パワハラ被害者はパワハラ加害者のように更生しなくていいのか?

パワハラ被害者はパワハラ加害者のように更生しなくていいのか?

Column –
【パワハラ加害者・パワハラ行為者への対応方法の豆知識】
パワハラ被害者はパワハラ加害者のように更生しなくていいのか?

パワハラ被害者は加害者のように更生する必要があるのかを専門的に解説。責任の所在、心理的影響、回復支援の在り方を公的根拠に基づき明確化し、被害者が抱きやすい誤解や二次加害の防ぎ方もわかりやすく整理します。

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パワハラにおける「加害者の更生」と「被害者の回復」はまったく別物である

パワハラスメントが発生した場合、組織内で議論されるのは主に加害者側の再発防止教育・指導・更生プログラムです。これは、加害行為の抑止と組織のリスク管理の観点から必要とされています。一方、被害者に対しては「落ち込んでいる」「メンタルが弱い」「自分も変わるべきではないか」など、誤った期待や誤解が向けられることがあります。

しかし、公的機関の調査や産業保健領域の研究では、パワハラ被害者に“更生”という概念を適用すること自体が誤りだと明確に示されています。加害者が行動変容を求められるのに対し、被害者は被害体験によって心身に影響を受けた存在であり、変わるべきは被害者ではありません。

加害者の更生とは「行動の改善」

加害者は組織から見て「リスク要因」であり、再発防止の観点から行動変容プログラムが必要となります。これには以下が含まれます。

  • コミュニケーション再教育
  • アンガーマネジメント等のトレーニング
  • 評価制度や配置転換などの管理的措置

被害者に必要なのは「心身の安全確保と回復支援」

被害者は不適切な行動の被害を受けた側であり、その目的は「正常な生活・業務への回復」であって「更生」ではありません。心理学・産業保健の領域では、被害者支援は以下の三本柱が基本とされています。

  • 安全の確保(環境整備)
  • 心理的ケア
  • 職場復帰支援や働き方の調整

 

被害者が「更生しなくていい」理由:責任の所在と心理的影響

被害者が「自分が変わらないといけない」と感じる背景には、パワハラの構造的特徴があります。パワハラはしばしば、被害者に自責感無力感を植え付けるため、被害が深まるにつれて被害者自身が「自分に原因があるのでは」と思い込みやすくなります。

理由①:責任の所在は加害者にある

パワハラは労働法・安全配慮義務の観点から、加害者が行った行為が問題の本質です。行為を受けた側ではなく、行為を行った側が責任を負う構造です。そのため、被害者に「更生」が必要だとする考え方は法的枠組みに反します。

理由②:被害者の行動は「適応反応」である可能性が高い

パワハラ下での萎縮・反応の鈍り・怒りの抑制などは、心理学的に「サバイバル反応」(身を守るための反応)として説明されます。これは異常ではなく、むしろ人間として自然な反応であり、「改善すべき欠点」ではありません。

理由③:被害者に“更生”を求めることは二次加害につながる

「あなたも変わる努力をすべきだ」という発言は、被害者の負担を増やし回復を妨げます。公的ガイドラインでも、被害者への二次的な圧力が深刻な健康被害や長期離職につながると指摘されています。

 

被害者に必要なのは「更生」ではなく「回復」──科学的根拠からみる支援の必要性

パワハラ被害は、心身に長期的影響を残すことが知られています。国内外の研究では、被害経験は以下のリスクを高めると報告されています。

  • うつ症状
  • 不安障害
  • 睡眠障害
  • 集中力の低下
  • 離職意向の上昇

これらは「性格が弱いから起きる」のではなく、ストレス環境による生理・心理的影響です。したがって、被害者に必要なのは「矯正」や「更生」ではなく、以下のような回復プロセスの支援です。

回復ステップ①:安全の確保

同じ加害者と働き続ける場合、心身の改善は困難になります。産業保健の専門家は、まず環境調整を優先することを推奨しています。

回復ステップ②:心理的ケア

カウンセリングや認知行動療法など、科学的根拠のある支援が有効とされています。これは「治さなければならない欠点」ではなく、外傷経験のケアに近い位置づけです。

回復ステップ③:働き方や役割の調整

一時的な業務量の調整や配置転換が有効なケースもあります。これは被害者の保護であり、更生ではありません。

 

被害者が抱えやすい誤解と心理反応:自責・適応的サバイバル反応

パワハラ被害者が「自分も悪かったのでは」「自分も変わる必要があるのでは」と感じやすい理由には、心理学的メカニズムがあります。

誤解①:「自分にも至らない点があった」

被害者は状況をコントロールしたいという自然な欲求から、自責感を抱きやすくなります。しかし、行動の原因は加害者にあります。

誤解②:「自分が強ければ傷つかなかった」

被害者の強弱とは無関係に、パワハラ行為は精神健康に影響を与えます。人間の神経系が脅威に反応するのは生理的プロセスであり、強弱の問題ではありません。

誤解③:沈黙・我慢は「弱さ」ではなく「生存戦略」

「言い返さなかった自分が悪かった」という声も多く聞かれます。実際には、反論すれば状況がさらに悪化する可能性があるため、人は本能的に沈黙や回避を選択します。これは弱さではなく、危険から身を守る自然な反応です。

 

組織が行うべき支援:再発防止、責任の明確化、安全の回復

パワハラ問題において組織が負うべき役割は大きく、被害者に更生を求める余地はありません。組織の義務は、以下のような構造的な解決策を講じることです。

組織が行うべき対応

  • 事実確認と迅速な調査
  • 加害者への指導・措置
  • 被害者の安全配慮(席替え、配置転換、業務調整など)
  • 産業医面談や社外相談窓口の提供

これらはすべて組織側の責任として国のガイドラインにも明記されており、被害者が「変わる」必要はありません。

 

回復のステップ:具体的な行動と専門支援の使い方

ステップ①:記録を残す

メモやメール、音声など、事実の記録は自責感の軽減にも役立ちます。状況の可視化は被害者の心理的安定に寄与します。

ステップ②:信頼できる第三者へ相談

社内の人事部門、産業医、外部相談窓口などへ相談することで、心理的負担が軽減します。被害者がひとりで抱え込む必要はありません。

ステップ③:心理的ケアを受ける

相談は「病気の治療」ではなく、外傷経験に対する自然なプロセスです。専門家の支援は回復に有効です。

ステップ④:働き方の調整を検討する

必要に応じて、人事制度上の調整や産業医の意見書を活用することもできます。これは権利であり、更生ではありません。

FAQ:よくある質問

Q1. 被害者も「改善」しなければ再発するのでは?

再発防止の責任は加害者と組織にあります。被害者側が改善しなければならないという考えは誤りです。

Q2. 被害者のメンタル不調は性格の問題では?

心理的影響はストレス反応であり、性格の強弱とは無関係です。

Q3. 相談すると「大げさだ」と言われそうで不安です

公的機関は相談を推奨しており、相談することは正当な行動です。

Q4. 加害者が変わらない場合はどうすればいい?

組織側が環境調整を行う必要があります。被害者が努力する必要はありません。

Q5. 被害者が「休む」ことは甘えでは?

心身の安全確保は回復の必須プロセスであり、甘えではありません。

まとめ

主要な学び

  • 加害者の更生と被害者の回復は本質的に異なる
  • 被害者が変わる必要はなく、責任は加害者側にある
  • 心理的反応は自然なサバイバル反応であり欠点ではない
  • 組織は環境整備と再発防止の義務を負う
  • 被害者が必要とするのは「回復支援」であり「更生」ではない

読者が今すぐできること

  • 自責感を手放し「責任の所在」を正しく理解する
  • 相談窓口や専門機関に早めに繋がる
  • 事実を記録し、状況を可視化する
  • 心理ケアを遠慮なく利用する

参考・情報源

  • 厚生労働省「職場のハラスメント対策」 https://www.mhlw.go.jp
  • 独立行政法人労働政策研究・研修機構「職場のハラスメントに関する調査」 https://www.jil.go.jp
  • 世界保健機関メンタルヘルス関連リソース https://www.who.int
  • 国立研究開発法人 産業医学総合研究所「労働者のメンタルヘルス研究」 https://www.jniosh.johas.go.jp

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