに、いじめの事実の有無を積極的に調査し、速やかに喜後策(防止策、加害者等関係者に対する適切な措置、Vの配転など)を講じるべきであったのに、これを怠り、D1課長ら3名などに対し面談するなどして調査を一応行ったものの、Vからはその事情聴取もしないままいじめの事実がなかったと判断し、いじめ防止策および加害者等関係者に対する適切な措置を講ぜず、Vの職場復帰のみを図ったものであり、その結果、不安感の大きかったVは復帰できないまま、症状が重くなり、自殺に至った。
    • 以上より、D1課長およびG課長においては、Vに対する安全配慮義務を怠ったといえる。
    • 精神疾患に罹患した者が自殺することはままあることであり、しかも、心因反応の場合には、自殺念慮の出現する可能性が高いことをも併せ考えると、Vに対するいじめを認識していたD1課長およびVの訴えを聞いたG課長においては、適正な措置を報らなければ、Vが欠勤にとどまらず場合によっては自殺のような重大な行動を起こすおそれがあることを予見することができた。また、上記の措置を講じていれば、Vが職場復帰することができ、精神疾患も回復し、自殺に至らなかったであろうと推認することができる。従って、D1課長およびG課長の安全配慮義務違反とVの自殺との間には相当因果関係がある。
    • よって、市は、安全配慮義務違反により、Vの自殺について、国家賠償法1条1項の責任を負う。

  • 理由:損害賠償額について
    • Vの逸失利益は約4700万円、Vの父母固有の慰謝料は合計2400万円とするのが相当であるが(合計約7100万円)、自殺は最後のいじめから1年以上後のことであり、配置転換や入通院を実施したが功を奏することなく自殺に至ったという事情等を考慮すると、Vの資質ないし心因的要因も加わって自殺への契機となったものと認められるから、上記損害額の7割を軽減するのが相当である(合計約2130万円)。これに弁護士費用合計220万円を認める。
    • 国賠事案であるため、D1らの個人としての不法行為責任は否定され、市の賠償責任のみが認められる(国賠法の解釈により、公務員個人は責任を負わないとされている)。

Contact Usご相談・お問い合わせ

パワハラ行為者への対応、パワハラ防止にお悩みの人事労務ご担当の方、問題を抱えずにまずは私たちにご相談を。
お電話またはメールフォームにて受付しておりますのでお気軽にご連絡ください。

※複数の方が就業する部署への折り返しのお電話は
スリーシー メソッド コンサルティング
でご連絡させていただきますのでご安心ください。

※個人の方からのご依頼は受け付けておりません。

お電話でのお問い合わせ

一般社団法人
パワーハラスメント防止協会®
スリーシー メソッド コンサルティング
平日9:00~18:00(土曜日・祝日除く)
TEL : 03-6867-1577

メールでのお問い合わせ

メールでのお問い合わせ・詳しいご相談
はメールフォームから

メールフォームはこちら